先輩としてなかなか言いたいことがうまく伝わらず、どう指導すればよいのかと、不安になったことがある方も多いのではないでしょうか?
今回は、新人社員に業務を教えたり、指示したりする際に、正確に伝えるために意識しておきたいポイントについて、JMAM「基本能力研究会」の著書『新人指導の教科書』より、詳しくご紹介します。
★ 「伝わらない「伝え方」改善のテーマ
テーマ1.「話の内容」の伝え方の工夫
テーマ2.「話し方」による伝え方の工夫
テーマ3.「論理的な構成」による伝え方の工夫
★ まとめ

新人を指導する場合に限らず、普段のコミュニケーションにおいても、「伝えたいことを伝える」手段の中心になるのが「話す」という行為です。
話すのが下手だから教えるのも下手だと落ち込む必要はありません。
話し方や使う言葉に少し注意するだけで随分と違ってくるものだからです。
そもそも話し手と聞き手の間には、知識や経験、立場の違い、相互の信頼の度合い、好き嫌いの感情などいくつかのフィルターが存在します。
よい話し手というのは、相手との間にあるフィルターを的確に把握して、相手に理解できるように話ができる人です。
たとえば、「まず、相見積りを取るように」と指示しても、相見積もりが何かわからなければ「相見積りって何だろう」とそこで新人の思考はストップしてしまいます。
その後のあなたの話は、頭に入ってこないでしょう。
ビジネスでは、正確に伝えることがもっとも大切です。
新人を指導する際は、つぎのことに留意してください。
1.使う言葉を選ぶ
専門用語や職場用語は、相手に合わせて簡易な言葉に翻訳する必要があります。
教える側が「知っていて当然」という態度で使うと、教わる側はその用語の意味を質問しづらくなります。
2.正確な表現を心がける
「もう少し早く」というような表現を例にとると、もう少しの範囲は人それぞれで差があり、軽く受け流す人もいれば、必要以上に深刻に考える人もいます。
このようなあいまいな表現で指示を出されると、新人も求められた動きが何なのか的確には把握できなくなり行動がとりづらくなってしまいます。
何を求めているかを正確に表現するように心がけましょう。
正確な表現を行うコツは、実例を引用したり、データを示したりして、より具体的に表現することです。
コストや時間、仕事量などの目標を与える場合も、数値化して示すのが基本です。
3.話す限界を認識する
微妙な動きや複雑な内容を言葉だけで伝えるには限界があります。
話して伝えられることには限界があることを認識したうえで、「どうすれば、もっとよくわかってもらえるだろうか」と考えることが大切です。
具体的には、言葉以外の手段、例えば表情、声のトーン、視線、姿勢、ジェスチャーなどで情報を伝え合うノンバーバル・コミュニケーションや図表、映像などを効果的に取り入れるとよいでしょう。
4.相手の理解を確かめる
話した内容が正確に相手に理解されているかどうかは、話した内容を何回かに区切って、質問し確認することによってわかります。
「ここまで理解できた?」と、イエス・ノーで答えさせるだけではなく、話した内容の要点を簡潔に答えさせる質問をしましょう。
テーマ2.「話し方」による伝え方の工夫
「話の内容」も大切ですが、同時にどういう話し方をするのかという「話し方」も重要です。
小さな声でボソボソ話したり、早口で抑揚のない話し方をしていては、自信も情熱も感じられず、相手の興味や関心を引きつけることはできません。
話し方で注意するのは一人ひとりにはっきり聞き取れる声で、ゆっくりと話すことが大切です。
1.場所と人数に応じてボリュームを調整する
1対1の会話は、お互いの距離が近く、相手だけに向かって話すことができますが、周囲が騒々しかったり、教える場所が広かったり、また、複数人を相手にするときは、意識的に大きな声を出すように心がけたいものです。
ただし、「教えてやる」と意気込んで、あまり大きな声を出すと、相手に威圧感を与えるので注意しましょう。
2.語尾をはっきり言う
日本語では、意思を表す言葉が語尾にあります。
「英会話ができる」「英会話ができない」など、語尾まで聞かないと言いたいことがわかりません。
聞き手側にも、人の話を最後まで聞く姿勢が求められますが、話し手側も、相手が正しく聞き取れるよう、語尾をはっきりと言うように意識するとよいでしょう。
3.間を取って話す
話すスピードと、理解するスピードは同じではありません。
早口で話すと、相手を落ち着かない気分にさせ、一つひとつ理解していくことができなくなります。
