しかし時に頑張りすぎてオーバーワークになり、体調不良を引き起こすこともあります。そんな時に頭をよぎるのが、一定期間休暇が取れる「休職」の制度です。
今回は、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」の院長、薮野淳也氏著書『産業医が教える 会社の休み方』より、休職したほうがいい人のケース、休職する時の方法や注意点などをご紹介します。

一般的に「休職」とは、「私傷病休暇」のことを指します。
メンタルの不調に限らず、ケガや病気をした時などにも、雇用を維持したまま、一定期間の休暇を会社から与えられる制度です。
ピンポイントの短期で取ることが多い有給休暇に対し、「休職」は1カ月単位で連続して休みます。

会社が定める就業時間(例えば平日9時から17時)にフルで労務の提供ができていない方は休職の選択をしたほうがよいと思われます。
そういう方は、産業医から一旦しっかりと休んで、体調を整えてから働くことを提案されます。
「仕事がうまくいかない」というキャリアの問題を挙げる方もいますが、それは健康面の不調ではないため、一旦「健康」と「キャリア」の問題を切り離し、健康面からの不調を訴える方にたいして休職をすすめます。
「休職」を甘えていると思われるのが怖いと考える方は多くおられます。
たしかに、従業員には「自分の体調は自分で整える」という自己保健義務がありますが、一方で、労働安全衛生法というものもあり、会社のも従業員の健康を守る義務があります。
産業医の配置や健康診断、ストレスチェックなども、企業の義務によるものです。
具体的な例をあげると、首の骨を骨折した人が重いものを持ち上げるような仕事はできませんので、一旦治療に専念して完治してから働いてもらうようにするという義務が生じます。
それはメンタル面の不調であっても同じで、普段のように働けない場合は、従業員は休む権利があり、休むのが義務でもあるのです。
最近は働き方改革により、休職願いを出しやすい風潮になってきており、その一つとして、仕事には行けるけれども体調不良で生産性が下がっている状態のことを指す「プレゼンティズム」をいかに改善するかということがよく語られます。
女性のPMS(生理前症候群)などもプレゼンティズムに当たります。
体調不良時の休暇は、本人にとっても、会社にとっても効率的だという考え方が一般的になりつつまります。
休職を迷っている方にお伝えしたいのは、「1」と「0.1」の話です。
例えば、生産性=アウトカムが「0.1」の状態で10日間働いたとしても「1」にしかなりません。
一方、9日間休んで体調を整え、最後の1日だけ働いても「1」になるなら、生産性では同じになります。
休職直前の方の多くは体調がすぐれず、パフォーマンスも下がっている状態です。
心身にいろんな問題を抱えていると思われるので、それ以上悪化しないように、休職によって、負の連鎖を断ち切るようなイメージを持つとよいでしょう。
「休職」の期間は、会社の規則によりますが、いわゆる日系の大手企業だと長く、外資系ベンチャー企業は短め、という傾向があります。
勤続年数によって変わることもありますので、まずは就業規則で、ご自身がどれだけ休めるのかを確認するといいでしょう。
また、「休職」できる期間は、症状とは関係なく、あくまで、会社の規則に従って休職します。
ベンチャー企業の患者さんで、1カ月と決められているけれど、「まだ休んでいいよ」と言われて期間を延長したケースなどもありますが、大手企業でそのようなことはまずなく、規則に沿って休まないと自然退職になることがあります。

大きな企業は、福利厚生で3~6カ月間の給料が支払われることが多いようです。
また、各企業には傷病手当があり、体調不良で働けない場合、主治医の休職命令が出れば、基本給の6割が支給されます。
それを、通院や治療に使う患者さんが多くいらっしゃいます。
経済的な保証はありますし、休職後に同じ部署に戻る患者さんがほとんどです。
また、人間関係が原因で休んでいる場合、異動させてくれる会社もあります。
規則を破って自然退職、といったことを除けば、いきなり解雇にはならないはずで、その点は心配しなくていいと思います。
「休職」するために必要な書類としては、一般的には、主治医の診断書が必要です。
診断書を提出したら、人事や労務から休職命令が出ますので、その内容に従って手続きを進めます。
心療内科やクリニックに直接行って診断書をもらってもいいですし、産業医(主に従業員50人以上の会社)や人事をたずねて「体調が良くない」と相談し、指示をもらってもいいと思います。
体調の悪さを産業医や会社の人に伝えられる自信がないといった、自分の体調の悪さを周りに相談するのが苦手なタイプの方もおられるでしょう。
ただ、仕事が原因で体調不良が続く場合、仕事の環境を変えない限り、体調が勝手に良くなることはあまり考えられません。
今どのような問題を抱えていて、それを解決してくれるのは主治医なのか、産業医なのか、それとも仕事を調整してくれる上長なのか、それを見極めて実際に相談することが重要です。
上記の通り、基本的には主治医の診断書があれば休職を要請できますが、従業員が10人など、規模が小さい会社の場合は、直接上長や社長と話すケースも多いです。
そこで会社への不満などを言い出すと話がこじれやすいので、あくまで「体調を整えるために休養が必要」「復帰するにはどうすればいいのか」を擦り合わせる場にするといいでしょう。
齟齬が生まれないように、診断書を書く主治医とも話を合わせておきましょう。
いわゆるホワイト企業に勤める方ではなく、そうではなく会社が完全にブラック企業の方もおられるかもしれません。
過去には裁判にまで発展したケースもあり、ご自身のキャリアを考えれば、転職する選択肢も考えていた方が良いでしょう。
いずれにしても、体調を崩している時は考えがまとまりにくい状態です。
大切なことは、やはりまず休職し、体調を整えてから決めることをおすすめします。

まとめ
また、産業医による面談を受けると、その話が筒抜けになって評価が悪くなると危惧される方もいますが、基本的にまずそんなことはありません。
日本の法律では、従業員が不利にならないよう整えられているようです。
なので、休職をしっかりと利用して、仕事のパフォーマンスを上げたほうがいいのです。
無論、気軽に休職してください、とすすめるわけではありませんが、自分ではどうしようもない状態の時は専門家を頼るという意味で、休職の選択をするのも悪くないのではないでしょうか。
良好な健康状態を保って働くに越したことはなく、会社にとっても、それがスタンダードになれば、日本社会の働き方はもっと良くなっていくでしょう。