認知症に関する本や雑誌には、必ずといっていいほど「認知症の人に対して感情的に怒鳴ったり責めたりしてはダメ」と書いてあります。
それは認知症の患者さんが抱える特有の不安によるストレスが大きく影響しているからです。
今回は、どうして認知症の方に怒鳴ったり大声をあげることがダメなのかを解説していきます。
認知症の方は、以前のような自分ではなくなってしまったことを自覚していますし、いろいろ忘れてしまうことに不安を覚えています。
ただですら不安なのに、誰かからそれを怒られたり責められたりすることで、より一層不安が大きくなります。
そのため、怒られた感情に怒りで対抗して不安を紛らわそうとしたり、萎縮して気力がなくなり、できることもできなくなってしまうことは珍しくありません。
認知症でなない方でも、仮に理由があって怒られたり責められたりしているとわかっていたとしても、嫌な気持ちになりストレスが蓄積されるのですから。
不安が増幅されたことからくるストレスは、そのストレスによって認知症の症状を進ませてしまうケースもあります。
また、認知症になると記憶力が低下しますが、感情記憶は残りやすくなります。
どうして怒られているのかは忘れてしまっても、「この人はいつも怒っている」という記憶は残るので、例えば介護者が「病院で診察を受けてほしい」「薬を飲んでほしい」という提案をしても、怒られるという怖さや脅えから拒否されてしまうこともあります。
本人の言い分をまずは聞いて受け入れ、不安を取り除くことがベターですが、同居している場合は毎日のことになるので、いつも仏様のような広い心で接してばかりはいられないことも十分理解できます。
それでも、介護側が感情的になりそうになった時、怒りをぶつけるのではなく、ほんの数分でもかまわないので、一旦その場を離れて気持ちを落ち着けることに集中してみてください。
深呼吸して怒りがおさまったら、また、認知症の患者さんとお話しを再開するようにしましょう。
患者さんは、できていたことができなくなってきていることには気づいていますので、世話をしてくれるご家族などの介護者さんに感謝の言葉をぽろっとこぼすこともあります。
そういう時間を重ねることで、ご家族は認知症についての認識を深め、患者さんの行動や態度には意味があることを理解して、患者さんを大切に思う気持ちをさらに再確認してみてください。
むやみに怒ってしまうことを回避していくためにも、これは大切な作業です。
介護者の家族さんが片付けても、お母さんがすぐに物を引っ張り出してしまうので、床やテーブルの上が物でごちゃごちゃに散らかってしまう。
大切な銀行の通帳や印鑑などもテーブルの上に置きっぱなしいなっていて、介護者さんが片付ける→お母さんが散らかす→介護者さんがまた片付ける、の繰り返しで、介護者さんののイライラは益々募るばかり。
実は、認知症で記憶力が低下してくると、自分以外の誰かに見えないところにしまわれると、何がどこに置いてあるかわからなくて不安になります。
銀行の通帳や印鑑をテーブルのよく見える場所に置くのも、本人が安心するためなのです。
片付けられないお母さんが可哀想だと思い、替わりに片付けてあげようというのは、周囲の勝手な思いであって、それよりも、まずはお母さんが安心して居心地よく過ごせるようにすることのほうが大切なのだとわかっていただきたいのです。
お母さんの部屋はお母さんのものなのだから、散らかっていてもいいじゃないですか。
危険な事故を防ぐために、つまづいて転んだりしそうなものが床に置いてある時だけ、別の場所へ移動させるぐらいでいいんです。
それでも、リビングや台所など家族の共有空間は、やっぱり整理整頓した状態を保ちたいと思われるのもわかります。
そこで折衷案として、片付けてもお母さんがすぐに引っ張り出してくるようなものは、机の上にクッキーの空き箱(可愛いくて目立つものがいいですね)などを置き、まとめて入れるようにしましょう。
いつも目に見える場所にあることで、お母さんも安心すると思いますし、散らかす頻度も減るのではないでしょうか。
まとめ
介護者さんは情けないやら、恥ずかしいやら、こんな汚い部屋にいても平気になっちゃったことが悲しくて、おもわず「どうして出しっぱなしにするの!」と怒ってしまうこともあるかもしれません。
でも、認知症の方が物を散らかすのは、大切なものがいつも目にはいっていないと不安になるからです。
介護者さんが片付けてしまうと、部屋はきれいになりますが、認知症患者さんにとっては不安のストレスをさらに広げる原因にもなるのです。
介護者の方も介護経験がある仲間同士で情報を共有したり、愚痴を言い合ったりする場所を見つけて意識的にストレス解消をしつつ、お互いが気持ちよく暮らせるようにしていきたいものです。