あの非常口マークは「誘導灯」というもので、駆け込んでいるピクトグラムは非常にわかりやすいデザインですね。
しかし、同じ非常口マークでも、背景が「緑」のものと「白」のものがあるってご存じでしたか?
今回は、見ているようで見えていない?非常口案内マークについてご紹介します。
非常口に駆け込んでいるあの人には、英語で絵文字を意味するピクトグラム(pictogram)に由来している「ピクトさん」(または、ピクトくん)という名前がついています。
ピクトさんという名称は、日本ピクトさん学会会長の内海慶一氏により2003年に命名されました。内海氏は驚くことに、ピクトさんの本まで出されているとのこと。
ピクトさんの詳細は、日本ピクトさん学会というサイトで、細かい分類を見ることができます。
非常口のマークは「かけこみ系ピクトさん」に分類されるようです。
ちなみに、ピクトさんの日は9月10日で、日本ピクトさん学会が設立された日を由来としています。
街のあちこちで見かける「非常口マーク」のピクトさんですが、種類があるのを知っていますか?
実は、背景が「緑色のマーク」と「白色のマーク」のものがあり、それぞれ意味が違うのです。
「非常口マーク」は、正式には「誘導標識(照明器具やバッテリーを内蔵するものは誘導灯)」と言い、火災などの緊急時に、階段や外に避難する方向を示すとても大事な目印として表示されています。
なので、それぞれのマークの違いをしっかりと覚えておきましょう。
背景が緑のマーク→「非常口そのもの」
背景が緑のマークは、「避難口誘導標識」といい、「非常口、避難口そのものの場所」や、直通階段の出入り口などに有効に避難できる出入り口など(避難口から直近の避難上有効な場所)である目印です。
背景が白のマーク→「非常口の方向」
背景が白のマークは、「通路誘導標識」といい、廊下や階段などに設置され、「非常口や避難口までの道路や経路」を表しています。矢印の方向に進んでいくと、非常口があるという表示です。
ではなぜ、「非常口マーク」は緑色が主体なのでしょうか。
それは、緑色は赤色の補色で、火災時、赤い炎のなかで最も目立つのが緑だからというのが理由です。
色には必ず「補色」という、相互に補完しあう色が存在します。
下の図は『マンセル色相環』という色の補色関係を表した図です。
円の対極にある色が補色関係となります。
補色関係の色は馴染まないため、一緒に配色するとお互いの色が目立つのです。
炎の「赤色」のなかでもっとも目立つ「緑色」で必ずピクトさんを配色することに重要な意味があったのですね。
さらに付け加えると、「非常口マーク」は右向きでも左向きでもOKです。
これは危険標識・警告標識・安全標識についての国際標準化機構 (ISO) の国際規格で世界共通マークとして決められています。
マークが制定された当時は「逃げる人は左向き」だけだったそうですが、逃げる方向が右なのに常に左を向いているのは直感的にわかりにくいという理由で、現在のピクトさんはその場所で逃げるべき方向を向いています。
非常口マークのデザインの生みの親はグラフィックデザイナーの太田幸夫氏です。
ピクトさんの誕生する前の非常口灯には文字で「非常口」と書かれていました。
その非常口灯に太田氏は課題を感じていたのだそう。
と言うのも、当初の非常口サインは、小学校5年生にならないと学習しない「常」の漢字を真ん中に「非」「常」「口」と3文字の漢字が並んだ文字表記でした。
1972年の大阪の千日デパート火災で104人、1973年の熊本の大洋デパート火災で118人もの死者がでる大惨事となった背景には、10ワット1本の蛍光灯内装サインが、煙で見えなかったのではないかと国会でも問題になり、消防当局は20ワットと40ワットを2本内蔵した巨大文字サイン灯に取り替えました。
火災と言うパニック状態の中で、当時の「非常口マーク」は、確かに多くの人が見てわかるような標識ではなかったようです。
1980年になって文字表記から絵文字表記の国家規格(JIS)に認定され、1984年に最終的には太田氏の考案した「非常口マーク」をもとに国際規格に認定されたのです。
まとめ
パニック状態の中で冷静に素早く非常口の場所を見つけることができるかどうかが、生きるか死ぬかの明暗を分けると言っても過言ではないと思います。
その目印になる指示灯がいかにはっきりと視界に飛び込んでくるかは非常に重要な点ですね。
ピクトくんの誕生は、災害時に我が身の安全を導いてくれる指針となるために必然であったのではないでしょうか。