実は「焦る」と一言にいっても色々種類があって、それによって焦りやすい性格も違えば、対策も変わってきます。
今回は「今日は落ち着いて対応できたかも」と思える瞬間を増やしていけるように、焦りやすい自分の特徴、原因と対策などをご紹介します。

日本人はいろいろな場面で「焦る」という言葉を使いますが、実は英語に「焦る」という単語はありません。
英語は「イライラした」「必死で取り組んだ」「パニックになった」など、より具体的な気持ちや行動を伝えることが多いようです。
「焦り」についての一貫した定義はないものの、東京大学の先行研究の調査では、「焦り」には感情・行動・エラーの3つのパターンがあると指摘しています。
まずは「なんとなく焦る」のではなく「何に対してどう焦っているか」を知ることから始めましょう。
「どうしよう」という焦燥感は「焦:あせる」「燥:落ち着かない」感情、すなわち実現したいこと、しなければいけないことがある中で、自分の思い通りにならないことを思いわずらう感情と言えます。
焦燥感というのは単に時間が足りないからではなく、他者の介入や視点があることが強く影響しています。
行動基準が他人軸に移行しやすいため、自分らしい選択や行動ができないことから、落ち着かなさやソワソワする感じが増えてしまうということです。
他人軸とは、他人の評価のために行動したり、他人を優先して自分の気持ちを後回しにすることを指す言葉で、自分と他人の境界線があいまいになる原因の一つでもあります。
例えば、今日中に終わらせてほしい仕事を急に上司から頼まれたときなどは、自分軸VS他人軸を比べると
優先順位:自分で立てた計画VS依頼された仕事
プロセス:自分のペースVS終わらせなければいけない
モチベーション:自分のためVS上司のため
のように、急な出来事は自分軸で流れていた時間を他人軸に変える作用があります。
そのため、他人を満足させるための考えや行動が焦りとしてあらわれるということです。
急な出来事以外にも、自分に対する自信のなさや失敗することへの恐れなどは、他人の評価を気にするという他人軸に由来する「焦り」であることが多いのです。
時間不安とは心理学用語で、慢性的に「時間がない」「時間が足りない」といった時間経過自体を脅威の対象とした不安のことですが、例えば今日中に終わらせなくてもよい仕事を上司から頼まれたときに、時間不安を感じにくい人は、「今日中に終わらせなくていいのなら、今やってる作業をこのまま先にやって、それが終わってから予定を立て直せばいいかな」と考えます。
しかし時間不安を感じやすい人は、また新しい仕事!アレもしなきゃいけないしコレもまだ残ってるのに!これ以上どうやって早く仕事すればいいんだ!」というように、何をするにも時間に追われている感じがあるため、落ち着いた判断や行動がしづらいのです。
また、焦りやすい人は失敗に対する感受性がとても高く極度に失敗を恐れる傾向にあります。
このような人は、他人からのアドバイスやフィードバックを注意や叱責と思い込んでしまうため、「責められている」という感覚が先に立ち焦りを生むと考えられます。
例えば「ここはこうした方がいいかも」と先輩にアドバイスされたときに、失敗をあまり恐れない人は、「ああそうか。確かにこっちの方が効率的かも」と素直に思いますが、失敗を恐れる人は、「また注意された…もうどうしていいかわからない」と受け取ってしまうのです。
他人からの批判に敏感な人は、実は完璧主義だったりこだわりが強いことが多く、個人の強い信念が状況に対する許容範囲を狭めてしまっていることで、自分で焦りを感じやすくしている場合もあります。

「焦りやすい」性格は遺伝的なものから生育環境、今おかれている環境など、さまざまな変数の影響を受けています。
どれかひとつによる原因というよりは、いろいろな原因が少しずつ影響しあっているので、「自分の原因コレだ!」と決めつけずに、色々な可能性を想像してみましょう。
原因1.承認欲求が強い
承認欲求は「認められたい願望」のことです。
人から認められたいという思いが強い人は、成長や上昇志向が高い一方で、人からの評価を気にしすぎてしまったり、そのために行動が他人軸になってしまうことが、焦りの原因になっている場合があります。
また、「うまくやらなければいけない」という強迫観念が、自分を追い込むことで焦りを増強させてしまうことになりかねません。
