しかし、定年後も収入を維持できる人はほんのひと握りなのが現実です。
それでも、定年前後に手続きをするかしないかで、収入減を多少なりともカバーすることができるかもしれません。
今回は、定年前後の手取り額に大きく関わる「定年前後にトクする手続き」を紹介します。
定年後の働き方には主に、
・再雇用……同じ会社で再び雇用されて働く
・再就職……別の会社に就職して働く
・業務委託……会社に属せず、仕事を請け負って働く
・個人事業主・起業……新しい事業を始めて働く
などの選択肢があります。
このうち、もっとも多いのは再雇用・再就職、つまり、会社に属して働くことです。
しかし、再雇用・再就職の多くは非正規社員で、60代になると、非正規社員の割合が急増します。
加えて、60代以降は給与が大きく下がるというのも避けられない現実です。
パーソル総合研究所による「シニア人材の就業実態や就業意識に関する調査」では、定年後再雇用された人の約9割が「年収が下がった」と回答しています。
年収の「減額率」の平均は44.3%で、「50%以上下がった」という方も27.6%います。
金額の多少は人ぞれぞれですが、定年後は再雇用・再就職しても収入が減ることは避けられないようです。
再雇用・再就職をする際には、新たに雇用契約を結ぶことになります。
このとき、給与の一部を退職時にもらう退職金に回し、退職時に退職一時金として後払いしてもらうと、税金や社会保険料を節約できます。
60歳から65歳までの5年間、月給30万円(年収360万円)で働いた場合と、月給25万円(年収300万円)で働いて、毎月5万円を退職金に回した場合を比較すると、5年間の税金・社会保険料の合計は約56万円も少なくなる計算になり、その分、手取りが増やせます。
ただし、勤続年数が5年以下で「退職所得」が300万円超のときは「2分の1課税」が適用できません。
また、給与の一部を退職金に回すことで、納めるべき社会保険料が減るため、給与を退職金に回さない場合と比べて、もらえる老齢厚生年金が若干減る(この例では、年約1万3000円減る計算)点は理解しておきましょう。
定年前後の手続きの仕方によっては、支払う税金や社会保険料を減らしたり、手当や給付金をもらったりすることができます。
定年後、再雇用・再就職したものの、収入が減ってしまう可能性は高い、そんなときに利用したいのが「高年齢雇用継続給付」です。
高年齢雇用継続給付では、
・60歳以上65歳未満
・雇用保険の被保険者期間が5年以上
・60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に低下
という条件を満たした場合に、賃金の最大15%の給付金がもらえる制度です。
高年齢雇用継続給付には、失業手当を受け取らずに再雇用された場合の「高年齢雇用継続基本給付金」と、失業手当を一部受け取って再就職した場合の「高年齢再就職給付金」の2つがあります。
収入が減った場合、年金をもらいながら働くことを考える方もいるでしょう。
65歳から70歳までの間、老齢厚生年金をもらいながら厚生年金に加入して働くと、もらえる老齢厚生年金の金額が毎年10月に増加します。
これを「在職定時改定」といいます。
在職定時改定で増える年金額は、平均標準報酬月額(≒平均給与)30万円の方で約2万円(年額)。
毎年もらえる年金が増えるのを見ながら働けるので、モチベーションもアップするでしょう。
ただし、60歳以降の老齢厚生年金額(月額)と給与の合計が48万円(2023年度)を超えると、年金の一部がカットされる在職老齢年金という制度も覚えておいてください。
在職老齢年金では「(基本月額+総報酬月額相当額-48万円)×2分の1」の年金額がカットされます。
たとえば、65歳の人が月12万円の老齢厚生年金と40万円の給与をもらえる場合は、「(12万円+40万円-48万円)×2分の1=2万円」となり、老齢厚生年金額が2万円減額されます。
さらに、給与が月56万円まで増えると老齢厚生年金は全額停止となります。
年金をもらいながら厚生年金に加入する場合は、働き方を抑えたほうがいいでしょう。
在職老齢年金によって老齢厚生年金額が減額されるなら、老齢厚生年金を繰り下げ受給して年金額を増やそうと考える人もいるかもしれません。
しかし、在職老齢年金によって支給停止されるはずの部分は、繰り下げても増額の対象外になります。
70歳まで繰り下げた場合の老齢厚生年金は(12万円+12万円×42%)×12カ月=204万4800円とならず、(12万円+10万円×42%)×12カ月=194万4000円です。
退職後、新たに仕事を探すときに役立つのが失業手当と高年齢求職者給付金です。
64歳までは失業手当、65歳以降は高年齢求職者給付金がもらえます。
これらについては5月23日のブログに詳しく書いています。
再就職に向けてスキルを身に付けたい場合には、公共職業訓練が役に立ちます。
建築、電気、Webデザインなどさまざまな科目が、専門学校などに自費で通うよりもずっと安く学べます。
そのうえ、公共職業訓練を受講していると、失業手当がもらえる期間が訓練終了日まで延長されます。
60歳以上65歳未満の場合、失業手当の給付日数は90~240日(雇用保険の被保険者期間により異なる)ですが、公共職業訓練を受けている間は、訓練終了日まで失業手当の支給が延長されます。
たとえば、失業手当で日額6000円、240日間受け取れる人がいたとします。この人がもらえる失業手当は6000円×240日=144万円です。
しかし、失業手当の受給期間を100日残して6カ月(180日)の公共職業訓練を受講した場合、この公共職業訓練が終わるまで失業手当をもらうことができるので、もらえる失業手当は6000円×(240日-100日+180日)=192万円と、48万円も増えるのです。
さらに、公共職業訓練では、
・受講手当……1日500円(上限2万円)
・通所手当……最高4万2500円
・寄宿手当……月額1万700円
といった手当もあり、金銭的なサポートを受けながらスキルを身に付けられます。
また、再就職をしても事業所1カ所だけでは雇用保険に加入できない場合、複数の事業所に勤務する「マルチジョブホルダー制度」を利用して
・65歳以上で、2つ以上の事業所に雇用されている
・複数の事業所での1週間の所定労働時間が合計20時間以上であること
・雇用見込みが31日以上であること
を満たすことで、雇用保険に加入できます。
これにより、複数の事業所で働く人でも雇用保険に加入しやすくなります。
雇用保険に加入できれば、失業後に新たな職場を探すときに高年齢求職者給付金の受け取りができるので、ぜひ加入しておきたいところです。
まとめ
知識を身に付けておくと、何かあった時にすぐ実践できます。
自分ができる手続きをもれなく行い、お金がたくさん残るようにしていきましょう。