スピーチ&コミュニケーション戦略研究家の岡本純子氏によると、人はほめすぎるとほめられることに慣れてしまい、自己肯定感を高める効果がなくなっていくのではないか、という心配をされる方がおられますが、その心配には根拠がないそう。
1週間にわたって1日1回ほめられた人は、日が経つにつれてその効果が下がるのではないかと予想されましたが、毎日同じように効果があったとの報告もあるようです。
今回は、岡本純子氏著書『世界最高の伝え方』から、人はホメると伸びるのか、をテーマに掘り下げてみようと思います。
他者からの期待を受けることで、成績や仕事の成果が上がる心理効果を「ピグマリオン効果」と言います。
この効果名の由来は、キプロスの王ピグマリオンが自分で彫った乙女の像を愛しつづけた結果、像が本物の人間になったというギリシャ神話にあり、実際にこの効果は、数多くの科学的研究によっても実証されています。
特に有名な研究として、アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールが行った実験があります。
その実験とは、無作為に選んだ児童の名簿を教師に見せ、「この名簿の児童が、成績が伸びる子どもたちだ」と伝えたところ、本当にその子たちの成績が向上するという結果が出ました。
教師が自然とそうした子どもたちに目をかけることで、「子どもたちが期待に応えようとして、パフォーマンスが向上する」ことが確認されたのです。
この実験は再現性がないと批判もされましたが、言葉による肯定は、お金をもらったのと同じように脳を活性化するということが、脳科学者の研究などによって明らかになっています。
ならば、なぜ「ほめる」とやる気が刺激されるのでしょうか。
それは、ほめられると、脳内に快感や多幸感の素となるドーパミンが放出され、誇りと喜びの感情が生まれるからです。
人間は、「ほめられる行動をすれば、さらにもっとほめられる」ということを理解し、繰り返すようになります。
これは、「好ましい行動をほめ、同じ行動を繰り返させる」という意味の「正の強化」(positive reinforcement)という、犬やイルカの訓練にも使われる教育訓練法です。
犬のトレーニング同様に、人に対してもいい行動をしたときに、「そう、それ!」「それがいいの」と刷り込み、行動を変えていきます。
弱みよりも強みに焦点を当てることで、はるかに人は成長していくのです。
「ほめること」の効果
・やる気を刺激する
・絆を強める
・生産性が上がる
・信頼感が増す
・気分がよくなる
・幸福感が増す
・健康を促進する
・お金をもらったときと同じ効果をもたらす
根拠がない思い込みでも、無意識にその方向に向けた行動をとっていると、予言が現実のものとなる現象を「自己充足的予言」と呼びます。
「あなたはできない」
「あなたにはムリ」
と言われつづけた子どもと、
「あなたならできる」
「あなたには才能がある」
と言われつづけた子ども。
どちらの自己肯定感が高く、自信を持ちやすくなるかはシンプルにわかりますね。
まさしく、『言葉が人をつくる』ということなのです。
しかし、誰かを「ほめる」というのは、けっこう難しいものです。
そもそも、ほめられることが、これほど人を喜ばせ、モチベーションを上げる効果があるということ自体があまり理解されておらず、「ほめる」ことの価値が過小評価されています。
「うまくほめることができない」
「わざとらしいい感じがする」
と、自分のほめ方に自信が持てない、という人も少なくないでしょう。
元来、人には「ネガティビティバイアス」という脳のクセがあります。
意識していなくても、ネガティブなものや良くない点、トラブルに目が行きがちなのです。
それは人の生存本能から来ているもので、かわいらしい花よりも自分の命を狙う動物などの脅威に先に気がつくようにできているのです。
だから、
この子は、本当にだらしない
この人は、やる気がない
など、子どもや部下の悪いところばかりが先に気になってしまうのです。
人はネガティビティバイアスにとらわれがちであることを理解したうえで、意識してポジティブな面に目を向けるようにしましょう。
・たまに遅刻するけれど、元気に学校に行っている
・ちょっとミスはするけれど、いつも明るくチームを盛り上げてくれる
「自分の価値を認められたい」と言う気持ちは、どんな人でも持っているもの。
遅刻やミスに焦点を当てるのではなく、まずは元気でいつも明るくいることをほめてあげることが先決なのです。
とはいうものの、「ほめること」ことに対してついつい頭に浮かぶのが、
「ほめてばかりいると甘やかすことになるのでは?」
「ほめることがクセになり、ほめられないと何もやらなくなるのでは?」
という意識です。
残念ながら、人間はほめられることで得られるドーパミンはそれほど長くは続かず、「ほめられる→働く→ほめられる→働く」というループを構築するためには、繰り返し、ほめていく必要があります。
一年に一度、数カ月に一度というペースでほめていても、効果は発揮されにくいのです。
ほめ言葉は、「うわべだけ、口先だけのほめ方」だと、効果は短期的で、相手を「ほめ依存」にさせてしまう可能性があります。
「もっと持続的で、確かな効果を持つほめ方」を知り、アップデートすることが必要なのです。
実は万人に効く「ほめ方」というのはありません。
人によって、好みの「ほめられ方」は異なり、表立ってほめられ、みんなに認められたい人もいれば、自分だけにそっと伝えられたい人もいます。
初心者や若手が、ほめられるのを好む一方、上級者やエキスパートになると、より成長につながる、多少厳しめの評価を好む、という研究結果もあります。
どのような形にせよ、ほめさえすればいいというものではなく、きちんとしたほめられる理由とタイミングがあるときに、与えられるべきものであり、「ほめ」の乱用はその価値を失わせてしまいます。
ただ、ほめる頻度が高すぎると、相手が慣れてしまい、ほめ言葉の価値が下がって効果がなくなるのではないかという心配をされる方もおられるでしょうが、シカゴ大学の教授らの研究では、「1週間にわたって1日1回ほめられた人は、日を追うにつれてその効果が下がるかと予想されていたものの、毎日同じように効果があった」という結果が報告されており、根拠がないことがわかっています。
まとめ
上質でバランスの取れた食事をタイミングよく摂取することで、心身が健やかにになるように、上質なほめ言葉を定期的に与えることで、グングンと人は成長をしていくということなのです。
誰もが、自分の価値を認められたいと思っています。
人のやる気やテンションを大いに上げる上手なほめ方を学び、あなた自身とそのまわりにいる人を幸せにしていきたいものです。
『世界最高の伝え方』