過去に国会議員秘書として働いた経験のある舟木さんですが、国会議員秘書はかなりストレスがかかる仕事で、メンタルを病む人が多かったそうです。
そうした経験からストレスマネジメントの研究をするようになった舟木さんが提唱するのが「首尾一貫感覚」。
今回は、舟木彩乃氏著書『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』から舟木さんが提唱するストレスマネジメント方法をご紹介します。
首尾一貫感覚とは、「ストレスが高い状況にあっても、うまく対処して、心の健やかさを保てる力」のことです。
そのため、首尾一貫感覚は「ストレス対処力」とも呼ばれています。
1970年代、アントノフスキー博士は、「第2次世界大戦中にナチスドイツのユダヤ人強制収容所に収容された経験をもちつつも、その後も更年期を経てなお健康を保っていた女性たち」について研究しました。
そして、過酷な経験をしたにもかかわらず「健康を保っていた女性たち」にどういった「考え方」や「価値観」があったかを分析し、 そこから導き出されたのが「首尾一貫感覚」です。
簡単に言うと「大変な仕事、しんどい人間関係、ストレスフルな出来事があっても、明るく健康に生きる力」といえます。
首尾一貫感覚には
●把握可能感
●処理可能感
●有意味感
の3つの感覚がありそれぞれの感覚が複合的に影響し合っています。
「だいたい分かった」で対処するのが、「把握可能感」です。
把握可能感は、自分の今いる環境がどのような状況にあるのか、今後どのようになるのかについて、ある程度理解できている、納得のいく説明がつけられるといった、「おおよそ想定の範囲内」「だいたいわかった」と思える感覚のことです。
例えば、接客業の人が、お客様に突然怒鳴られたとします。
「なんで怒鳴られたのかわからない」と戸惑う人は、落ち込んだり、不安になったりします。
一方、「世の中には、自分の想像のつかない変わった人もいる」と状況を把握できる人や、「接客業をしていれば、お客様に怒鳴られることもある。まあたいしたことにならないだろう」とある程度予測できる人は、あまり落ち込まず、悩まないと考えられます
把握可能感は、こうした、「想定内」「予測がつく」「こんなもんだろう」「だいたいわかった」と思える感覚のことです。
この把握可能感は、ルールや規律、価値観、責任の所在などが明確な環境で経験を重ねることにより育まれるとされています。
職場で言えば、就業規則や人事評価がきちんと整備されていて、「この仕事をここまでしたら評価される」「評価ポイントは3つあって、8割達成したら昇給する」というような見通しがつきやすい環境のことです。つまり「把握がしやすい環境」といえます。
そのようなある程度把握しやすく、予測が可能な世界で、一貫性のある経験を繰り返すことで育まれるのが、把握可能感です。
ストレスを“資源”に変えるのが、「処理可能感」です。
処理可能感は、自分にふりかかるストレスや障害を、“資源”を資源として活用することで「対処できる」「なんとかなる」と思うことのできる感覚のことです。
この「資源」には、人脈や知力、お金、権力、地位などがあります。
例えば、仕事で大きなアクシデントにあったときでも、「助けてください」と言える上司がいたり、慰めてくれてアドバイスをくれたりする同僚がいる場合は、「なんとかなる」と思えるものです。 こうした人間関係が「資源」にあたります。
また「知力」も大きな資源です。
仕事でアクシデントがあり法的な問題が生じかねない場面では、法律の知識がある人とない人とでは「なんとなかる」と思える感覚に差が出ますよね。
人に聞いたり本を読んだりして「学ぶ」ことで、困難を乗り越えられることもあります。
お金も「資源」のひとつです。
突然、勤めている会社が倒産して職を失った場合、貯金が0円の場合はパニックになるかもしれませんが、1千万円の貯金があったとしたら、「しかたない。よし、自分に合う会社を見つけよう」と余裕をもてるのではないでしょうか。
この処理可能感は、大きすぎず小さすぎず、バランスがとれた適度な課題を与えられクリアしていくことで得られる「成功体験」により高められるとされています。
人脈や知力、お金などの資源を活用して、目の前の困難や課題をクリアしたことで身につくのが処理可能感です。
