相手に感謝を示すことは他者へのポジティブな影響を与えるほかに、本人自身にも無数の効能があることがわかっています。
また、コミュニケーションの熟練者は、褒め方がうまいだけでなく、自分が褒められた場合の返し言葉も秀逸です。
今回は、これまで1000人以上の社長・企業幹部の話し方を改善してきたスピーチ&コミュニケーション戦略研究家の岡本純子氏著書『世界最高の伝え方』から褒め方のスキルアップ法をご紹介します。
最初のステップは「感謝する」です。
感謝することの効用は数多くの研究で実証されています。
ペンシルベニア大学ウォートンスクールのアダム・グラント教授の研究によれば、上長からの感謝のメッセージを聞いた大学職員は、そうでない職員に比べて約50%も多く募金を呼びかけることができたそうです。
「感謝を示す」ことは他者へのポジティブな影響のほかに、本人自身にも
・人間関係の輪を広げることができる
・身体の健康を増進させる
・妬みや恨み、不満や後悔に至るまで、多数の負の感情を軽減させる
・よく眠れるようになる
・自尊心を向上させる
など、無数の効能があることが知られています。
みなさんは、日ごろ、まわりの人にその感謝の気持ちを伝えていますか?
街中の飲食店でよく見かける、不機嫌なお客さま。
とくに平日のランチタイムなどは、早く食べて早く仕事に戻らなければと考える方が多いためか、店に入るときも出るときにも無言のままというのを多く見受けます。
とくに中高年の男性の「ありがとう」「ごちそうさま」と言う声はあまり聞こえてきません。
「ありがとう」は店員が客に言うもので、客が言うものではない、という考えなのでしょうか。
まるで、「ありがとう」とい言った方が負けだと言わんばかりに、バスやタクシーの運転手さんや飲食店の店員さんに対して無愛想な人は、残念ながら少なくありません。
感謝の気持ちは、伝えられた人をいい気分にし、モチベーションを上げるだけではなく、伝えた本人の幸福感も上がります。
ただ、感謝を伝えるといっても、「ありがとう」ぐらいしか思いつかないし、とりあえず、ありがとうを機械的に言っている方もいるかもしれません。
そこで、今回は、「感謝の言葉の言い換えの事例」をご紹介します。
まずは、NGの言葉編。
もったいないお言葉でございます
恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます
ご厚情、痛み入ります
ご厚誼(こうぎ)を賜り、お礼を申し上げます
格別のご厚情を賜り、衷心(ちゅうしん)より感謝申し上げます
マナーとして紹介される、こういった丁寧すぎる言葉の数々は、まず話す場合には使わないと思いますが、書き言葉でもおすすめはできません。
それは、まさにマニュアル通りの感謝の言葉でしかないからです。
どこかからコピペしてきたような堅苦しいあいさつを、誰が嬉しく感じるでしょうか。
気持ちのこもらない言葉は即刻、封印することをおすすめします。
言葉はそこに気持ちがのって、はじめて命が吹き込まれます。
「言葉」ではなく、そこに込められた「思い」が心を動かすのです。
誰にでも言っていそうな型通りの「ありがとう」ではなく、相手だけに向かって一生懸命伝える「ありがとう」にしたいものです。
そのためには、まずは言い換えルール「小さく、具体的に」を心がけていきましょう。
正しい言い換えとは、
○○したときに、○○してくださって、ありがとうございます!
○○など、○○〇をありがとう!
こんな○○は久しぶりです。感動しました。本当に嬉しかったです!
お忙しいのに、○○していただき、感謝しています
○○など、自分では気づかなかったことがわかり、勉強になりました
これは、○○さんなしではできませんでした! 本当に助かりました
○○は、○○さんのおかげです
その○○は○○さんならではですね。○○さんを頼りにしています
感謝を伝えるシチュエーション、感謝を覚えた気持ち、記憶に残ったこと、その行為の価値をあなただけの言葉にし、そして「!」の気持ちをプラスオンしてください。
レストランで、帰り際に「おいしかったです。ありがとうございました!」。
タクシーを降りるときに「ありがとうございます。お気をつけて!」。
そんな「ほんの一言のせ」から始めてみましょう。
日本人は「ほめ下手」ですが、「ほめられ下手」でもあります。
私自身、ほめられるのはとても嬉しいのですが、ついつい、
とんでもないです
いやいや、そんなことないです
などと恐縮していました。
しかし、そうしたリアクションは、研究によれば、どうやら正しいものではないようです。
ほめている人だって、勇気を出してコメントしてくれているわけで、それを否定してしまうというのは失礼な話ですよね。
ですから、「ほめられ上手」になれば、ほめてくれた人を嬉しい気分にします。
「ほめ言葉はプレゼント」だと考えて、リアクションをしてみましょう。
私の成果ではないんです
いやあ、たまたま
なんて言わず、
ありがとうございます。本当に勇気づけられます
気づいてくれてありがとうございます
わざわざ、ほめてくださってありがとうございます。とっても嬉しいです
そう思っていただけたなんて光栄です。ありがとうございます
○○さんに言っていただけると、とくに嬉しいです
と言い換えて、せっかくほめてくれた人に感謝の気持ちを伝えていきましょう。
まとめ
日本の職場には今でもポジティブな言葉が少なすぎると思うので、遠慮なくどしどし他者のいいところや感謝の気持ちを出していきましょう。
ほめるのに遠慮は無用なのです。
また、「ほめ言葉はプレゼント」と考えて、謙遜や恐縮をせずに正直にリアクションして褒めていただいた感謝を伝えるようにしましょう。
『世界最高の伝え方』