ここ20年で栄養学の常識は大きく変わり、新しい栄養常識を知らずに旧来の知識のまま、よかれと思って食べ続けていると、知らないうちに健康が損なわれていくかもしれません。
今回は、管理栄養士の大柳珠美氏著書『糖質を“毒”にしない食べ方』(青春出版社)より、中高年の健康寿命について「食」の観点からご紹介します。

私たちの心も体も「食べたもの」から作られています。
「お腹いっぱいになればいい」「好物ばかり食べていたい」と、「食」に無頓着では残念ながら健康な体を作ることはできません。
今の時代は、60歳から先の人生だってたっぷりあります。
共働きの子ども夫婦のため孫の育児をサポートする方もいれば、家事をこなし、外で働く方もおられるでしょう。
語学や地域の歴史など新しい学びの機会もあるかもしれません。
しかしどんなときも行動するためには体力が必要です。
若い頃から続けてきた趣味に没頭する時間がやっとできたという方も、そうなれば集中力や記憶力もキープしておきたいところです。
何を食べるか、何を食べないか。
これからの人生の豊かさを左右するのは「栄養の知識」なのです。

管理栄養士の著者は、栄養指導の際に、ご高齢の患者さんに感じる体力の差や不調がなかなか改善しない「不調高齢者」の食事に共通点を見つけます。
1.朝食をしっかり食べない
朝昼夜の理想的な比率は、「朝昼しっかり、夜軽め」です。
しかし、ほとんどの方が逆の「朝昼軽め、夜しっかり」と言う結果。
それで、軽めに済ませるために何を食べているかというと、それが2.3.につながります。
2.パンやシリアルが多い
1.の大きな理由は「調理が面倒だから」。
パンもシリアルも調理は不要ですし、日持ちするシリアルなら頻繁に買い足す必要もありません。
3.麺類が多い
朝がパンやシリアルなら「昼はちょっと料理を。でも簡単に」となり、パスタ、うどん、そば、夏ならそうめんと麺類が選ばれがちです。
レンジでチンするだけの冷凍麺や水で流すだけの麺も多用されています。
4.単品食べが多い
2.3.は典型的な単品食べです。 おかずがないためタンパク質や食物繊維が絶対的に不足しています。
「パンや麺よりお米」という方でも、食べるのが「おにぎり1個」では栄養不足に変わりはありません。
5.食事のリズムが不規則
食事時間が一定ではない、頻繁に食事を抜くといった生活は自律神経が乱れ、心身に不調をもたらします。
一度に食べられる量が減る年齢になれば規則正しく3食を摂ったうえで、さらに間食で栄養素を補わないと、栄養不良になる危険もあります。

若いときから食に興味がなくて「空腹感がなければいい」という方は、1.~5.のような食生活を長年続けてきていることがあります。
不調に見舞われると食への欲求はますます低下し、「缶詰を開けるのすら億劫(おっくう)」になるといいます。
育ち盛り、働き盛りの子どもに食生活を合わせる必要がなくなってから、だんだん1.~5.の食傾向となり、栄養不良から不調へと進む方もいます。
反対に元気な高齢者は、何といってもよく食べます。
食べることが好きで単品食べや食事を抜くことはなく、食材もバラエティー豊かです。
ステーキや焼き肉といった重めのタンパク質も好んで食べている印象があります。
食に対していい意味で貪欲なので、旬のものを欠かしません。
腸内環境、胃酸や胆汁酸の分泌能力など、持って生まれた資質のおかげで不摂生をしても健康面に影響が出にくい人もいますが、それも若い頃の話です。
60歳を過ぎたら日々の1食1食が健康状態に確実に反映されていきます。
それにここ20年で栄養学の常識は大きく変わりました。
例えば、昔よく言われたのが「1日30品目食べる」。
バランスがよくて健康につながると信じている方も多いと思いますが、厚生省(現厚生労働省)が1985年に推奨するようになったものの、現在では「30品目にこだわらず、いろいろな食材を食べることの目安に」と、だいぶゆるやかな表現に変化しています。
糖質をはじめとした栄養素が体に及ぼす影響が明らかになるにつれ、30品目も食べる必要はないどころか、肥満、胃腸の不調などにつながりかねないことがわかってきたからです。
これからは「1日30品目」に縛られて必死に調理したり食べたりする必要がないというのは朗報と言えるでしょう。
60歳以降の方々は、学校教育で「タンパク質=肉」「食物繊維=野菜」と教わったと思いますが、この古い情報によって選択肢が狭められ、調理負担が増えている側面もあります。
「タンパク質」は、肉・魚・卵・大豆製品のいずれからでも摂取できます。
このなかで最も準備が大変なのが肉です。
肉は調理に手間がかかり後片付けも面倒になるのに対し、刺身なら調理いらず。
卵はゆで卵にすれば包丁もまな板も不要です。
ゆで卵、煮卵、温泉卵は惣菜コーナーのレギュラーメンバーなので買って済ませることもできます。
さらに、納豆や豆腐にいたってはパックを開けるだけの手軽さです。
便通を促進し腸内環境を整える「食物繊維」は、生活習慣病の原因となる糖や脂質などを体外に排出してくれます。
積極的に摂っていきたい食物繊維は、野菜だけでなく、きのこや海藻にも豊富です。
なかでも海藻の手軽さはありがたいというもの。
焼き海苔(のり)1枚をご飯に添える、もずくのパックを開ける、糸寒天(いとかんてん)をみそ汁に入れる、ひじきならわざわざ煮なくてもパック製品で十分です。
きのこも海藻も乾燥タイプは日持ちがするので買い置きしておくとよいでしょう。
食材を乾燥させると栄養素が凝縮され、生で食べるよりも食物繊維などが豊富になる点も魅力的です。
さて、ここまで紹介した食材で朝食のメニューをつくってみましょう。
メインは納豆に生卵。
みそ汁は豆腐とワカメ。
箸休めにパックのもずくも添えましょう。
主食の白米がなくても、結構、お腹いっぱいになりそうですよね。
白米などの主食を抜くと食べた気にならないと思い込んでいる方もいますが、糖質制限の食事は結構ボリュームがあるのです。
では、このメニューを食べるとき、どの順番で食べればよいでしょうか。
多くの方が「栄養バランスよく食べるために三角食べをしなさい」と教わったと思いますが、三大栄養素であるタンパク質、脂質、糖質の体への作用が明らかになり、「栄養バランス」の考え方も変わりました。
新しい栄養バランスは「タンパク質はしっかり、脂質は種類を吟味して、糖質は控える」というもの。
三角食べで満遍なく食べても健康にプラスにはなりません。
このメニューならタンパク質をすべて平らげられるように「メインの納豆と生卵→豆腐とワカメのみそ汁→もずく」の順番がベストです。

まとめ
新しい栄養常識を知らずに旧来の知識のまま、よかれと思って食べ続けていると、知らないうちに健康が損なわれていきます。
まさに「知らぬが仏」で、1食ごとに本当に「仏」に近づく危険があるのです。
パンやシリアル、麺類などの常食は、栄養不良の原因になり、朝食を抜くなど不規則な食生活は自律神経を乱し、不調を呼びます。
古い健康情報は、すぐにでも更新させて心身ともに健康な老後を過ごせるように自分を導いていきましょう。