厚生労働省や日本歯科医師会が推進する「8020運動」が示しているように、理想は「80歳時点で20本以上、自分の歯を保つ」ことですが、現実は、そう簡単なものではない…、と感じている人も少なくないと思います。
今回は、一生、自分の歯で食べ続けるためには、どんなことが必要なのかを生活面での上から考えてみたいと思います。
そもそも「自分の歯を失う理由」としては、一般的に大きく次の3つが挙げられます。
1.歯周病
歯を失う最も大きな原因といわれているのが歯周病です。
歯周病は症状なく進行するため、「サイレントディジーズ(静かなる病気)」とも呼ばれます。
症状が表に出始めたときには、既に中等度以上に進行してしまっていることが多く、慌てて歯科医院を受診しても保存困難となり、抜歯に至るケースが多くみられるためです。
2.虫歯
「虫歯が進行した痛みで、歯医者さんで神経を取る治療をした」といった話を聞いたことがあると思います。
神経を取った歯は「失活歯(しっかつし)」といい、神経がなくなったことで痛みは取り除かれますが、歯の強度が脆くなる上、新たに虫歯ができても痛みを感じにくくなってしまいます。
痛みがない分、虫歯が進行しすぎて、歯が崩壊してしまってから初めて気が付き、受診されるケースも多いのです。
その場合もやはり抜歯になり、歯を失ってしまいます。
3.根先性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
歯の根の病気に根先性歯周炎があります。
神経の治療が終わった歯や、神経が自然に死んでしまった歯では、神経が入っていた歯の中の穴をつたって、細菌が根についてしまうことがあります。
虫歯のように、しみたり、ズキズキと鋭く痛んだりするのではなく、「鈍痛」「かむと痛い」「歯茎が腫れてくる」という症状が主体となります。
根の病気が大きい場合、抜歯となり、歯を失うこともあります。
高齢者の方は、歯にトラブルを抱えている場合が比較的多いため、食事をおいしく楽しめない方もいらっしゃいます。
また、入れ歯などは味の感じ方も変わってくるため、多くの自前の健康な歯が残っていることは、生活の質という観点からも大きなメリットになると考えられます。
歯が悪い人は、何かとやわらかい食事に偏りがちで、炭水化物を多く取る傾向があります。
自分の歯が多く残っていれば、タンパク質を積極的に取ることもでき、歯だけではなく体の健康にも影響するといえます。
イメージとしては、高齢でも歯が多く残っている人は、少ない人よりも元気で年齢を感じさせない、はつらつとした人が多いのではないでしょうか。
歯が多く残っていればそしゃく機能も保たれますが、入れ歯などにより回数が少なければ自然とうまくそしゃくもできなくなり、使わなければ“廃用委縮”(次第に機能しなくなってしまうこと)が始まってしまいます。
入院中の高齢者で、胃ろうから栄養摂取している場合は、口を使うことがなくなるので唾液が出なくなり、粘膜は乾いてしまって傷つき、歯も虫歯が増えてしまいます。
歯が多く残っている高齢者の共通点としては、食事内容に気を使いながら、何でも食べて元気な点ではないかと思います。
食欲は、人が生存する上での大きな欲求です。
食欲を上手に満たすことができれば、楽しみの欲求も同時に満たされ、生活の充実度が向上するためか、何事も前向きに捉えられるという生活そのものに対する相乗効果もあるのではないでしょうか。
自前の歯を守るためには、一生懸命歯磨きをしたり、定期的な歯のメンテナンスに通っていたりする人が多いようですし、実際、歯科医院での定期的なメンテナンスが最も効果的だと思います。
メンテナンスでは歯のクリーニングやチェックがもちろん行われますが、それだけではなく、良質な歯のための健康情報を得ることで、自宅でのセルフケアを充実させることができるのです。
まとめ
歯周病は『サイレントディジーズ』なので、気が付いたときには手遅れになってしまっていることが多いので、歯科医院の定期的な受診を習慣化し、ちょっとしたことでも相談できるかかりつけの歯科医をもつことが、一生自分の歯で食べ続けることにつながります。
今日からできることとしては、しばらく歯科受診から遠ざかっている方は、『歯に痛みがなくても、今すぐ歯科医院に予約の電話を入れる』ことだと思います。