親は子どものためにと思ってしているのですが、長年その言葉を浴び続けた子どもにとっては、まさに「呪いの言葉」になってしまうのです。
今回は、犯罪心理学者・出口保行氏著書『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』から、親が子どもにかける日常の言葉の怖さについて考えてみたいと思います。
「子どもを呪う言葉と救う言葉」と聞くと、ドキッとしませんか?
毎日当たり前のように親が口にして子どもにかけている、たとえば、「気をつけて」や「早くしなさい」、「がんばって」というような言葉が、重大な犯罪の引き金になることがあるそうなのです。
たとえば、「早くしなさい」という言葉などは、親が無意識のうちに子どもに投げてしまう言葉のひとつですが、その言葉を浴び続けた子どもは、時間の感覚が育たず、進路や将来設計を考えるのが苦手な子に育ってしまう可能性があります。
また、「気をつけて 」という言葉は、おy派にとっては子どもが災難を回避してもらうための言葉としてよく使いますが、この注意を促す言葉が、他者の危険や痛みを感じ取ることのできない、他者の気持ちがわからない子どもになってしまうかもしれないのです。
危険や痛みを自分で知ってこそ、分かることもあるからです。
何気ない言葉かけですが、親のちょっとした意識改革で子育ては大きく変わります。
「気をつけて」、「早くしなさい」、「がんばって」。
親ならどれもよく使う言葉かと思いますが、では、子どもの犯罪にこれらの言葉がつながるとは、どういうことでしょう。
それら一つひとつの言葉かけ自体が悪いわけではありません。
日常の親子関係が良好であれば、そうした言葉は全部子どもによい言葉・救う言葉として届くのですが、親子関係がよくない状況だと、違った形で子どもに届いてしまうのです。
呪いの言葉1.「がんばって」
「がんばって」という言葉は、親からすると、心から子どもを応援するつもりでかけることがほとんどでしょう。
しかし、いつもダメ出しをされていたり、親子関係がよくない状態だと、子どもから見れば「せいぜいがんばってね」というような、皮肉を含んだ響きに聞こえてしまうようなのです。
これは親子に限らず、どんな人間関係でも起こります。
たとえば上司と部下の関係があまりよくない場合に、上司からかけられた「がんばったね」という言葉が、「がんばったけど、結果に結びつかなかったじゃないか」というような、違った意味を含んで部下に聞こえてしまったりするように。
「がんばって」という言葉をかけたときに子どもが浮かない表情をしていたら、子どもの置かれている状況や日頃の親子関係を振り返ってみるといいかもしれません。
呪いの言葉2.「みんなと仲良く」
誤解を生みやすい声かけの中で、親がよく使うにもかかわらずドキッとする言葉があります。
それは、「みんなと仲良く」です。
幼稚園・保育園に入園するときや、小学校に入学するときなど、「お友だちがたくさんできるといいね」とか「みんなと仲良くするんだよ」というようにお子さんに声をかけることは多いと思います。
幼稚園や保育園、学校の先生でも、子どもたちにそんなふうに言ったりします。
これが、親子関係がうまくいっていない場合、一歩間違うと子どもの個性を壊してしまうことになりかねない言葉になってしまうというのです。
なぜかというと、「自己主張がしづらくなる」からです。
みんなと仲良くするために、自分の思っていることに言わなかったり、「違うな」と思っても黙っていたり。
自分の発言や行動によって和を乱さないようにしようとするため、「思ったことがあっても黙っていよう」となるそうなのです。
そして怖いのが、その「自己主張をしない」という状態が長く続いてしまうことです。
いじめられたり嫌なことがあっても、「嫌だ」と自己主張できなくて、なんとなくその場に行くのが嫌になり、幼稚園・保育園や学校に行きたくなくなったり、部活を休んだり、ということが起こりかねません。
「みんなと仲良くしてほしい」という親の期待が、子どもを苦しめたり、自分の気持ちを素直に表に出せなくしてしまうのは、とてもつらいことです。
「みんなと仲良く」は理想ですが、現実には大人でも難しいことで、それは好き嫌いや相性の良し悪しはどんな人にもあるからです。
「みんなと仲良くできなくても仕方ない。そういうこともあるよ」という割り切りをすること、仲良くできない人がいても、無理して仲良くならなければと思わなくていい、仲良くできる人とだけ関係を深めていけばいいのだと、「自分の気持ちに正直でいること」の大切さも教えてあげてほしいと思います。
呪いの言葉3. 「早くしなさい」
今まで子どもに何度言ったかわからない「早くしなさい」という言葉。
これは、「先を読む力」を阻むことになるかもしれません。
子どもに、「早くしなさい」と急かすと、目の前のことに深く向き合うことをせず、「どうしたら早くできるか」というように、やり過ごすことに気持ちがいってしまいます。
すると、「言われたことをやっていればいい」と自分の頭では考えない人間になり、「あれをやるために、今はこれをやっておかないと」というような、自分の頭で逆算して考える余裕がなくなってしまい、いわゆる「指示待ち人間」になってしまう可能性があります。
今どきの親はたいてい四六時中忙しくバタバタしていますから、子どものことをあまり考えずに、自分のペースでつい口癖のように、上記のような声かけをしがちです。
ほとんどの場合、その言葉は子どもにプラスに作用しますが、親子関係がうまくいっていなかったり、子どもが思春期にさしかかっていたり、あるいは幼稚園・保育園や学校で嫌なことがあったり、気持ちが沈んでいるときなどは、違う意味をもって届いてしまうこともあります。
親が思っている気持ちとは違う意味で、子どもに言葉が届いているかもしれないということを意識されるだけで、よりお子さんの成長につながるような声かけができるのではないでしょうか。
まとめ
親子の間での良好な関係や子どもの良い社会的状況があった上で、はじめて親の声かけがうまく作用するのではないでしょうか。