失禁のケアは、介護者が高齢者自身の自尊心を傷つけないように配慮しながら、適切な声かけと段階を経ていくことが肝要です。
今回は、高齢者の失禁とその対策についてご紹介します。
介護者がご家族である場合、悩みごとの上位に来るのが失禁です。
要介護者が汚してしまった下着や寝具を押入れやタンスの中に隠してしまい、臭ってしまうことで不衛生で清潔が保てなくなるといったケースがよく見受けられます。
要介護者には恥じらいと、親や年長者としてのプライドがあり、「不衛生だから」「臭うのでやめてほしい」などと理屈で改善を迫っても、反感を買うばかりということが多いようです。
羞恥心はどれだけ認知機能が低下している人にも保たれているので、どのような状態にあっても、自尊心を傷つけないように対応することが良好なコミュニケーションをとるためには基本となります。
失禁をしてしまったことで、ご本人自身もとても傷つき、困っているのです。
その気持ちを介護者が汲み取り、「やっかいな人」として扱わないことが大切です。
まず、要介護者の不安をやわらげる声がけをしましょう。
「汚れてしまって、困っていたの?」という話ができたら、「気づいてあげられなくてごめんなさい」などと伝え、心地よく応じられる状況をつくる工夫をしましょう。
本人の気持ちをこじらせてしまうと、ケアそのものを拒否されることが少なくないのです。
元気な高齢者でも腹圧性の尿失禁はよく起こります。
これは、咳やくしゃみ、重い荷物を持つなどして腹圧がかかると尿が漏れてしまう現象で、加齢による骨盤底筋の筋力が低下して起こります。
もしもこのような場面に出会ったら、介護者は「年を取れば誰でも筋力低下で漏れちゃうことはよくあることなの……」などと、まず、困っているのは一人だけではないことを伝えます。
そして、「尿漏れパット」や「リハビリパンツ」「大人用の紙おむつ」など、便利でいいものが一般に販売されていて、気軽に対処できることを伝えます。
その上で腹圧性尿失禁以外に尿失禁を起こしている原因がないか、会話から以下の点を聞き取りするとよいでしょう。
・ 尿の回数が、昼間8回以上、夜間1回以上と多い
・ 急に激しい尿意が起こり、我慢できず漏れる
・ 冷たい水を触ったときや水の流れる音などに反応して、突然、我慢できない尿意が起こる
・ いつも「トイレに行かなきゃ」と思っている
また、他にも、脳血管障害や脳出血などの病気や排尿障害(尿が出にくくなる排尿障害になると、トイレでは排尿できず、尿が少しずつ出てしまうようになることがある)、持病の治療薬の服用(薬を飲み始めてから、薬が変わってから、失禁するようになった)などが尿失禁の原因として考えられます。
腹圧性以外の原因で尿失禁が起こる場合は、泌尿器科の受診が必要になるので、日頃から要介護者の様子をさりげなく確認してみてください。
もしも泌尿器科の受診を勧める場合は、「多くの人がかかる病気のせいかもしれないから、一度診てもらうと安心ですよ」などと促し、困っていることが解消することを伝えましょう。
深刻なムードにならないように気をつけるのですが、失禁が続いていて、放置すると腎不全や尿路感染、かぶれなど皮膚疾患を起こすこともあるので、受診またはパットやリハビリパンツなどを使用して、対策が速やかに行われるようにします。
高齢者の中にはパットやリハビリパンツ、紙おむつなどに対する不信感やかぶれなどへの不安が強い方もおられるので、安心してもらうためには、百聞は一見にしかず、目の前でおむつなどに水を垂らして、その吸水性を見せるのがおすすめです。
吸収力を見て、逆戻りしないことを確認し、肌触りを確かめてもらうと、不快な思いをするよりもずっとよいと理解してもらえるので、スムーズな利用につながります。
また、夜間に頻尿の傾向がある方は、ご家族が転倒を心配して紙おむつやポータブルトイレの利用を勧めても、拒否されることが多くあります。
この場合も、今の紙おむつは非常に吸水性が高く、物によっては1リットル近く吸水することなどを伝え、実際に、目一杯、吸水させたおむつを手で持ってもらい、重量を感じたり、肌に触れる部分に触ったりすると、機能の高さを実感して「失敗して、寝具や寝間着を汚してしまうよりはまし」という気持ちに変わり、利用するきっかけになります。
介護を受けている人の「できないこと」に目を向けて紙おむつやポータブルトイレの利用を勧めるのではなく、「便利でいいものがあるのだから、使わなきゃ損」という感じにお伝えするのがコツです。
排尿時のズボンの上げ下ろしなど動作に手惑って間に合わない場合や、トイレの使い方が分からないなど、運動機能や認知機能の低下が原因で失禁する場合は、脱ぎ着しやすい服に替えたり、トイレまでの動線を見直すなど排泄環境を見直し、できないところは介助を行いましょう。
尿失禁は、段階に応じたケアをします。
高齢者だけでなく若い人にも排尿障害を起こす人は増えているので、ご家族そろって体操などを行うのもよいかもしれません。
腹圧性尿失禁の改善の体操には、「骨盤底筋(こつばんていきん)体操」がお勧めです。トレーニング方法として世界中に普及しています。
「骨盤底筋(こつばんていきん)体操」
1.骨盤底筋を意識する。椅子に座り、肛門に力を入れて締めたとき、動く筋肉の辺りが骨盤底筋。
2.仰向けになり、足の裏を床につけ、肩幅に開いて膝を曲げる→体の力を抜き、肛門と膣(睾丸)を締めるように意識→息を吸いながら肛門と膣(睾丸)を頭の方へ引き上げるイメージで締める→そのままの状態で5秒くらいかけて息をゆっくり吐き、息を吐ききったら力を抜いてリラックス。
これを5回繰り返す
居室で過ごすことが多くなり、失禁の不安が続いているなら、次の段階と考えましょう。
ベッドの端に腰をかけ、足を下ろした姿勢が保てるならポータブルトイレを利用してリハビリパンツを併用します。
ただし、リハビリパンツは横向きになって寝ると漏れやすいので、寝て過ごす時間が多くなってきたら、紙おむつにほうが安心です。
ベッドの端に腰をかけることが不安定になり、支えが必要になった場合も、紙おむつに替えましょう。
日本は紙おむつ開発先進国で、市販されている製品の吸収力や、消臭、皮膚への負担を軽減する機能などがとても優れています。
ご本人の快適性を増し、介護負担を軽減してくれます。
おむつを替えるときは、ご本人の自尊心に配慮することが大切です。
「汚れている」、「濡れている」、「臭い」と言うのはNGです。
「気持ちよくしましょう」と声がけしてください。
また、皮膚が赤くなったり、かぶれている場合も、「排尿でかぶれている」などの声がけは不安を招きますので、「痛い?」「洗ってお薬をつけましょうね」などと、介護を受ける人が「快適に過ごせること」に目を向け、対応しましょう。
まとめ
介護をする人が、一人で一生懸命になって疲れてしまい、余裕がなくなって、双方がより苦しくなる恐れがあります。
辛い時は介護の専門職に相談して間に入ってもらうことで、スムーズに関われる場合もあります。
任せられることは任せて、介護者の気持ちに余裕が持てる用に保っていただきたいと思います。