では、一体どう対処すればいいのでしょうか。
そういうときは、相手の背景にどんな事情があるか、自分で都合よく“妄想”をするといいのだそうです。
今回は、経営コンサルタントの原邦雄氏著書 『職場の人間関係が劇的によくなる!ほめコミュニケーション』から、人間関係改善のコツをご紹介します。
人間関係の悩みは、相手と過去の接点で何かの出来事があり、それを「嫌な思い出」として記憶していることから生まれてきます。
そのとき、実際に嫌な思い出として記憶しているのは相手ではなく「あなた」なのです。
悩みの解消のためには、相手に対する記憶を「嫌な記憶」から「良い記憶」に上書きする必要があります。
これを「Re Connect(つなぎ直し)」と言います。
社会人として会社で働いている以上、人間関係の改善は業務のひとつだと言えるでしょう。
むしろビジネスの場というのは人間関係のRe Connectのチャンスがあふれていると考えられます。
なぜなら、会社は“行かなければいけない場所”だからです。
これがプライベート環境での人間関係であれば違います。
苦手な相手や悪い人間関係が存在するなら、そのコミュニティやグループから離れたり、嫌いな人とは付き合わないという選択肢があります。
SNS社会の現代であれば、コミュニケーションをしたくない相手とは「既読無視」や「ミュート」や「ブロック」をしてしまえば連絡を絶つことができます。
相手が何を言ってきたとしてもあなたの側には通知されなかったり、無視したりして、人間関係のシャットダウンができるわけです。
ところが、ビジネス環境ではそうはいきませんし、それをすると困るのはあなたの側になってしまいます。
たとえば、嫌いな上司がいるからと言って連絡ツールをブロックしてしまうと、必要な業務連絡が届かなかったり、然るべき指示命令が伝えられなかったりして仕事に支障が出ます。
これは何かのプロジェクトをする場合でも同じことで、誰ともコミュニケーションを取らなかったり、相手からの呼びかけを無視した場合、あなた自身が孤立するくらいであればまだいいですが、最悪の場合は部署(チーム)やプロジェクト全体に支障が出て会社の業績悪化に影響する可能性も考えられます。
そして、それを引き起こしたのがあなたの「人間関係のシャットダウン」だった場合、その責任の一端を解雇や減給・降格などであなた自身が引き受けなければいけない可能性も出てきてしまうのです。
だからこそ「ビジネスでの人間関係はシャットダウンできない」という制限は、むしろRe Connectのチャンスだと考えられるのです。
「会社に行くのが嫌だ」「この人に会いたくない」と考えるのでは誰でもできることですし、起こりえることです。
ただ、そこに囚われ過ぎないで、考え方を一歩進めてください。
Re Connectの具体的なステップとして、最初は「記憶の編集権」があなた自身にあることを自覚するところから始めましょう。
相手との嫌な思い出が過去の出来事であり、それがあなたの頭の中の記憶である以上は、それは「そのように編集された思い出」であることを意味します。
もちろんその編集は、あなた自身がしたものです。
良い思い出がたくさんある人に対しては、自然に親友と呼べる存在になっていくと思いますが、あなたが親友と思える方を思い出した時、はたして本当にその人とは良い思い出しかないでしょうか。
喧嘩をしたり、言い合いになったり、つかみ合いになったことはまったくありませんか?そこまででなくても嫌な思い出がいくつかあるのではないでしょうか。
にもかかわらず、あなたとその人は今も親友なのはなぜでしょう。
それは、長い長い「その人との思い出のマスターテープ」をあなた自身が編集して、思い出のハイライトを映像集としてまとめてしまっているからです。
これは決して悪いことではありません。
ただ、嫌な思い出しかない相手にもまた、あなた自身がマスターテープを意図的につなぎ合わせて、腹が立ったり、つらくて泣きたくなるような場面ばかりを映像集に編集してしまっているからだとも言えます。
まずはそのことを認識し、マスターテープの編集権は完全に自分にあることを自覚してください。
マスターテープの編集権が自分にあることを自覚したら、ステップ2として、相手への感情を一旦排除していくことをしていきます。
人間関係が悪い相手との嫌な思い出ばかりがあると、次にコミュニケーションを取ることを考えただけで、怒り、不安、悲しみ、ムカつき、恐怖、といった言葉にできない感情が生まれてきます。
それがあるから「嫌だな」「会いたくないな」と思うわけです。
この感情を、この時点で排除してみてください。
忘れ去る必要はありませんが、一旦、横に置くのです。
そのとき「愛の反対は憎しみではない。無関心である」というマザー・テレサの言葉をヒントにしてみてください。
一般的に「好き」という感情の対極にある感情は「嫌い」だと思いますよね。
ですが正確には、好きも嫌いもどちらも「相手への関心」という共通の気持ちが存在しています。
逆に、関心がないものには好きも嫌いもありません。
誰かに関心があるからこそ、その判断が好きになるか嫌いになるか、ということなのです。
よくクレームの世界で言われていますが、最大のクレーム客とは何も言わずに黙って離れていくサイレント・マジョリティです。
