不登校や引きこもりなど、子どもの問題に悩む親たのち苦しみはなぜ生じるのでしょうか。
その仕組みを心理学の概念で解き明かし、多数の事例を紹介しながら子どもとのコミュニケーションの望ましいあり方について具体的な方法を提案してくれる一冊が、医師で臨床心理士の田中茂樹氏著書 『子どもを信じること』 です。
今回は、子どもの自己肯定感の育て方について考えてみたいと思います。
自己肯定感が低い子どもに対して、親が「あなたはそのままでいいよ」と伝えているのに、親との間に壁をつくっていて聞き入れてくれない場合、その言葉の本質が子どもに届いていないかもしれません。
「あなたはそのままでいいよ」という言葉の本質は、「あなたが生きていてくれて、私はうれしい」ということです。
「私」=「親」がうれしいのです。
しかも口先だけでなく、そう感じていることが大切です。
しっかりと実感できていたら、口にしなくても子どもに伝わるでしょう。
そのように実感できていないのに、「そのままでいいよ」と言ってさえおけば、なんかいい影響が子どもにあるらしいから、という感じで、口先だけで伝えるのではなんの意味もないということは想像できるでしょう。
むしろまったくの逆効果になるかもしれません。
「そのままでいいよ」という言葉は、「あなたはこうしたほうがいい」「あなたはこうなったほうがいい」「あなたはそのままでいい」というような役割を割り振っているような言い方に聞こえる場合もあります。
もしかしたら子どもは、変わりたいと思っているのに「そのままでいなさい」と言われているように感じることもあるかもしれません。
このように書くと「また面倒なことを言ってるな。いちいちそんなこと考えられないよ。
じゃあ、なんと言ったらいいんだよ」という声が、いまにも聞こえてきそうです。
本質は、なにを言うか、ではないのです。
子どもとの暮らしの中で、親が子どもの存在をどう受け止めているか、です。
「親は自分がいるだけでうれしいと思ってくれているんだ」と子どもが感じられることが、一番確かなメッセージになります。
では、具体的にそれはどのようにして伝わるのでしょうか。
それは、親が機嫌よくしていることです。
親が家の中の時間を、人生を楽しんでいる姿を見せることです。
そうすることで、子どもは「親は自分が生きていることをうれしく思っている」、「自分はこのままでいい」ということを心と体で理解していきます。
一緒に暮らしながら、機嫌良くしていること、それは相手の存在を肯定している、そういうメッセージを送っていることになります。
その大切さは、その逆を考えればよくわかるでしょう。
いつも父親が(母親が)不機嫌にしている空間で過ごさざるを得ない子どもにとって、それはとても居心地の悪い、つらい暮らしとなるでしょう。
「あなたはそのままでいい」とか「あなたが生きていてくれて私はうれしい」という言葉よりも、ずっと確かなものは、子どものいる空間で機嫌良くしていること、その時間の幸せを感じて生きること、だと思います。
これに対して、よくもらうコメントに「忙しくて大変なのに、なんで機嫌のいいふりまでしないといけないのか」とか「現実にはしんどいことが山ほどある。機嫌のいいふりなんてする余裕がない」というようなものです。
機嫌のいいふり、ではダメなのです。
親子なので、親が「ふり」をしていることはすぐに子どもに伝わります。
自分が子どもだったときのことを思い出してください。
幼いときでも(幼いときほど、かもしれません)親が本当に機嫌がいいか、機嫌がいいふりをして無理をしているのかは、わかるものです。
子どもには親の生き方、生活、気分の面倒をみることはできません。
親は大人として、自分の生活をできるかぎり楽しめるように、できることをやる、がんばるべきです。
そして、それは子どものためにもなるのです。
まとめ
子どもは、その努力をしている親の姿を間近で見ながら育っていきます。
それはなかなかたいへんではあるけれど、やりがいのある贅沢な挑戦なのではないでしょうか。
『子どもを信じること』