原因2.心の安全が足りない
承認欲求は他者に認められることで外部から落ち着きを得ようとする一方、自分の心の中に安全があるかどうかも、焦りやすさには影響しています。
安全基地は、発達心理学者のメアリー・エインスワースによって提唱された概念で、安心感や心地よさが保証された環境を意味します。
小さい頃に信頼できる養育者がいることで、外で何が起きても大丈夫という感覚が育まれ、「きっと大丈夫」という感覚が焦りにとって一番の薬でありお守りになります。
しかし逆に、安全基地が弱いまま大人になるとその感覚が欠けているため焦りやすさにつながってしまうのです。
原因3.環境の安全が足りない
心理的安全性は、同僚や友人が互いに気兼ねなく意見を伝えあい、協力し合い、罰せられることがないと信じられる状態のことを指しますが、焦らず行動するには落ち着ける環境が必要です。
「そんなことも知らないの?」
「こんなこともできないの?」
「もっとポジティブに考えられないの?」
などと言われてきた人は、自分のしていることに自信を持てず、常に否定されることに身構えている状態なので、些細な指摘や注意にも過剰に反応し焦ってしまいます。
焦ってしまうのは自分が弱いとか落ち着きがないからだけでなく、今いる自分の環境とも関係があるのです。
原因4.器質的要因
焦りやすさはこれまでの経験や人間関係が影響している一方、器質的に焦りやすいという場合もあります。
心理学者のローゼンマンやフリードマンによって定義されたタイプA行動パターンは、時間に対する切迫感や仕事への責任感が強い性格を指していますが、時間不安から焦りを感じやすい人はこのパターンであることが多いようです。
ADHD傾向のある人も、集中力や気が散りやすい影響から些細なことで焦りやすいかもしれません。
もしくは焦っていないとしても行動の移り変わりが早いので、焦っていると誤解される可能性もあります。
また、周囲に大勢の人がいるなど特定の場面での不安から焦りを感じやすいとか、場面に関わらずあらゆることに不安を感じるという人は、社交不安障害や全般性不安障害などの可能性もあります。
焦りやすさから慢性的な不安を感じるようになり、食事や睡眠といった日常生活にも支障をきたすような場合は、専門家や医療機関に受診することも考えましょう。
原因5.自己肯定感とプライドの解離
焦りやすい人は「自分に自信がない」ことには同意できても、「プライドが高い」と言われてもピンとこないかもしれません。
しかし焦りは、実は自己肯定感の低さとプライドの高さが解離していることから生まれている場合もあります。
プライドが高いことを単に「生意気」とか「口だけ偉そう」といったネガティブに捉えられることがありますが、本来のプライドは「誇り」という意味があります。
ここでの自己肯定感は「どんな自分も受け入れられる」ことで、プライドは「自己評価」と考えてください。
自己肯定感とプライドが高いところで一致している人は、他人からの指摘も素直に受け入れられ、指摘自体を鵜呑みにすることなく、何が最善なのかを吟味できるから落ち着いていられます。
自己肯定感とプライドが低いところで一致している人は、自己評価の低さや自分の仕事に誇りを持てないことから「自分は間違えていた」と相手のアドバイスをすんなり受け入れられるかもしれません。
一方、自己肯定感が低くプライドが高い人は、「もっとできるようにならなきゃいけない」とか「自分だって頑張ってるんだ」という自己評価や誇りがあるところに、他人から注意された自分を受け入れられない状況が、どう反応して良いか分からず「焦り」になっている可能性があります。
自分の仕事や行動に誇りを持つことはとても大事だし、たとえ焦りやすいとしても、誇りをもって生きている自分のことはたくさん認めてあげてください。

焦ってるときに「落ち着いて」と言われても、「それができないから今焦ってるんだよ!」と言いたくなるもの。
焦りに対する対策は普段からの意識や心がけがポイントになり、それがいざ焦ったときに「自分のままでいられる」ことにつながります。
1.深呼吸をする
焦りを感じているときは強いストレスの下にあるため、「落ち着けば大丈夫」のように論理的に考えるより、ゆっくり深呼吸をする方が効果的です。
