昨今、深刻な問題となっているスマホ依存や、リモートワークの普及による働く環境の変化に悩むビジネスパーソンに向けて、現状を打破する習慣の身につけ方を紹介した本が書き下ろされました。
今回は、日常生活の中で無意識に行っている習慣を見直して、より良い自分へと変わるための具体的な方法を紹介した、三浦将氏の書籍『改訂新版 自分を変える習慣力 コーチングのプロが教える、潜在意識を味方につける方法』より、「強メンタルになれる習慣」をご紹介します。
スポーツの試合で、接戦の末、惜しくも敗れうなだれる選手たちに、監督やトレーナー、コーチなどがよく伝えるメッセージがあります。
「しっかり戦ったんだから堂々と上を向け!胸を張って上を向け!」
とても感動的なシーンです。
実はこのシーンで、監督たちはかなり理に適ったことをやっています。
善戦をしたとはいえ、結果的には負けてしまったのが事実。
うなだれ、下を向きがちになるのは当然のことです。
すると当然、気持ちも落ち込んで知らず知らずのうちに、負けた原因を探すモードになり、その原因と自分との関わりを認識し、責任を感じ、さらに落ち込む。
こんなパターンになる人は、結構多いのではないかと思います。
選手は試合に向けて一生懸命練習してきました。
パーフェクトではなかったかもしれないけれど、試合でも培ってきたことを発揮しました。
そんな自分を誇りに思っていいはずです。
負けたとはいえ、ここまできた努力を自分で讃えてあげていいはずなのに、そんな時に下を向いていると、なかなか自分を讃えるような気持ちにはなりにくい。
そう、これは姿勢の問題なのです。
これは生理学的に証明されていることですが、姿勢が気持ちをつくるのです。
だから、監督たちの「胸を張って上を向け!」は、選手たちががんばってきた自分を讃え、誇りに思うことをしっかりと促す言葉なのです。
実際にやってみましょう。
視線を下に向けて、猫背になりながらちょっと落ち込んだ気持ちになってみてください。
自然に落ち込んだ気持ちになりませんか。
次に、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながら落ち込んだ気持ちになってみてください。どうでしょうか?
今度は先ほどとは感覚が違うのではないでしょうか?
この姿勢では、なかなか落ち込んだ気持ちになりにくくないですか?
では、今度は逆に、視線を下に向けて、猫背になりながら、しっかりと喜び、清々しい気持ちを感じてみてください。
これもきっと難しいはずです。
これを、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながらやるとどうでしょうか?
自然と全身に清々しさが溢れてくるのがわかると思います。
そう、姿勢は心の状態に大きな影響を及ぼすのです。
ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を取る社会心理学者エイミー・カディ教授は、姿勢とボディランゲージ(非言語行動)の重要性を強調しています。
姿勢とボディランゲージは、人に与える印象だけでなく、自分自身の心理状態にも大きな影響を与えるからです。
彼女のある実験では、被験者のグループをランダムに2つに分けて、1つ目のグループには、ハイパワーポーズと呼ばれる自信のある人がよく取るようなポーズを2分間取ってもらいました。
ハイパワーポーズは、立ちながら両手を腰に当てて、仁王立ちをするようなポーズだったり、椅子に浅く腰かけて、踏ん反り返りながら両手を大きく広げるポーズだったりします。
いずれも身体がしっかり開いていて、視線が自然と上を向くような姿勢です。
一方、もう1つのグループにはローパワーポーズと呼ばれる自信なさげな人たちがよく取るポーズを2分間取ってもらいました。
ローパワーポーズは、何かから自分を守ろうとする時に取るようなオドオドした姿勢、身体を閉じ、腕で胸のあたりを覆うような姿勢で、視線はうつむき気味です。
実験では、このわずか2分間の姿勢の違いが、支配性のホルモンであるテストステロンとストレス度を表すホルモンであるコルチゾールという脳内の2種類のホルモンに大きな影響を与えることがわかりました。
ちなみに、優れたリーダーシップを発揮するリーダーは、高いテストステロン値と低いコルチゾール値を持つと言われます。
支配性が高く、ストレスが少ないという状態です。
支配性のホルモンであるテストステロン値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、なんと平均20%上昇し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に10%減少しました。
ハイパワーポーズを取った人たちは支配的感覚が上がり、ローパワーポーズを取った人たちは感覚が下がったのです。
そして、ストレス度を表すホルモンであるコルチゾール値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、平均25%減少し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に15%上昇しました。
たった2分間、異なるポーズを取っただけで、これほどの違いが出たのです。
大きなストレスを抱えた人が、落ち着かない様子で、身体をかがめ、閉じたような姿勢を取りがちなことはイメージできると思いますが、実はこの姿勢自体がストレス値をさらに上昇させる原因ともなっているのです。
「姿勢を正しくしなさい」という教育を受けてきた方はたくさんいると思います。
とくに武道や茶道や華道など、日本独特の“道”の付く稽古事をされてきた方は、背筋の伸びた姿勢を徹底的に教え込まれ、習慣になっている方も多いことでしょう。
このような方は、軸を持った強い身体の感覚とともに、脳のホルモンの分泌を促進しているので、凛とした心の状態やストレスに対抗力のある状態をつくり出しやすいと言えます。
このハイパワーポーズも同じような効果をもたらすと考えられるのです。
さて、問題はこのハイパワーポーズを、どのように習慣化していくのがよいのかということです。
注意すべきことは、ハイパワーポーズは場合によっては、少し傲慢で失礼な印象を与えかねないポーズでもあることです。
営業の商談の席で、あまり大げさにすると抵抗を感じる方もいるでしょう。
ですから、まずは、プレゼンの直前に自分に気合を入れるために行うなど、あなたの仕事やその他の活動で、緊張を強いられる場面やプレッシャーの大きくかかる場面を前にした事前準備の習慣とすることをおすすめします。
社内や外出先で、2分という時間をまわりから見えない環境で取るのはなかなか大変かもしれませんが、使っていない会議室や、近くのトイレが、もしかするとあなたの本来のパフォーマンスを引き出す大切な準備ルームになるかもしれません。
まとめ
仕事上の大事なお客さんとの商談の前、プレゼンテーションの前、面接の前など、1つ1つの場面に入る前に、2分間だけでいいので、このハイパワーポーズを取ってみる習慣を実践してみてください。
わずか2分という時間の投資ですが、試してみる価値は十分にありそうです。