むしろ、何かしらの声をあげてクレームをつけてくる人は少数派で、そのクレームの中に何かしらの業務改善のヒントや、サービス業として至らない点をお客さま目線で指摘してもらっていることが隠されていたりします。
これが「クレームは宝だ」と言われる所以です。
同じように、嫌な思い出の原因となっている嫌な出来事がある場合、そこには何かしらのアクションがあったはずです。
ということは、相手はあなたに何かしらの関心を抱いていたからにほかなりませんし、その時点であなたが好き/嫌いの感情を持っているということは、あなた自身もその相手には関心を持っていることになります。
お互いが完全に無関心であれば、そもそも人間関係の悩みは生まれないからです。
このことに気づいて理解すると、人間関係でこじれている相手へ持っている囚われた感情から一旦は離れて、落ち着くことができると思います。
その目線でもって思い出のマスターテープをもう一度見直してみましょう。
すると、相手の行動や発言の中でも理解できる部分や、納得のできること、意外と興味深いことなどが見えてくることがあるかもしれません。
ステップ3は、相手がその行動や発言をした背景を、相手の立場に立って考える「視点移動」という方法で、少しレベルが上がります。
「そんなことできるわけがないだろう」と思われるかもしれませんが、相手の立場に立って考えると言っても、それはあくまでもあなたの創作で構わないため、心配することはありません。
例えば職場の上司の場合、かつてはいい上司に恵まれ、チームワークもとてもいい部署だったのに、半年前にその上司が異動して、新しい上司がやってきたとします。
その新しい上司はいつも不機嫌で、チームで成果を出しても、「お疲れ様」とか「よくやったね」などの、声かけもないし、あいさつもなく、笑いもしません。
そのうち、だんだんとチームワークも悪くなり、ギクシャクした空気の部署になっていきます。
次第に会社に行くのもつらくなり、メンタルも病んでしまいそうで、思い切って「あいさつもないですし、いつも不機嫌で、今、チームの雰囲気が本当によくない状況です。どうか、メンバーとコミュニケーションをもっととって、チームを盛り立ててくれませんか」と辞める覚悟でその上司に話をします。
するとその上司は、はっとした表情をして、「申し訳なかった」と頭を下げ、「じつは、妻がガンであることがわかって、まだ小学生のふたりの娘もいて、これから先、どうしたらいいのかと、ずっと考え続けていたんだ」と言います。
それを聴いて、逆に何も想像できていなかったと情けなくなり、「自分にできることがあれば何でも言ってください!」と伝えることができました。
その後、上司がその話をチームにも共有してくれて、チーム全体で上司をサポートする意識が芽生えて、今はまたかつてのように職場がとてもいい雰囲気になりました。
いかがでしょうか。
不機嫌であいさつもしなかった上司の過去の言動そのものは何も変わらないのに、背景が明るみになったことで、人間の感情や行動、発言までもが変化することを、この話は物語っています。
人間の感情は後ろにある事情を知ることで変化する、ということなのです。
私たち人間は自分の感情の世界で生きる動物です。
その感情によって思い込み、相手を良く評価したり悪く評価したりしています。
プライベートであればそれでもいいかもしれません。
ですが、ビジネス環境においては、先述の通り改善していかなくて困るのはあなたなのです。
だからこそ、相手の立場に視点移動をしてパラダイムシフトを行うのです。
そして、その方法は真実でなくてもまったく構いません。
あなたが勝手に都合のいい脚本を書いて、バックストーリーを妄想すればよいのです。
例えば「自分に常にプレッシャーをかける課長」で考えてみます。
仕事に対して常に厳しい目線で発破をかけ、時には厳しい指導の言葉を投げかけてくるとします。
あなたはその課長が嫌で「どうして自分にだけ厳しいんだ」と腹が立つ半面、苦手意識も持っています。
そこで妄想の視点移動です。
実は、その課長はあなたに目をかけているのですが、あなたが転勤の候補になってしまい、何とか今の部署に引き留めて、もっと成長させたいと思っています。
そこで自分の上司である部長にかけ合って「まだ粗削りだけどあいつは絶対に伸びます。自分が責任を持って一人前にしますから、3カ月だけ人事を待ってください。ダメだったときの責任は私が取ります」と伝えてた、という視点移動を行います。
常識的に考えれば、そんな都合のいいことはないかもしれません。
ですが、あなたが相手に対しての感情をコントロールして人間関係を改善することが目的なので、これをやっても全く問題はありません。
もちろん、自分だけの胸の内にしまっておけばバレることもありません。
妄想の視点移動を使って「自分にとって都合のいいバックストーリー」を創作すればいいのです。
まとめ
嫌な思い出の編集に記憶のマスターテープから自分の妄想を含めた思い出を上書き編集できるのです。
自分に都合のいい妄想によって、相手に対する嫌な感情をコントロールするコツをつかむことができたら、ビジネスシーンの人間関係の前向きなステップとして大いに役に立つことは間違いないでしょう。
『職場の人間関係が劇的によくなる!ほめコミュニケーション』