脳がストレスを感じているときは、合理的思考を司る脳の部分である前頭前皮質の機能が低下しているので、理路整然としたアドバイスを受け取りづらくなっています。
心理学者のP・フィリップ氏らの研究で、人の呼吸は喜びを感じているときは規則正しく、深く、ゆっくりしているのに対して、不安や怒りを感じているときは不規則で、短く、速く、浅くなるとし、呼吸のパターンによって感情が変化すると言っています。
つまり、焦りを感じて早く短くなった呼吸を、意識してゆっくり長く深呼吸をすることで、平穏な感情に戻せるということなのです。
人は息を吐くときに心拍数が下がることがわかっているから、吸うよりも吐くときに時間をかける(4秒かけて吸い8秒かけて吐くイメージ)のがおすすめです。
2.イメージトレーニングをする
イメージトレーニングは気持ちを明るくさせるだけでなく、実際に人の能力を向上させるという研究がいくつもあります。
医学博士であるマクスウェル・マルツの実験では、バスケットボールのフリースローを実際に練習した人とイメージトレーニングだけした人では上達率がほぼ同じで、自信にあふれた姿勢は実際に気持ちを落ち着かせるという研究もあります。
焦りやすい人は、注意される状況になることへの恐怖心から不安を感じやすく、普段から悪い想像をしたり、弱気でネガティブな態度になっていることもありあります。
感情をコントロールするのは難しいですが、想像するだけなら自由にできて気持ちも楽でしょう。
指摘されたときに冷静でいる自分をイメージしたり、普段から少しだけ背筋を伸ばしてみたりすることで、少しずつあたふたしない自分に変わっていくことができるでしょう。
3.「なぜ」を言える準備をする
焦らず冷静でいるために大事なのは、「なぜ自分がこれをしたのか」を言葉で伝えられるようにしておくことです。
注意や指摘を受けるときは、自分のしたことに対して何か言われることが多いですが、そのときに、普段から自分の選択や行動の理由を言えるようにしておくことで、指摘されたときに口ごもらず説明ができ、驚くほど冷静でいられるようになります。
また「なぜ自分がこれをしているのか」ということを普段から言語化しておくことで、行動に一貫性が増し、仕事の質も上がり指摘されることも少なくなると思われます。
4.自分軸を強くする
心理学者のJ・ホームズは、メンタライゼーションが低い人は他人軸になりやすいと言っています。
メンタライゼーションは精神分析家のP・フォギナーが提唱した概念で、「自分が感じていることについて考えること」や、「考えられたことについて感じること」など、自分や他人について外側やより高い位置から見るようなことを指します。
たとえば、焦ったときの自分の感情や考えを後から探索したり、逆に指摘してきた相手の気持ちや考えを想像したりすることです。
焦りは他人軸になることで生まれるので、自分軸を強くするには「自分を知ること」が重要なのです。
5.正直になる
焦らない人間になるために必要なことは、最終的には「正直になる」ことかもしれません。
注意や指摘されると、「自分のやったことを評価されなかった」と思うかもしれませんが、それはあくまで一時的なことで、仕事の評価は必ずしもやったことだけでは測れないません。
仕事で評価されていないことを正直に受け入れることで、誠実な人として認められることも大切なのです。
多くの仕事はチームワークや誰かと連携してやるものです。
ただ有能なだけでは良い仕事はできませんし、自分のミスや間違いを正直に認める誠実な人柄は、有能と同じくらい評価に値します。
指摘されることで刺激された警報は、まずは正直になることで速やかに解除していきましょう。
あとでゆっくり落ち着いたときに振り返ることで、より質の高い内省と理解が、その後の仕事の質も上げてくれるはずです。

まとめ
「自分を認めてほしい」という思いや、「責められない・責められても大丈夫」という安全性が、自分の心や今いる環境に足りないこと、自己肯定感とプライドに差があることなどが、焦りを生む原因になっているのです。
焦りやすい性格をすぐに変えることは簡単ではありませんが、漫然と働いたり、理由なくハードワークするのではなく、その時々で自分の考えや気持ちなどを丁寧に観察しながら、自分のしていることに意味を付け加えることで、しっかりした自分軸を作れるようになりましょう。