ジムやフィットネス・クラブに通うのは、お金も時間もかかるし、なら、ジョギングでも始めようかと思っても、周囲の人の目も気になったりしてなかなか腰が上がらない。
そんなあなたにおすすめなのが、誰でも簡単かつ無理なく体力をつけられる「インターバル速歩トレーニング」です。
「通勤しながら」でも、「週末まとめて」でも問題なしの、「10歳」若返る「すごい歩き方」。
今回はブルーバックスの 『ウォーキングの科学』 から、インターバル速歩トレーニングの効果を科学的に検証するだけでなく、その詳しいやり方をご紹介します。
体力といえば、病気にかからず健康を維持する能力、といったイメージを持つ方もおられると思いますが、運動生理学で扱う体力とは「筋力」と「持久力」を指します。
それは運動生理学の歴史に理由があります。
運動生理学は、たとえば、鉱山など過酷な環境で作業効率を向上させる方策の開発、オリンピックなどのスポーツ競技でよい成績をおさめるためのトレーニング方法の開発など、さまざまな現場の要求に応えるために発達してきました。
そのためには、筋力と持久力を別々に考える必要があったのです。
ウォーキングにおける「筋力」とは、途中で階段、急な坂道が出てきても楽にクリアできるかに影響します。
とくに、酸素を使う代謝系(好気代謝系=有酸素運動)が主となる遅筋が重要となります。
ウォーキングにおける「持久力」とは、どれほど速く長時間歩けるかを意味します。
自動車で言えばエンジンの大きさにあたるでしょう。
エンジンはガソリンを燃やして車を動かすので、そのシリンダー体積でその能力を評価しています。
3000ccのスポーツカー、600ccの軽自動車といった具合です。
ヒトの場合、車のようにはいかないので、運動時に筋肉で単位時間あたり最大どの程度の酸素を消費できるかで、その能力を評価します。
たとえば、持久性競技のトップアスリートなら体重1kgあたり70ml/分以上、中高年者で運動習慣のある方で35ml/分程度、高齢の要介護者では10ml/分以下と、かなり幅広いです。
ジムに行って体力を測定し、それに基づいて持久力・筋力トレーニングプログラムを作成し、それを実施さえすれば、効果が得られることは科学的に実証されています。
しかし、そのためには週3~4日ジムに通い、自分のトレーニング実績を記録し、さらに定期的にトレーニングの効果を判定し、それに基づいて運動プログラムを改訂していかなければなりません。
それらをこなすには本人だけでは困難で、専門のトレーナーの指導を受ける必要があります。
そして、これをこなせるトレーナーは、自己投資をして大学や専門学校でそれなりの教育を受けているので、それを考慮した人件費も支払わなければなりません。
その結果、ジムに通うための会費はリーズナブルではなくなってしまします。
もっと気軽にできる体力向上のための運動プログラムはないものかと、この課題を解決すべく10年あまり研究を行い、マシンを使わなくても十分な効果が得られるインターバル速歩を明らかにしました。
そして中高年者246名に対し、対照群、1日1万歩群、インターバル速歩群の3群に分け、それぞれ5ヵ月間の実験を行いました。
対照群は、従来の生活を続けていただく。
1日1万歩群は、週4日以上、1日1万歩を目標に歩いてもらう。
そして、インターバル速歩群は、週4日以上、1日30分以上を目標にインターバル速歩を実施してもらうことにしました。
その結果、インターバル速歩群では、膝伸展筋力(大腿の前の筋力)が13%、膝屈曲筋力(大腿の後ろの筋力)が17%、最高酸素消費量が10%向上しました。
一方、1日1万歩群では、ほとんど体力は向上せず、対照群と変わらなかったのです。
非常に効果の高い「インターバル速歩」のやり方ですが、実はとてもシンプルで、「これだけでいいの?」と拍子抜けするかも方もいるかもしれません。
「インターバル速歩」のやり方、それは、
「最高酸素消費量の70%以上の速歩と40%以下のゆっくり歩きを3分間ずつ繰り返す」
これだけです。
要するに、速歩3分とゆっくり歩き3分を繰り返していくということです。
速度の切り替えを3分間隔としましたが、これは大部分の人が、これ以上の継続を困難と感じるからです。
したがって、3分間の速歩の後に3分間のゆっくり歩きを挟むと、また速歩をしよう、という気分になります。
この速歩3分とゆっくり歩き3分のセットを、1日5セット(速歩が計15分とゆっくり歩き計15分)以上、週4日以上を繰り返すことを目標とします。
やり方は簡潔ですが、以下の5点に注意してウォーキングしましょう。
1.視線は25m程度前方に向ける
2.背筋を伸ばした姿勢を保つ
3.足の踏み出しはできるだけ「大股」になるように
4.踵から足を着地させる
5.歩く際、腕を直角に曲げ前後に大きく振る
実際にこのウォーキング方法を1日5セット、週4日以上繰り返した人は5ヵ月間で体力が最大20%も向上したことが明らかになっています。
この結果というのは、実は10歳以上若返った体力を得られていることを意味しています。
インターバル速歩が健康に良さそう、ということは漠然とご理解いただけたかと思います。
さらに、インターバル速歩を続けることで実際に改善した数多くの症状の中から3点挙げていきます。
1.生活習慣病
生活習慣病は、「よく寝るように」「脂っこい食事は避けて」「野菜を食べるように」……など、現在様々な原因が挙げられ、それを避けるように言われます。
しかし、『ウォーキングの科学』では「体力低下こそが生活習慣病の最も重要な要因で、それを向上させればそれらの症状が改善する」ことを示しています。
では、インターバル速歩によってどの生活習慣病がどれほどよくなるのでしょうか。
高血圧症、高血糖症、肥満症、異常脂質血症の有病率を先に述べた中高年者246名を対象に、インターバル速歩前後で比較しました。
トレーニング前、低体力群と見なされた参加者の約80%が高血圧症、約70%が高血糖症、約40%が肥満症、約20%が異常脂質血症でしたが、5ヵ月間のインターバル速歩後に高血圧症、高血糖症、肥満症の症状が約30%の人でなくなっていました。
したがって、もし読者の皆さんが「血圧が高い」「血糖値が高い」「『肥満』です」などと指摘されたら「病院にいく前に5ヵ月間インターバル速歩をしましょう」とすすめます。
そうすれば30%の確率でそれらの症状がなくなると考えられます。
2.気分障害
インターバル速歩は、身体特性の改善のほかに心理的効果もあります。
「うつ自己評価尺度(CES-D)」と呼ばれるアンケート調査を松本市の700人余りの中高年者を対象に、トレーニング前後に実施しました。
この1週間のあなたの体や心の状態についてお聞きします。
下の20の文章を読んでください。
今、あなたはこれらのことがらについて1週間のうちどの程度感じていますか?
