私自身、娘の虫歯治療に付き添ったときに、「お子さんよりお母さんの方が口内環境が心配」と指摘された治療を受けた思い出があります。
それ以来、定期的にメンテナンスに通い、80歳で自分の歯を20本残す「8020運動」を目標にしています。
自分の歯で食事をすることは、健康寿命を延ばすことにも直結します。
今回は、抜けてしまうと二度と元には戻らない大切な歯を守るためにはどうすればよいのかを深掘りしていきます。

口腔内に存在する細菌の数が増えると悪さを始めます。
虫歯や歯周病の予防には、口のなかを細菌が増えにくい環境に整えることが大切になります。
口腔内環境を悪化させる大きな要因は、食べ物や飲み物です。
歯の健康を守るのがお仕事の歯科医師が、絶対に口にしない食品、飲料は何かというと「糖」と「酸」という回答が得られました。
「糖」と「酸」を含む食べ物が虫歯の原因となる2大要素です。
糖は糖分のことで、歯の隙間に糖分の多い食べ物が詰まると、それが細菌の餌となり増殖し、さらに細菌は糖を餌に酸を作り出して、歯のエナメル質を溶かして虫歯になります。
ただ、糖と聞くと、アイスクリームやチョコレートなど砂糖を多く含む食品を思い浮かべがちですが、それよりも虫歯になりやすいのは、「どれだけ口のなかに残りやすいか」と、「唾液中の糖分の濃度」です。
和菓子のようにゆっくり味わうものや、口のなかにある時間が長いグミやガム、飴玉、お餅のように歯につきやすい食べ物の方がより虫歯リスクが高いと言われています。
さらに健康のために食べるべきとされる食べ物も、実は虫歯のリスクを上げる可能性があります。
白米は粘りがあるので歯の隙間に残りやすく、また、お茶漬けやおかゆだと、咀嚼回数が減るので唾液の分泌量が減って、口のなかに糖が残ってしまいます。
そうめんやうどんなど、あまり噛まずに食べられるものにも同じリスクがあるので、薬味や具を多くして噛む回数を増やし、唾液を出すようにしましょう。
歯の隙間に残る食べカス対策には、歯磨きとフロスが効果的ですが、いつでもできるとは限りません。
フロスや歯磨きができないときは、水で口内をゆすぐだけでも糖質を洗い流せます。
何もしないよりもずっといいので、何かを口にしたら必ずぶくぶくうがいをする習慣を付けましょう。
歯に直接影響を与える酸には2種類あり、口腔内細菌が口内の糖から作り出す酸と、食べ物そのものに含まれる酸があります。
歯に与えるダメージは、細菌が出す酸も、酸性の食べ物も同じです。
歯はカルシウムやリン酸で硬さを維持していますが、口のなかが酸性になるとそのカルシウムやリン酸が歯から溶け出してもろくなり穴が開いてしまいます。
酸性のものを飲食すれば少量でも口のなかは即酸性になるので、注意が必要です。
酸性の食べ物は、想像以上に身近にあふれており、みそ汁は、毎日の習慣にすすめられるほど健康効果が期待されますが、酸性です。
レモンやオレンジなどの果物は酸性であるうえ、果糖も多く含みます。
野菜ジュースやスムージーも酸性であったり、砂糖やはちみつで甘みを出しているものもあるので朝食代わりにしている人は注意が必要です。
また、健康のためにお酢ドリンクや乳酸飲料を習慣にしている女性も多いのですが、どちらも酸が強いので飲んだら水で口をゆすいで中和する習慣をつけた方が良いでしょう。
美容のためジュースの代わりに炭酸水を飲む人も多いですが、炭酸は強い酸なので歯の表面を溶かします。
またコーヒーのようにいれたては問題がなくても、時間が経つと酸性になっていく飲料もあるので、何かを食べたら口のなかは必ず酸性になるものとして、どれだけ口のなかを酸性でない状態で持続させるかが重要です。

口腔内環境が悪化すると、最悪の場合は歯を失うことになりますが、虫歯がないから大丈夫という考えでは、その陰で気づかぬうちに歯周病が進行していることがあります。
個人によりますが、虫歯と歯周病のどちらになりやすいか傾向があります。
なので、虫歯になったことがなく歯科健診なんて無駄だと自慢している方でも、実は歯周病が進んでいたケースが多いのです。
反対に若い頃から虫歯に悩んでいた人は、治療のためこまめに歯科を受診するので80才になったときに自分の歯が残っていることが多いのです。
歯周病は歯茎の病気ではなく骨の病気です。
歯周病が悪化すれば、あごの骨が溶けて歯が抜け落ちます。
歯周病菌は、嫌気性細菌という空気が苦手な菌です。
あごの骨が溶けるのは、歯周病菌が骨に付着すると骨髄炎と骨髄膜炎という、より重篤な病気になるため、体を守るためにあごの骨を溶かして歯茎を犠牲にしてでも逃げようとします。
歯周病菌は虫歯菌のように特定の食べ物に影響されることはありませんが、口のなかの衛生状態が悪いと増えやすいのでセルフケアが鍵になります。
歯周病菌は空気が苦手なので、ネバネバした歯垢を作り出してそのなかで増殖していきます。
特に磨き残しが出やすい歯周ポケットや歯と歯の隙間で増える特徴があり、凶悪な菌は歯茎のたんぱく質を分解して歯周組織を破壊するのです。
歯周病対策は歯間ケアが必須です。
まずは歯ブラシよりもフロスや歯間ブラシの使用を徹底することが大切です。
口腔内環境を悪化させ、歯をダメにする食べ物はなるべく避けると同時に、大切なのは食べたらすぐに口腔内環境をリセットすることです。
歯磨きとフロスが難しければ食後に水を飲んで少しでも早く口内を中性に戻しましょう。
歯の健康のためには間食はおすすめできません。
とるのであれば、糖分が含まれず酸性が強くない水やお茶を飲むようにしましょう。

フッ素は歯のカルシウムやリン酸の吸収を助けて、酸に強く対抗するので、フッ素入り歯磨き粉を使うことで歯磨きの効果を高められます。
一方で、殺菌作用が強いマウスウォッシュの普段使いは、無害な常在菌まで殺してしまい別の細菌感染を起こすリスクが上がるので常用すると逆効果になる可能性もあります。
食べ物や口内ケアに気を配り、定期的な健診を受けることが“歯の寿命”を長くします。
特に、歯周病は痛みがないため気がつかないうちに進行してしまいます。
また、50才を過ぎると歯茎が自然と下がり、エナメル質のない歯根がむき出しになることでさらに虫歯になりやすく、進行も早くなります。
高齢になると定期健診で虫歯や歯周病を初期に見つけて治すことが、歯を失わないためには重要です。
100才になっても自分の歯で食を楽しむために、正しい知識で歯を守っていきましょう。

まとめ
ちなみに歯科健診を受けない高齢者の死亡リスクは、受診者に比べると約1.5倍にもなるといいます。
健康寿命を延ばすうえで、自分の歯を残すことは非常に重要だということですね。
自分の歯で食事をすることは栄養の吸収を助けるだけでなく、表情筋を鍛えたり脳に刺激を与えるなど多くの効果が期待できます。
歯も身体の一部であり、歯の健康を損なうと全身に影響が出てきます。
寿命を縮めることにも直結するので、健康な口腔環境を維持できるように気を付けていきましょう。