部下に仕事を任せるには教育をする必要がありますが、上司は自らの業務もこなさねばならず、教育をする余裕がない場合も多いでしょう。
しかし、そうした職場における部下は成功体験による成長を実感しにくく、離職のリスクも高まります。
今回は岡本文宏氏の著書『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』 より、できるだけ時間を使わずに、安心して部下に仕事を任せる方法について深掘りしていきます。
仕事を任せることで、部下のやる気と定着率が同時に上がります。
なぜなら、重要な業務を任せられた部下は、「自分は上司、会社から頼りにされている」「期待されている」と思えるからです。
そして、任せられた業務をしっかり完了させることができれば成功体験が増え、自信が持てるようになり、そうした自分を振り返ることで、成長を感じます。
人は仕事を通して成長したいと思う生きものです。
なので、成長できることを実感できる職場からは離れようとしません。
ただ、世間一般の上司、経営者の多くは、仕事を誰かに任せることが苦手です。
なぜなら、人に任せるよりも自分でやったほうが早いし、失敗もないし、仮に任せたとしても自分の思ったような結果につながらないと思い込んでいるからです。
また、仕事を任せるには、部下の教育をしなければなりません。
しかし、人手不足の状況下で、上司は部下の教育係に徹することはできず、自らもプレイングマネジャーとして、ノルマをこなすことも課せられています。
すると、部下の教育どころではないというのが実情で、自分の仕事手いっぱいになります。
これではいつまでたっても部下に仕事を任せる日はやってこないでしょう。
そこで今回は、できるだけ時間を使わずに仕事を任せる方法をご紹介します。
その準備として2つのことが必要です。
といっても、それぞれ5分程度しかかかりません。
ぜひ実践してみてください。
1.任せる相手のタイプを知る
まず、誰にどの業務を任せるのかを決めます。
適性に合った業務を任せれば、生産性も上がり、仕事の完成度も上がります。
そのために、各自の特性(タイプ)をしっかり把握することが不可欠です。
性格、長所、短所、仕事観、人生観、価値観、子ども時代のことや将来のビジョンなどについて知っておけば、コミュニケーションが楽に取れるようにもなり、良い人間関係が築けるでしょう。
そのために、5分でできる簡単なワークを行います。
あなたの部下を1人を選び、その人のニックネームをノートに書きます。
次に「得意な仕事、苦手な仕事が何か?」「いきいきと仕事に励んでいたのはどんな仕事だったか?」「どのように褒めれば喜ぶのか?」について、知っていること、思いつくことを書いていきます。
他の部下についても同様に分かる項目を書き出してください。
もしも、誰についてもほとんど書くことができないのであれば、仕事を任せる前に部下のことをもっと知るところから始めてください。
雑談の中でそれとなく聞き出し、少しずつ理解を深めていくことが先にやるべきことです。
2.部下の成長につながると伝える
自分が欲していること、手に入れたいと思っているものが得られるのであれば、任された部下は積極的に行動しようと考えます。
したがって、上司は部下に対し、行動することのメリットを感じさせることが大切です。
人は仕事を通じて成長したいと思っており、これは、老若男女すべてに共通して言えます。
それならば、「この仕事にしっかり取り組めば成長できる」と部下に伝えることで、任せられた仕事への取り組む態度は変わってきます。
また、成長できること以外にもメリットがあれば、具体的に説明しましょう。
自分にメリットがあると感じた部下は、「やらされ感」を抱くことなく、積極的にやる気をもって仕事に取り組むことでしょう。
任せた業務が、上司の意図通りに実行されない場合があります。
原因は、任せる内容が部下に正確に伝わっていないことです。
指示を伝えるときに、曖昧な言葉を使ってはいけません。
たとえば商品の発注について、「ちょっと多めに発注しておいてください」と伝えても、部下によって「ちょっと多め」の解釈はさまざまです。
指示を出した側が「10個ほど多く発注してほしい」と思って「ちょっと多め」と言ったとしても、部下の「ちょっと」は3個かもしれません。
その結果、納品されてきた数量を見た上司は、「なんで多めに発注していないんだ!」と雷を落とすことになります。
部下としては、指示された通りに発注したのになんで怒られるのかよく分からず、理不尽な思いをします。
この場合、上司の頭の中にある“ちょっと多め”を、具体的な数字で伝えることで、両者に誤差が生じることを避けられます。
数字の「10」は誰が見ても「10」です。
仕事を任せる内容を伝えるときに曖昧な言葉は使わず「いつもより10個多く発注しておいてください」と言うようにしましょう。
また、写真、図を使って「この通りに仕上げてほしい」と伝えれば、写真、図に近い完成形にしてくれるでしょう。
任せることを伝える際に、間違ってはいけない重点事項については、「今から大事なことを3つ伝えますね」と“前置きフレーズ”を言ってから伝えます。
たった一言付け足すだけで、部下は「漏れのないようにしっかり聞かなければならない」と意識しますので、このフレーズの後で言ったことは正しく伝わります。
仕事を任せた後は「任せ切る」ことが大切です。
上司や経営者は、任せた相手が自分と同じ考えを持ち、同じように行動しないと違和感を抱くものなので、どうしても部下がしていることに口を挟みたくなります。
しかし、そこは我慢です。
明かに失敗しそうで大きな損害が出ることが明白な場合を除き、結果が出るまでは静観して、部下にすべて任せ切るようにしましょう。
任せ切るのは、放置するということではありません。
上司が行うのは、主に任せた仕事に対する部下へのフィードバックです。
フィードバックとは、現状をありのまま相手に伝えることです。
これにより、部下は自分の行動を客観的に見つめることができるようになります。
部下の行動が任せた側の意図とずれている場合がありますが、その際は、頭ごなしに否定はせずに、まずは部下の行動の意図を聞き出してください。
仕事に取り組む際、部下は何らかの意図を持って行動しています。
考え方や目指している方向(ゴール)が間違えていれば「教育」が必要ですが、そうでなければ、行動の修正はする必要はありません。
部下の考えを否定して、上司の指示を伝えてしまうと、次からは自分では考えない指示待ちのスタンスになります。
これでは部下の成長は望めませんし、本人も仕事にやりがいを感じなくなります。
任せた後に結果検証を行い、フィードバックを繰り返し行うことで、部下は自分で正解を見つけるようになり、成果を上げられるようになります。
そうすれば、自分で考える力が付き、成長が加速するのです。
まとめ
「この人から任せられたのだから頑張ろう!」と思われることが大切です。
そのためには、リスペクトされる上司、経営者にならないといけません。
リスペクトしている上司、経営者から任せられた仕事なら、部下は一生懸命に取り組もうと思うものです。