一つのことを話したら、つぎの話に移るまで、少し間を取りましょう。
うなずいたり、一度目をそらして再びあなたの目を見たりなど、そこまでの話を理解したサインを確かめながら、話を進めるようにします。
4.強弱のリズムをつける
抑揚をつけず、ダラダラと単調に話をすると、聞き手は集中力を持続させることができません。
また、話のなかの重要部分が、わかりづらくなります。
大事な部分では語調を強めたり、逆に弱めたり間を取ったりして、大切さを強調すると、伝えたいことが伝わりやすくなります。
テーマ3.「論理的な構成」による伝え方の工夫
仕事を進めるうえで求められる必須の能力として、「論理的思考力」が挙げられます。 話すときも、内容を論理的に組み立てて、重要なポイントを絞り込み、伝えたいことを強調することが大切です。
そのためには、話し手自身が話の内容を論理的に整理できていなければなりません。
そのために、つぎの点に留意しましょう。
1.話す前に構成する
話をするときは、話す時間の長さにかかわらず、必ず内容の組立てを行いましょう。
事前に準備をし、おおよその時間配分を考えます。
手短かに話を組み立てるには、序論・本論・結論を決めておきましょう。
序論では、雰囲気づくりとテーマへの導入を行います。
つぎに、具体例を示します。
「今日のミーティングの主旨は、新商品の紹介についてです。今週から、来月お客さまにご紹介する新商品のパンフレットの配布が始まります。Aさんにも、新たにやってもらいたい仕事があります」
本論では、テーマとなる主題・主張や理由・目的について話します。
「やってもらいたい仕事というのは、営業先リストの整理です(主題)。営業先リストの整理がなぜ必要か、 そう、営業先をいちいち調べて電話をかけていたのでは効率が悪いし、同じ相手に重複して電話したのでは、迷惑をかけることになるからです(理由)。営業が電話をかける準備のために、リストにまとめてもらいたい(目的)。ここまでは大丈夫?」
このように話の内容を整理して、筋道を立てて話を進めれば、相手も理解しやすくなるわけです。 データをリストの元データにするか、リストに整理する項目(会社名、担当者名、電話番号、後で相手の反応を記入する欄など)を何にするのか、といった具合に、具体的な仕事に落とし込んでいきます。
結論では、本論から導く要旨を話して結論としてまとめます。
「やるべき内容について、わからないことはなければ、具体的な作業の段取りについて考えてみてください。もし途中でわからないことがあれば、いつでも声をかけて質問するように」
2.ポイントを絞る
大事なことだからと、くどくど話しても、伝達する事柄が増えるほど、聞き手にとって情報の価値は下がります。
あれもこれもとポイントをたくさん盛り込むと、新人は消化不良を起こして理解できない原因となりかねません。
最低限、「これだけは覚えておいて」と思うポイントをあらかじめ絞っておきましょう。そして、そのポイントが、論理的につながるように構成します。
新人指導では、あくまでも重点主義に徹することです。
ポイントの数は、3つまでに絞りましょう。
また、話をする際は、「ポイントは3つあります」と示してから、「1つめのポイントは……」「2つめのポイントは……」と、1つずつポイントを示していくとわかりやすくなります。
3.適切な事例紹介を心がける
どんなに大切なことでも、経験したことのない新人には、具体的にどういうことなのかは理解しずらいものです。
たとえば、「報告は大切なので、必ず行うように」と言われても、新人にはどう大切なのかがわかりません。
こんなときは、事例を挙げて、具体的な話にすれば、新人も理解しやすくなります。
たとえば、報告に関する例として、
「私が新人のとき、お客さまとの商談がうまくまとまり、そのまま一緒に飲みに行ったんだ。移動の途中で、電話を入れればよかったんだが、お客さまと話をするほうが大切だから後でいいだろうと、ついそのままにしてしまった。ところが、課長は遅くまで私の報告を待っていたらしい。『お前一人で仕事をしているんじゃないんだ』と、報告を入れなかったことをひどく叱られた」
といった失敗談・成功談を交えて話をすると、新人の理解も深まります。

まとめ
自分の中で落とし込んできたものを、何もわからない新人に正確に伝えることはなかなか難しいものです。
新人に正確に伝えるために意識しておきたいポイントを押さえて、わかりやすく納得してもらうことが大切です。