保護者の多くは、朝起きられないのは、夜遅くまでのゲームやスマホへの依存、学校嫌いなどが原因だと考えて、無理やり起こそうとしたり、怠けているのではないかと疑うことで、親子関係が悪化してしまうこともあります。
しかし、その症状が本当に続いているのであれば「起立性調節障害」の可能性があることが考えられます。
今回は、小中高生に見られる「起立性調節障害」の特徴や症状、原因、治療法についてご紹介していきます。

起立性調節障害とは、たちくらみや意識を失ったり、朝起きられない、身体がだるい、胸がドキドキする、頭が痛いなどの症状を訴える病気で、自律神経のバランスが崩れることによっておこる、思春期によくみられる疾患です。
以前は「心と体の成長による思春期の一時的な体調不良で思春期を過ぎるころには良くなる」と言われていました。
しかし、最近の重症例では、日常生活が送れなくなり、長いこと学校に行けなかったり、部屋に引きこもったりして、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることがわかってきました。
このような重症例は全体の約1%ですが、軽症例を含めると小学生の約5%、中学生の約10%に起立性調節障害がみられます。
不登校の約3~4割は起立性調節障害があり、10~16歳頃、特に女子に多い傾向があります。
また、約半数に遺伝傾向があるといわれています。
症状としては、立ちくらみ、朝起きられない、気持ち悪い、だるい、気を失う、頭痛などがあります。
実は筆者の娘も、12歳ごろ毎朝のように体調が悪く腹痛や吐き気を訴えていました。
心配で小児科を受診し、詳しく検査をしても原因がわからず、最終的には起立性調節障害と診断されました。
午前中はいつもしんどそうで、午後になるにつれて元気になるのが特徴です。
夜になると元気になるので、学校に行きたくない言い訳として体調不良を言っているのではないかと思ったこともありました。
夜には目がさえて眠れずに、朝はなかなか起きられずに、ひどくなると昼夜逆転の生活になってしまうこともあります。
いつも顔色が悪い、乗り物酔いがひどい、入浴で気分が悪くなったり気を失ったりする、嫌なことを考えると気分が悪くなるなどの症状が出る子どももいます。

起立性調節障害の原因は、自律神経のバランスが崩れることです。
本来は立ち上がると自律神経が働いて血圧や心拍数が上がり、脳に血液が送られますが、自律神経のバランスが崩れていると、脳に十分な血液が送られずに体調が悪くなるのです。
自律神経は交感神経と副交感神経で構成されていますが、交感神経は心拍数や血圧をあげて動物が敵と対峙して戦うときの戦闘モードの神経です。反対に副交感神経は血圧を下げて、心拍数もゆっくりになる、おやすみモードの神経です。
この交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうのが、起立性調節障害です。
昨今の子どもたちに降りかかる、さまざまなストレスや不安が起立性調節障害の症状を悪化させていると考えられています。
起立性調節障害の症状が出ることによって日常の活動量が低下すると、筋力の低下、自律神経のバランスがさらに崩れる原因にもなります。
そうなると、下半身への必要以上に血液が移動して、 脳への血流が減り、さらに活動量が低下するという悪循環に陥ることにもなりかねません。
また、脱水によって症状が悪化することもあり、夏場には熱中症にかかりやすくなります。
子どもが朝起きられない、体調が悪いということが毎日続くようであれば、病院で診てもらうことをおすすめします。
同じような症状を起こす別の病気ではないことを、検査でしっかりと確認してもらいましょう。

起立性調節障害の診断があったときは、本人と場合によっては学校の先生に対してもこの疾患を理解をしてもらうことが大切です。
起立性調節障害は体の病気であり、気合いや根性、気持ちの持ちようでは治らない病気なので、きちんと薬による治療や生活指導、ストレスや不安を減らすための環境調整を行うことが大切です。
薬物療法
血圧を上げる薬や睡眠のリズムを整える薬を使うことがあります。
また、漢方薬が有効なことがあります。いずれにしても、薬だけで良くなることはほぼありません。
生活指導や環境調整も同時に行います。
生活指導
立ちくらみに対しては、座った状態や寝ている状態から起き上がるときには、頭を急に持ち上げずに、頭を下げた状態からゆっくりと持ち上げて起き上がるようにします。
また、起立性調節障害は、脱水によって症状が悪化することもあるので、脱水予防のために、経口補水液などを用いて、水分と塩分をしっかりと摂るようにしましょう。
体を動かすことが、自律神経のバランスを整えるにはとても良いのですが、起立性障害の子どもの多くは、0か100かどちらかという、0―100思想を持っている傾向があります。
つまり、「朝起きて、だるいから今日は1日寝ている」というような感じで、昼くらいから徐々に体調がよくなってきても、1日中横になってベッドの上で過ごしている子どもも少なくありません。
「朝、頭痛くて学校にいけない。遅刻するくらいなら、1日休んでしまおう。」というような感じの子どもも多くいます。
無理をする必要はありませんが、動けるようになったら、動ける範囲で動きましょう。
学校に行けなかったら行かなくてもいいですが、少し外に出て散歩たり、それが無るなら窓を開けて太陽の光を浴びるだけでもいいので、できることから少しずつできる範囲を増やしていくことが大切です。
また、眠れないからと遅くまでテレビやビデオを見たり、ゲームやスマホを見ていたりすると、余計に眠れなくなるので、睡眠のリズムを整えることも重要です。
長時間パソコンやタブレット、スマホなどの画面を見て過ごすと、身体活動が減少し、体力低下や姿勢を悪くするなどの問題が起こります。
身体活動が減ると疲れないので眠くならず、余計に夜に眠れない原因になります。
さらに悪い姿勢でスマホやタブレットを長時間続けると、子どもでも肩こりが起こります。
それが頭痛の原因になり、これが身体活動を減らす原因にもなって、ますます悪循環から抜け出せなくなるのです。
できればタブレット、スマホの時間は、寝る2時間前までにしましょう。
環境調整
子どもの心理的ストレスや不安を取り除いていく努力をすること、とても大切です。
親御さんや学校関係者が起立性調節障害について十分に理解して、無理に学校に行かせるのではなく、子どもたちができることをサポートしてあげながら、徐々に活動量や範囲を増やしてあげることが大切です。

まとめ
心理内科やカウンセリングなども有効な方法の一つといえるでしょう。
子たちが、社会生活の中での生きづらさを感じていることもあるので、子ども一人ひとりの特性を親が知って、適切な声掛けやサポートの方法を一緒に学んでいくことも大切です。