そこで今回は、もうモラ夫と結婚生活を続けることができないと考えている方に、弁護士の大貫憲介氏の著書『私、夫が嫌いです』から、モラハラを理由に離婚するにはどうしたらよいのかを掘り下げてみたいと思います。
モラハラはまだ法的に認知されている概念ではなく、離婚裁判でモラハラと認定されるわけではないため、モラハラだけを理由に離婚するのは難しいケースが多く、モラ夫が分かりやすい暴力や不貞行為を働いている、既に別居しているなど、婚姻関係の破綻の事実を裁判所に提示する必要があります。
外聞的に普段は優しく、育児や家事も分担し、経済的にも妻に不自由させていない夫が、モラスイッチが入ると妻を馬鹿にしたり、外見をいじったり、子どもに妻の悪口を吹き込んだりするというような、明らかなイジメやモラハラでも、離婚弁護士としては、「モラハラ」を証明するのではなく、裁判官に「こんな夫婦関係だと婚姻関係を続けられない」と思わせることを目指さなければなりません。
多くの女性にとっては、夫の言動がモラハラと認定されるかどうかではなくて、速やかに離婚が認められ、親権や養育費、適正な財産分与を得ることの方が大切なのです。
2023年7月に不同意性交等罪が成立し、夫婦間であっても同意のない性交は犯罪とみなされるようになりましたが、夫婦間の協力義務には子を産み育てることも含まれるので、解釈上、夫婦間性交渉を義務的に捉える考え方が未だに裁判所に残っています。
なので、わかりやすい暴力などの身体的な加害の証拠がないと、夫婦間での不同意性交罪の成立は容易ではありません。
不同意性交や家庭内痴漢は、離婚理由の補強にはなりそうですが、それだけで夫を有責配偶者として慰謝料請求するには、ハードルが高いと考えられます。
それでも7月の刑法改正で、夫婦間にも不同意性交罪が成立することが確認されたので、今後、裁判所の意識も少しずつ変わっていくと思われます。
分かりやすい暴力や不貞があれば慰謝料請求や損害賠償請求についても認められやすいといえますが、あくまでケースバイケースです。
夫のモラハラ発言をメモに残したり録音しておく、公の機関にモラハラを相談して記録を残す、メンタルクリニックに診察してもらうなど、モラハラの証拠やその被害の記録を残しておくのが必須だと言われていますが、現実は「証拠」だけでは慰謝料が認められるためには足りません。
裁判で、担当裁判官を納得させられるかどうかが最優先なのです。
自分の裁判で、どの裁判官が担当に当たるかは事前には分からないので、例えば、裁判官自身がモラ夫の価値観に寄った考え方の持ち主である可能性もあるわけです。
担当した裁判官の考え方と離婚弁護士の弁護力が大切なのです。
ただ、裁判所は一般的な日本社会よりも遥かに男女平等の世界であり、女性の裁判官も多く、女性に対する理解は深いところです。
それでも、離婚弁護士が担当裁判官の価値観を前提にして、どのように弁護していくかという手腕が非常に問われるところになります。
モラハラそのものを罪に問うことは難しいとしても、では、そうした中で最短ルートで離婚するにはどうすればいのでしょう。
最短で離婚を成立させるには、モラ夫から離婚を請求させることです。
モラ夫はモラハラ行為の対象である妻の存在に依存しているため粘着性が強く、なかなか離婚したがりません。
まずはとりあえず別居し、婚姻費用を払ってもらいながらモラ夫からの離婚請求を待つほうが、結果として離婚成立が早くなることも少なくないのです。
家庭裁判所の算定表に記載されている婚姻費用は、例えば、夫と妻の年収格差がほとんどなく、子どもが独立していると、婚姻費用は毎月9000円から2万円程度しかもらえませんが、モラ夫にとってはどれだけ低い金額でも別居している妻にはお金を払いたくないと考えます。
モラ夫は自分の加害性に気づかず、むしろ「妻を正しく指導してやっていたのに、勝手に出て行った」と、自分を被害者と捉えています。
なので、被害者の自分が金を払い続けるのが嫌になるのです。
妻の収入のほうが高く、子どもがいない場合などは、逆に妻が婚姻費用を払う事例もありますが、その場合でも、別居するほうが最短で離婚に近づくと思います。
反対に、専業主婦で、お金に余裕のない場合でも、離婚したいのであれば、まずは自分や子どもの心身の健康のために別居することが重要です。
身を寄せるところがなければシェルターもありますし、法テラスで民事法律支援制度を使った無料相談を受けたり、離婚弁護士を分割払いなどで雇うこともできます。
心を病むまでモラ夫と一緒にいると、心身を壊してしまうので、経済的な不安よりも自分と家族の心身の健康を最優先に考えましょう。
それに、どちらかが専業主婦(夫)や有責配偶者であっても、夫婦は結婚後に築いた財産を均等に分ける必要があります。
だから、財産の半分は手にする権利があり、子どもの養育費も同じく年収により決まるので、どちらが有責配偶者かどうかは関係ないのです。
経済力のない女性は経済力をつけるとともに、離婚時は養育費や財産分与をきちんともらうべきなのです。
既に子どもが独立した後の熟年離婚の場合は、財産分与等の経済的条件の妥当性や慰謝料をとれるかなどの条件面よりも、モラ夫の妻に対する執着・依存がさらに強まるパターンが多いので、どのようにその執着心を収めさせるかが鍵になります。
まとめ
つまり、日本の女性たちは男性は結婚するとモラ夫になりやすい傾向があるということをわかっていて、結婚後に妻を支配して心を通わせなくなることを不安に思っているのです。
現代にも夫婦間のモラハラが生まれやすい原因として、日本の家父長制が伝統文化として継承されているからというのは否めません。
妻を性欲処理、自分の世話や家事・育児を担当する便利な存在としてでなく、お互いに幸せな生活を築くパートナーだと捉えていれば、モラ夫になることはないはずです。
現実に離婚に進みかけたときに弁護士事務所や裁判所で「妻の態度が悪かった」から「妻に教えてやった」のだと責任を転嫁し、「俺は家族のために頑張って働いて来た」「俺も我慢して来た」と決して反省せず、自分の方が被害者だと号泣するモラ夫も少なくありません。
この結婚観に対する決定的な食い違いが、モラ夫がいつまでも世の中からなくならず、女性が未婚や子どもを持たない選択をする一因となっているのは確かなようです。
『私、夫が嫌いです』