わたしたちは普段、「なぜ?」と聞かれることが多いと思います。
すると、つい、いろいろな言い訳を考えてしまいます。
そしてそれは多くの場合、事実ではありません。
たとえば、子どものいる夫婦の会話を想像してみてください。
妻「なぜ子どもをお風呂にいれていないの?」
夫「なかなかご飯を食べてくれなかったからだよ。」
妻「なら、もっと早くご飯を食べさせればよかったじゃない!」
夫「掃除が終わらなかったんだよ…。」
妻「掃除にそんなに時間がかかるの?」
夫「・・・」
夫はさまざまな言い訳を言い、それに対して妻は正しいことを言う。
次第にぎすぎすした雰囲気になり、夫は何も答えなくなる。
こんな光景が想像できるかもしれません。
この場合、夫が子どもをお風呂にいれていなかった原因が分からないばかりか、夫婦間の関係も悪くなってしまいそうです。
しかし、次のように尋ねてみたらどうでしょう。
妻「今日は何時に帰ってきたの?」
夫「6時だよ」
妻「帰ってきてからすぐ何してた?」
夫「メールをチェックしたかな(あ、そのあとスマホでニュースを見ていたな…)。」
この時、夫は帰宅後すぐの時間の使い方がまずかったことに気付くかもしれません。
このように、なぜ?ではない質問は、言い訳ではなく、課題の解決への気付きを促します。
そして、この質問の仕方こそが、「メタファシリテーション」なのです。
メタファシリテーションは、簡単な質問によって相手の気づきを促し、自ら問題解決を促す手法です。
聞くときには、相手にアドバイスをしたり、目的の設定はしません。
そのかわり、相手に事実質問をして、さまざまな事実に気付くように促します。
事実質問とは「なぜ(why)」「どうして(how)」の代わりに、「いつ(when)」「どこ(where)」「だれ(who)」「何を(what)」を使い、相手に事実を尋ねる質問です。
これを繰り返すことで、相手が自分を取り巻く事実を再確認し、問題の本質を知ることによって課題解決に導くことができます。
ただし、相手が気づきを得るのには時間がかかるので、聞き手は相手が気づくまで信じて待つことも大切です。
事実に関する質問(事実質問)を作るなかで、お互いの持ち物や趣味などを事実質問の対話すると、相手の人柄が見えてきます。
例えば相手のつけている腕時計について、
Q「今日その時計をつけてきたのはどうして?」
A「うーん、なんとなく。」
Q「もらった時の気持ちはどう?」
A「まあうれしかったかな」
何か答えにくい質問だと思いませんか?
しかも、質問に対する答えは、事実ではなく、答え手の気持ちです。
話し手の話しにくい質問であるだけでなく、答え手にも話し手にも気づきが少ない質問になってしまいます。
しかし、このように質問するとどうでしょう。
Q「いつからつけているの?」
A「自分の誕生日だよ。」
Q「誰かからもらったの?それとも買ったの?」
A「夫からもらったよ。」
事実質問をすることで、その時計が夫からもらったプレゼントであるということが見えてきます。
ところで、このプレゼントを妻が気に入っているかどうかを知るためには、どんな質問をしたらよいでしょうか。
たとえば、以下の3つの質問について考えてみましょう。
Q1「この時計、気に入っている?」
Q2「週に何回くらいつける?」
Q3「先週会った時も夫からもらった時計をつけていた?」
Q1に対して、妻は「気に入っている」と答えたとしましょう。
しかし、これは、妻の考えであって、事実かどうかはわかりません。
ひょっとしたら忖度して答えているかもしれません。
Q2も同様です。
「週に2回くらいかな」と答えても、それも妻の頭の中にある数字は、あいまいな印象でしかないかもしれません。
ところがQ3はどうでしょう。
おそらくこれは事実に基づいて答える以外にありません。
つまり、Q1、Q2は事実質問ではなく、Q3が事実質問です。
もし、Q3で、「つけていた」と答えれば、付け加えて、「昨日は?」「その前は?」と聞いていくと、「毎日つけていた」という本人も意識していなかったことがわかることもあるのです。
実は毎日つけているということを事実質問で正確に思い出してもらうことによって、「毎日つけるほどに気に入っている」要素を思い出してもらうことができるのです。
相手に質問するときに「なぜ?」という言葉を普段から言い慣れていると、なかなか事実質問を口にするのは難しく、質問が出てこなくなることもあります。
初めは苦戦してもかまわないので「いつ」「どこ」「だれ」「何を」を駆使して質問を重ねていきます。
子どもとのお風呂の時間や子どもが寝た後の夫婦のコミュニケーションで実践練習を重ねていくと次第に事実質問が出てきやすくなりますよ。
メタファシリテーションの手法に興味をもち、さらに知っていくと、誤解から始まっている夫婦間の問題やこじれた友人関係の解決などにも役立ちそうです。
まとめ
それは、相手が自分で気づくことができるからです。
人は「なぜ?」と聞かれると責められているような気持ちになり、つい言い訳を言ってしまうので、それを事実質問に置き換えることが大切です。
事実のみを尋ねることで、思い込みに囚われることなく自らの経験を正確に捉えることができます。
「なぜ?」を使わない聞き方を心がけることで、相手を責めずにホンネを聞くことができるのです。
みなさんも、メタファシリテーション、使ってみませんか。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』