困難を「意味のあるもの」にするのが、「有意味感」です。
これは、「自分の身に起こるどんな出来事にも意味がある」と思える感覚、確信のことです。
例えば、仕事量も多く、きつい仕事をしているときに、「なんの意味があるのか」と思っている人と、「これはお客様のためになる意味のある仕事だ」と思っている人とでは、仕事への取り組み方や心のありように大きな違いが出てきます。
あるいは、大きなピンチが起きたときに、「これを乗り越えたら、私は成長できる」と、それを「意味のあるもの」と思うことができれば、乗り越える力がわいてくるはずです。
「神様は乗り越えられる試練しか与えない」とよく言われていますが、これに近いイメージかもしれません。
目の前の試練には「意味がある」と確信する。この確信こそが、有意味感といっていいでしょう。
この有意味感は、好ましい結果が得られたことに自分自身も参加・参与したという人生経験を通して高められるとされています。
「好ましい結果」とは、例えば、「職場でプレゼンがうまくいって大きな案件を受注した」などのよい結果です。
その結果に対して、「プレゼンに自分の意見が採用された」「プレゼンの資料を作った」、あるいは「プレゼンで発表を担当した」など、人それぞれの役割ごとに「役に立った」という経験をもてれば、「有意味感」が高まっていくとされています。
つまり、プレゼンの成功に貢献したという経験のなかで、「私のいる意味があった」「私もお役に立てた」と思える経験といえばいいでしょうか。
こうした人生経験を通して培われるのが「有意味感」だといわれています。
首尾一貫感覚を構成する3つの感覚は、それぞれが別々にあるわけではなく、お互いを補完し合うようにつながっています。
アクシデントがあったり、つらい出来事があったりしても、「今、起きている出来事をだいたい理解できている、この先何が起きるか、ある程度予測がつく」と把握可能感をもつことができていれば、「(把握できている範囲で)なんとかなるだろう」という「処理可能感」をもつことができます。
「処理可能感」は、人脈や知力、お金、権力、地位など困難を乗り越えるための「資源」を活用することでもつことのできる感覚ですが、こうした「資源」を実際に活用することで、現状を把握したり、今後の展開を予測することができ、「把握可能感」を高めることもできます。
その一方で、「自分自身に起こる出来事はどんなことでも意味がある」という「有意味感」をもつことができれば、「この経験は、私の人生にとって大きな意味があるものになるだろうからなんとかしよう」といった「処理可能感」をもつことにつながります。
例えば、重要な取引先を担当することになってストレスフルな状況で働いているとしても、「取引先の要求は大変だが筋は通っている。大変でも、この取引先の担当は1年間なので、ずっと続くわけではない」と、ある程度現状や今後の成り行きを把握できれば(把握可能感)、「まあなんとかなるだろう」と思えるようになり(処理可能感)、少しは心に余裕がもてます。
そして、「1年間この取引先を担当できれば、営業職として成長もできる」と意味を感じられれば(有意味感)、「あの取引先が納得できるような提案ができるように勉強しよう」と、把握可能感を高める行動に出ることができます。
また「前任者である先輩にきいてみよう」と人脈を活用して「なんとかなるだろう」という気持ちにつなげることができます(処理可能感)。
このように首尾一貫感覚を構成する3つの感覚は、お互いに影響し合っているのです。
まとめ
パワハラ上司にあたってしまったり、立場の強いクライアントから無理難題を突き付けられたり、自分とはまったく価値観の違う部下をもたされたり、自分の適性に合わない部署に突然異動させられたり、昇進して大きすぎる仕事をまかされたり…。
働いているとそのようなことはいくらでも起こります。
プライベートでも働きながらの子育て、突然やってくる親の介護、パートナーとの不仲という問題を抱えることもあります。
また、巨大地震など、人間の力の及ばない自然災害に遭うこともあります。
ご紹介した3つの要素を理解することで、ストレス状態に置かれた場合でも、ものの見方を変えてみることができていくでしょう。