仕事や生活に支障をきたすまでになれば「社交不安症」と診断され、治療が必要になることもあります。
大勢の人の前で話すときはいつも緊張して声がふるえ、冷や汗が出たり、顔が真っ赤になり、それが恥ずかしくて頭は真っ白になってしまう。
本来の自分はそうでないのに、職場の雑談にも気軽に加われず、周囲からは内気で引っ込み思案だと思われていることに悩む、あがり症の人は少なくありません。
今回は、あがり症のメカニズムと対処法について考えてみたいと思います。
初対面の人だらけのなかにひとりで入っていく時、誰にでも多少の不安はついて回ります。
しかし、あがり症の人は知らない人だらけの中に参加する自分の状態ばかりに注意が向いているため、人に笑われるような振る舞いをしているのでは…、場違いな奴が来たと思われているのでは…、と、自意識を過剰に強くして不安をさらに大きくしてしまうのです。
精神面の不安は、ふるえや冷や汗などといった身体の症状にも現れ、ますます悪循環をもたらします。
コロナ以降に増えたリモートワークですが、直接対面しないことで楽になる人もいれば、逆に緊張する人もいるのです。
あがり症は仕事ばかりでなく、スポーツでも起こります。
例えばゴルフのように打ちっ放しの練習ではできるのに、本番は緊張してミスを連発してしまうように、これも過剰な自意識が関係していると言えるでしょう。
スポーツでは、練習を繰り返すことで、基本動作は意識しなくてもできる自動化が起こるようになります。
ただ自動化を会得しても、あらためて『より正確に』を意識しすぎてしまうことで、自動化された動作がスムーズにできなくなってしまうのです。
こうしたあがり症の対策として2つの注意トレーニング方をご紹介します。
まず挙げられるのは「自分に向かいがちな意識を自分以外に向けるトレーニング」です。
緊張しそうになったら、自分が写真家になったような気持ちで、周囲の人を観察してみるといいでしょう。
そうすることで、自分へと向かう意識が軽くなります。
また、そこからもう一段発想を転換して「そもそも他人はそれほど自分に注目していない」「人前でうまく話せなくても、日々の努力を見てくれている人がいる」「ミスショットは誰でもやっていることだ」などと考えるようにすると不安が和らぎます。
ふたつ目は、「体からアプローチするトレーニング」です。
例えば緊張すると人間は呼吸が浅くなるため、緊張してきたと感じた時に意識して深く呼吸するのを心がけます。
自己流の深呼吸でなく、日ごろから呼吸法を学んでおいて、プロの呼吸法をマスターしておくと心強い味方になってくれるでしょう。
緊張で体がこわばってしまったときのために、筋肉をほぐし、リラックスできるストレッチをマスターしておくのも有効です。
あがり症といっても、治療が必要な重度の社交不安症と診断される例があることも知っておきましょう。
学校や仕事を休まなくてはならなくなるほど、日常生活に支障をきたしているなら精神科で相談する必要のあるレベルの症状です。
ただこのような状態でも病気と認識されず、適切な治療を受けていない例は少なくないようです。
社交不安症は、患者の約75%が、8~15歳で発症するとされています。
適切な治療を受けないままほおっておくと、うつ病の発症リスクが高まります。
保護者は、日頃から子どもの状態をよく見ておくことが大切です。
治療には主に薬物療法と認知行動療法があり、治療薬としてはうつ病の治療にも用いられる薬などが候補に挙がります。
認知行動療法は「緊張でうまくいかない」という思い込みや行動を、様々な方法を活用してバランスのよいものに変えていく方法です。
例えば、自らの人前での発表を映像で客観的に見直し、実はそれほど緊張しているようにみえないと確認するといったやり方もあります。
まとめ
病的なものでないあがり症や内気で引っ込み思案な人は、不安がある分、確実で丁寧な準備をするため、素晴らしい成果につながることもあります。
内気で慎重な性格は、かえって高い評価につながることもあるのです。