「他人に容姿をからかわれて傷ついた」
など、多くの人が自分の外形を見られたり、指摘されたりして嫌な思いをしたことがあるのではないでしょうか。
ここ数年、美の基準が大きく変化し、従来の美の基準に縛られず、自分の体形を受け入れようという「ボディポジティブ」の考え方が世界各国で注目され、広がってきています。
今回は、これまでの美の定義を覆し、ありのままの自分の体を愛するという「ボディポジティブ」の考え方をご紹介します。
ボディポジティブ(Body Positive)とは、「自分の体をありのままに愛そう」という、欧米を中心に始まったムーブメントのことです。
社会や他人が理想的な体型やサイズ、外見などをどのように見ているかにかかわらず、すべての人がポジティブなボディイメージを持つに値するという考え方です。
これにより「痩せた体型=キレイ」という従来の美の定義が無くなりつつあります。
この考え方は、プラスサイズだけではなく、どんな体型であっても当てはまらなくてはなりません。
ボディポジティブが最初に登場したのは、1960年代後半からアメリカで広まった、ふくよかな体型の人が受ける差別に反対する動きから、1969年に肥満体型に対する世間の仕打ちに強い憤りを感じていた人たちが全米脂肪受容推進協会(National Association to Advance Fat Acceptance、NAAFA)を設立しました。
そして、現在の形のボディポジティブムーブメントが始まったのは2012年頃で、作家で活動家のソーニャ・レニー・テイラーのスポークン・ワード・ビデオ「The Body is Not An Apology(身体は謝罪ではない)」が大流行したことで、自分の身体を愛するためのデジタル・メディア企業やソーシャル・ネットワーキング・サイトがスタートしました。
また、当時、欧米においてスリムな白人ばかりを起用するファッション広告に対して、人種的マイノリティーの女性たちが抗議するかたちで、「自分を愛そう」とSNSで「#BodyPositive」をつけて発信したこともあり、それがプラスサイズのインスタグラマーやブロガーの人たちの共感を得て、急速に広まっていきました。
世界ではボディポジティブの考え方に積極的に賛同する企業が増えています。
その事例のひとつとして、2013年12月にPlus-Size-Modeling.comが、プラスサイズのバービー人形の写真をFacebookに投稿をしたことが挙げられます。
そのバービー人形はこれまでのイメージとは異なり、二重アゴとふっくらした手足のバービー人形の姿で、賛否両論を呼びました。
投稿には17万人を超える人々が「いいね!」を押した一方で、「不健康な習慣を勧め、肥満を推奨している」など批判のコメントをした人が6,000人以上もいました。
また、アメリカのスポーツ誌「スポーツ・イラストレイティド」は、2016年の水着特集号で、アシュリー・グラハムを表紙のモデルに起用しました。
そのことがきっかけで、ファッション誌やブランドの広告に、従来の痩せているモデルだけでなく、ふくよかな体形のプラスサイズモデルが起用されるようになりました。
ボディポジティブが太りすぎや肥満であることに伴う健康上の懸念を無視していると批判をしている人も少なからずいます。
また、ボディポジティブの意味をはき違え、痩せている人が批判される傾向もあります。
痩せている人が、友人や同僚から「もっと食べた方がよい」などと言われることもあるようです。
逆に、ふくよかな人が自分の体型を必ず愛さなければならないという強迫観念に駆られたり、体型を愛せないことに罪悪感を抱いたりして苦しむ人が出てきたりということもあるようです。
ボディポジティブに似た言葉でボディニュートラルという言葉もありますが、ボディポジティブとボディニュートラルは焦点が異なります。
ボディニュートラルは、自分の体型に対する感じ方を、そのまま受け入れようとすることです。
ボディポジティブは外見に関係なくすべての身体が美しいことを強調しているのに対し、ボディニュートラルは外見に焦点を当てません。
身体に対する感情をポジティブでもネガティブでもないニュートラルとして強調しており、「自分の体型が気に入らないときがあってもいい」と中立的に許容するような考えなのです。
この自分の体に対して個々が抱くネガティブな感情もポジティブな感情もそのまま受け入れるというボディニュートラルの考え方は、世界で広がりを見せています。
まとめ
まったく同じ体重・体型を維持していても、その日の気分で自信を持てたり失くしたりすることは誰でもあります。
そんな日々移ろい変わる多様な自分の見た目や内側の感情を素直に受け止めて認めていくのがボディポジティブの考え方です。
見かけだけにとらわれず、多様な人たちが活躍できる新しい社会は、すべての人が自分らしく自分を愛して大切にできることを、スタンダードな価値観にしていくものです。
さらに自分の価値観はどうなのだろうかと振り返るきっかけにもなるでしょう。