自身の働き方を見直すために一時的に離職期間を設けることに意味はあると思っていても、中高年になると長年キャリアを歩み続けてきた同じ環境下から飛び出すのは勇気が必要かもしれません。
今回は、法政大学教授、田中研之輔氏著書『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』より、中高年にさしかかったサラリーマンに「キャリアブレイク」は通用するのか、経験者のキャリア育成について考えてみたいと思います。
会社への不満や家族の介護といったマイナス要因による離職や休職だけでなく、スキルアップや新しいチャレンジのために、あえて一定期間「無職」という生き方を選ぶ「キャリアブレイク」という考え方が広がっています。
キャリアブレイク研究所が行った調査では、離職・休職理由に「心身の不調」などといった切迫した理由がある一方、自分磨きのために無職期間中の時間を費やすなどポジティブな理由も目立ってきています。
【離職・休職した一番の目的は何ですか?(複数回答)】
心身の不調を改善するため……51.7%
自分に合った働き方を見つけるため……31%
当時の会社をとりあえず離れたかった……27.6%
人生を見つめ直す時間を持つため……24.1%
留学やリカレントなど……10.3%
出産や育児、介護など……10.3%
転職先を見つけるため……6.9%
家族の転勤、転職など……6.9%
そこまで深く考えず、ただ休みたかった……6.9%
やはり一番の原因は「心身の不調」のようですが、比較的ポジティブな目的も多いのは、離職や転職を前向きに考えている方も多いということです。
しかし、中高年層の男性サラリーマンにとって、長年勤めた会社をスッパリと離職するには高いハードルがあることは想像に難くないと思われます。
前向きなキャリア形成の手段として、長期の離職は本人にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
女性は比較的ライフステージが進むのに伴いキャリアがバラけていきますが、男性は横並びで同期などと比較されやすく、離職・休職に強い抵抗感があるのは事実です。
だからこそ一度立ち止まって自分を見つめ直すという意味でも、数か月単位の休みを取ることは次のステップにつながりやすいと言えます。
無職期間における気持ちは「解放→虚無→実は→現実→接続」の5段階で推移していき、なかでも虚無期をいかに乗り越えるかがキャリア形成の成否を分けるポイントだといいます。
キャリアブレイク中は気持ちの浮き沈みに、精神的な消耗を抱える方も少なくありません。
その推移から、より自分らしいキャリア形成に至る過程がうかがえます。
会社から離れ、表面的な欲求をひと通り満たすと、焦りや虚無感が高まっていきます。
特に男性は周囲から心配されて、どうしても精神的に落ち込みやすくなるため、離職期間を有意義に過ごすには、家族の理解はもちろん、共感し合える仲間づくりも大切です。
離職中の人がつながりやすい「無職酒場」や離職中の人が集まる「おかゆホテル」などに足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
「無職酒場」
キャリアアップの実現には、離職期間の過ごし方が重要です。
ポイントは
アイデンティティ(自分らしさ)と、アダプタビリティ(変化への適合)
キャリアは自分軸で言語化することが基本です。
先輩がやめたから自分も、という他人軸で行うのは良くありません。
企業側は離職期間にキャリアにつながる成果を求めてくるため、時間を戦略的に使ってインプットしていくことがポイントです。
転職市場での価値という観点において、それぞれの業界のトレンドを踏まえ、そこに徹した学びやアウトプットが必要になってきます。
一方、履歴書の空白期間を過度に恐れる必要はないとも言えます。
履歴書に書くことがないと悩むよりも、仕事を通じて自分はどうありたいかを自分自身に問い続けることが大切です。
それがキャリア形成の嗅覚を養い、離職中の時間を実りあるものにするのです。
欧米ではキャリア転職がかなり浸透しているようですが、キャリア開発の領域で、キャリア自律や主体的なキャリア形成の考え方は世界的なトレンドとなっており、日本においても働き盛りの離職は、キャリア形成の充電期間として、今後広まっていくと考えられます。
社員の人材的な価値を維持し続けるためには、従来の現場の仕事を通じて知識や技術を体得する方法では、難しい時代になってきているのです。
だからこそ履歴書の空白期間を新たな飛躍に必要な時間としてポジティブに捉えて考える意識改革が求められているのかもしれません。
最後に、田中氏が考案した、社会の変化や自分の意思に応じて自由にキャリア形成していく力を問う「プロティアン診断」で、あなたのキャリア形成力をはかってみましょう。
【キャリア形成力度チェック】
毎日、新聞を読む
月に2冊以上、本を読む
外国語の勉強などスキルアップのために学習を続けている
テクノロジーの変化に関心がある
国内の社会変化に関心がある
海外の社会変化に興味がある
仕事に限らず、新しいことに挑戦している
現状の問題から目を背けない
問題に直面すると、解決するために行動する
決めたことを計画的に実行する
何事も途中で投げ出さず、やり抜く
日ごろ、複数のプロジェクトに関わっている
定期的に参加する(社外)コミュニティが複数ある
健康意識が高く、定期的に運動している
生活の質を高め、心の幸福を感じさせてくれる友人がいる
あなたはいくつチェックが入りましたか?
12個以上→プロティアン人財
変幻自在に自分でキャリアを形成し、変化にも対応できる
4~11個→セミプロティアン人財
キャリアは形成できているものの、変化への対応力が弱い
3個以下→ノンプロティアン人財
現状のキャリア維持にとどまり、変化にも対応できない
11個以下の人はチェック項目が増えるように行動する努力をしましょう。
まとめ
結果的に同じ会社に復職する場合でも、離職・休職を経て、副業を始めたり、家族との関係が変化したりして、働きがいを取り戻す人は少なくありません。
キャリアブレイク期間中に「幸せの重心」が会社から離れ、年収や役職といった目に見える待遇面には表れない幸福感につながることも多いようです。