しかし、介護の体験が家族のいい思い出や素晴らしい人生モデルになる場合もあります。
今回は、介護をネガティブな体験にしないコツは何かをご紹介したいと思います。
今まで自分でしていたことができなくなってくると、介護を必要とする方は日常生活でさまざまなことを喪失したり手放したりすることが続くため、心が傷つきます。
さらに、できなくなった状態を受け容れるために時間が必要になることもあります。
それでも機能改善のために奮起してリハビリテーションに取り組む方もおられますが、高齢者の場合、リハビリテーションの目的や成果が機能改善ではなく、残っている機能をできるだけ維持するために行うことも多いので、ご本人が過大に機能回復に期待を持つと、それが体の負担や傷心につながることもあるため注意が必要です。
介護を受ける方の周囲は、本人の自尊心に配慮しながら、あるがままの状態に寄り添うことが理想的ですが、簡単なことではありません。
ご家族も介護を通して、弱った姿を見るのは切なく辛いので、今できていることよりも、ついついできなくなったことに目を向けてしまう傾向があります。
そして、そのまま介護期間が長くなるにつれて、介護が苦しいだけの体験になってしまうのです。
介護を苦しいだけの体験にするのではなく、ケアマネージャーさんやヘルパーさんなど介護の専門職と一緒に、ご本人が達成できる具体的な目標を立てて共有し、日々の小さな変化を喜び合いましょう。
「行きつけだった喫茶店でもう一度コーヒーを飲みたい」というような、ささやかでもご本人にとって楽しみになる目標を設定して、「今日はここまでできた」「半分やりとげた」と思えることが大切です。
もうできないことにクヨクヨするより、ささやかでも達成感を味わうことでしぼんだ心に光を当てることができるなら、実はかなり前向きなんじゃないか、と思うのです。
全員が「できること」に目を向け、ささやかな達成感成功体験を分かち合うことで、癒されることもあります。
そして、そうした体験は幸せや人生の意味を見直し、自分の人生に対する肯定感を取り戻すきっかけになることもあるのではないでしょうか。
あくまで「ちょっとやってみようかな」と思えるぐらいの目標を立てることが大切です。
でないと、自分で立てた目標がプレッシャーとなって押し寄せてきて、圧し潰されたら本末転倒ですので。
介護が必要な期間がどれくらい続くのかは、誰にも分かりません。
終末期の診断を受けていた方が、退院して家に帰ったら食事がとれるようになり、主治医が驚くような回復を見せることもあります。
大切なご家族の今後のことは、知りたくないこともあると思いますが、医師が示す今後の見通し「予後予測」は、科学的根拠があるので、概ね正しいでしょう。
医師だけでなく周囲のケアマネジャーやヘルパーもその情報を共有しているので、仕事上の知識と経験から、状態がどのように変化していくと思われるか、それによって生活にどのような影響が出るかということも予測することができます。
ご家族は介護が始まったときから、主治医やケアマネジャーから伝えられる「予後予測」を受け容れ、“現在”と“すこし未来”の両方を見ていくことが良いと思います。
しかし、自分の人生を決めるのは、あくまでご本人なので、その意思や状況によっては、ご本人に「予後予測」をお伝えするかどうかの配慮も必要になります。
とくに介護度が高い方の場合は、変化のスピードが思った以上に速い場合もあります。
前もってご本人が「予後予測」を知れば、大事なことを優先することができ、この先の時間の長短にかかわらず、時間を豊かに使えるのではないでしょうか。
介護が終わったときに、大変だったけれどご家族にとっても得難い経験ができたという思い出があるのは、慰めのひとつになるはずです。
介護をネガティブだけの体験にしないためにも「予後予測」を聞くのは大切なことなのです。
まとめ
まず、介護の必要性を感じたら、地域の包括センターに相談しましょう。
分からないことや、心配なことがあれば、担当になったケアマネジャーが話を聞いて、周囲のサポートを得ながら、ご家族が安心して生活を続けることができるように力になってくれるはずです。
そのうえで、ご本人とともに、ささやかな成功体験と喜びのシェアを重ね、介護を家族の貴重な思い出、素晴らしい人生体験にしていただければと思います。