当てはまる日数を〇で囲んでください。
CES-Dは「まったくないか1日」を0点、「2日」を1点、「3~4日」を2点、「5日以上」を3点とし、20項目の合計点数を算出します。16点以上は何らかのうつ傾向が見られると判定されます。
トレーニング前は20%あまりの方が15点以上で、中には40点、50点近くになった方もいました。
とくに、「不眠」を訴える方が多かったそうです。
しかしながらインターバル速歩を5ヵ月間行ったあとでは、15点以上の方もほぼ正常レベルまで回復することができました。
インターバル速歩によるうつ症状改善のメカニズムには、ミトコンドリア機能改善による最高酸素消費量の増加にあると考えられます。
この効果の一つに、血中の脳由来神経栄養因子が増加することが考えられ、それが脳の海馬、大脳皮質、大脳基底核という記憶、思考、不随意運動をつかさどる部位の神経細胞を活性化すると考えられているのです。
また、インターバル速歩を1日の決められた時刻に行い生活リズムを整えることで、継続的な睡眠効率の改善につながります。
3.認知機能
インターバル速歩は認知機能にも良い影響を与えます。
インターバル速歩を導入し、市をあげてその普及に尽力していただいている、秋田県由利本荘市の65歳以上の中高年者を対象に検証しました。
応募していただいた市民200名に対し、対照群とインターバル速歩群に100名ずつ分け、5ヵ月間の介入を行いました。
その結果、5ヵ月後に、インターバル速歩群で最高酸素消費量が3%、認知機能が4%向上したのに比べ、対照群ではそれぞれ2%、7%低下しました。
また、事前にそれぞれの群で約20%が軽度認知障害(MCI)と判定されていましたが、彼らに絞って解析すると、インターバル速歩群では最高酸素消費量が6%、認知機能が34%とそれぞれ有意に改善したのに比べ、対照群では、それぞれ0.4%、12%低下し、トレーニング前に比べ優位な改善を認めませんでした。
これらの結果は、加齢による認知機能の低下の主な原因が体力(最高酸素消費量)であることを示唆しています。
最後に、インターバル速歩をやってみようとしている人やより効果を出したいとう人からいただく質問を抜粋して紹介します。
Q1. 1日30分の連続時間が取れない場合は、どうすればいい?
インターバル速歩は連続して実施する必要はありません。
たとえば、朝10分、昼10分、夕方(夜)10分とバラバラに実施しても効果はあります。
また、早歩き、ゆっくり歩きを3分間隔で繰り返さなくても、たとえば、2分間隔、5分間隔と自分に合ったやり方を見つけるのもいいでしょう。
要するに、早歩きの1日の合計が15分になればよいのです。
Q2. 11週間4日はなかなか時間が取れない場合は、どうしたらいい?
平日が忙しくて時間が取れない人は、週末にまとめて実施しても問題ありません。
たとえば、土曜日早歩き30分、日曜日早歩き30分といった具合です。
要するに、1週間の早歩きの合計が60分以上になればよいのです。
Q3. インターバル速歩中に、体調を崩すなど事故はないの?
なんらかの基礎疾患を持っている方は、インターバル速歩を開始する際には、かかりつけ医に相談してください。
しかし、これまで7300人の中高年者を対象にインターバル速歩を処方してきましたが心筋梗塞などの事故は経験していません。
その理由は、途中にゆっくり歩きが入るので、その間、本人がその日の体調を客観的に診断できるから、と考えています。
ジョギングなどではランナーズハイのような高揚感を感じたり、誰かが一緒だと「遅れまい」といった気持ちになったりして、どうしても無理をしてしまいがちになりますが、インターバル速歩には、それがないと考えています。
まとめ
ウォーキングなら手軽に、すぐに始められそうでも、なんとなく歩くだけでは体力アップはむずかしいことも事実です。
その点、インターバル速歩なら効果もあるし、無理なく続けられるのではないでしょうか。
通勤や買い物の行き帰りにもできるので、ぜひ今日から実践してみてください。
毎日の積み重ねが、あなたを健康へと導きます。
『ウォーキングの科学』