「どうしてこんな行動をとるのだろう?」と感じるのは、その行動を起こさせる原因に脳の衰えた部分が関係しているからです。
今回は、加藤俊徳氏著書『認知症の人には、こんなふうに見えています』より人間の脳神経細胞の特徴を知り、どこが衰えているのかをチェックしてみるとともに脳を鍛えるエクササイズもご紹介したいと思います。
認知症になったからと言いつつも、脳がいきなり全部衰え、それ以前とは全く違う思考回路になるわけではありません。
脳の神経細胞は、同じような働きをする神経細胞ごとに集団を形成しています。
そのグループのことを“脳番地”と呼び、
1.思考系
2.運動系
3.伝達系
4.理解系
5.記憶系
6.視覚系
7.聴覚系
8.感情系
の8つに分けられます。
よく使われる脳番地は、細胞同士のつながりが密になって成長します。
反対にあまり使わない脳番地は発達が未熟な上に、早く衰える傾向にあるといいます。
認知症の症状は、どの脳番地が衰えたかによって変わってきます。
たとえば、言語を司る3.の伝達系脳番地が衰えてくると、頭の中では言いたいことが浮かんでいるのに、その名前が出てこない“失語”という症状が現れやすくなります。
会話をしていても「あれ」とか「それ」といった表現が多くなり、次第にコミュニケーションが取りづらくなります。
耳が聞こえにくいのは年のせいだろうと軽く考えて、難聴を放っておくのも危険です。
なぜなら、耳が遠くなると脳への刺激が減り、7.の聴覚系脳番地が衰えてきます。
脳の各部位は連携しているので、この部分が衰えると、3.伝達系や4.理解系など、ほかの部位にも影響が出ます。
耳の聞こえが悪いかもと感じたら、迷わず耳鼻科を受診するようにしましょう。
では、8つの脳番地の各働きについて解説していきましょう。
1.思考系脳番地
思考や判断に関係する脳の司令塔です。左脳・右脳の前頭葉にあります。
2.運動系脳番地
手足や口などに指令を送り、体を動かすことを司ります。
3.伝達系脳番地
身振りや表情を含め、コミュニケーションを司ります。
4.理解系脳番地
目や耳から入れた情報を理解し、整理整頓する役割があります。
5.記憶系脳番地
覚えたり、思い出すことに関係し、大脳の側頭葉下部・内側部と小脳にもかかわっています。
6.視覚系脳番地
視覚的情報を集約して整理します。目の真後ろの後頭葉と前頭葉にあります。
7.聴覚系脳番地
言語や音など、耳からの情報に関係しており、耳に近い左右の側頭葉にあります。
8.感情系脳番地
喜怒哀楽などの感情を生み出し、相手の気持ちを読み取る感性や社会性に関係します。
上記のように、脳は役割ごとに8つのグループに分かれて活動しています。
認知症の症状が進行してくると、支離滅裂な言動を繰り返すようになります。
感情的になってイライラすることもありますが、それでも絶対に頭ごなしに否定をしてはいけません。
それは、認知症の人自身がいままでできていたことができなくなっていくことに不安を感じているからです。
なぜ怒られたのか、その理由は忘れてしまったとしても、怒られたときに感じた不安や不快な気持ちはずっと心に残ります。
たとえ相手の話が明らかに間違っていても、正論で追い詰めたり、否定せずに受け止めてあげてください。
認知症がすすむと何を言っても反応がないと思われがちなのですが、実は本人は傷ついている可能性があります。
家族としては「できなくなったこと」に目がとまりやすいのですが、認知機能が衰えても周りの手助けがあれば「できること」もたくさんあります。
認知症の方の尊厳を傷つけないように、本人ができることに焦点を当てて、それを周りの人たちがサポートしながらやってもらうことが大切です。
今、認知症になっていなくても、これからもならないように予防を心掛けたいもの。
脳は使わないとどんどん老化し、老廃物がたまりやすくなるといいます。
では、どう予防すればよいのでしょうか。
認知症予防に効く、脳番地別に効果的な刺激を送るエクササイズをご紹介したいと思いますので、今日からでも早速始めてみましょう。
1.思考系脳番地エクササイズ
休日の予定を他人に決めてもらう。
第三者に決めてもらうことで、普段使わない思考パターンで動くことになり、脳の働きが高められます。
2.運動系脳番地エクササイズ
歌いながら料理する。
料理は五感をフル稼働するうえ、手と口を同時に動かすので脳が活性化されます。
3.伝達系脳番地エクササイズ
知らない人と話す。
自分の意見を正確に伝えるにはどうすればよいか考えるようになります。
4.理解系脳番地エクササイズ
街で見かけた人の心理状態を推測する。
相手の表情や雰囲気、持ち物など、その場の状況から判断する訓練につながります。
5.記憶系脳番地エクササイズ
新語・造語を考える。
何かを暗記するときよりも、新しい言葉を考え出すときの方が記憶系脳番地を使うといわれています。
6.視覚系脳番地エクササイズ
電車やバスなどの動く乗り物の中から、何らかのテーマを決め、数字や色などを探す。
何かを見たり、動きを捉える能力が鍛えられます。
7.聴覚系脳番地エクササイズ
ラジオを聴きながら寝る。
目から入る情報を遮断することで、意識を耳に集中させます。続けると聴いたことを忘れにくくなります。
8.感情系脳番地エクササイズ
甘いものなど好きなものを10日間断つ。
感情系脳番地に負荷をかけることで、気持ちの変化に敏感になります。
まとめ
今回の記事で、認知症の方の脳内で起きていることを知ることによって、対応の仕方がわかりスムーズになれば幸いです。
何よりも一番不安なのはご本人ですので、理解できない態度にイライラしたり腹が立つこともあると思いますが、寄り添う側が何を求めているのかを理解して手を差し伸べることが安心感につながるのではないかと思います。