なぜ大人は子どもの話を聴かないのでしょうか?
「相手を一人の人間として尊重し、話し手の声に寄り添う聴き方」のアクティブリスニングという方法があります。
アクティブリスニングは「積極的傾聴」と呼ばれ、話し手の経験やそれに伴う感情・思考を無条件に受け入れ、メッセージや文脈をより深く理解するためのコミュニケーションです。
今回は島村華子氏著書 『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て』 から、子どもとの対話などに悩む人へアクティブリスニングの取り入れ方についてお伝えします。
「子どもが言うことを聞かない」という親御さんの悩みをよく聞きます。
実際には、子どもが大人の話を聞かない理由のひとつは、大人が子どもの話をきちんと聴いていないことが多いからかもしれません。
話を聴くということは、ただなんとなく聞き流したり、うわべの情報収集をしたりすることではありません。「聴く」ことのいちばん大切な目的は、相手のメッセージを理解しようとすることです。
大人は、子どもの問題を些細なことだと決めつけたり、自分のニーズを優先して、ついアドバイス攻めをしたり、話をさえぎったりすることもあるでしょう。
自分の仕事が忙しい時や、なにかをしなければいけない時、子どもの話を聞いていないことにさえ気づかないことがあります。
大人自身がストレスを抱えて、子どもの本当の気持ちに向き合えないのかもしれません。
そういう時は、アクティブリスニングにバリアがかかり、子どもの話をじっくり話を聴いたり、共感できなかったり、というのは仕方がないことなのです。
おすすめなのは、アクティブリスニングの時間を、短くとも積極的に確保し、毎日の生活のルーティンに取り込んでみることです。
寝る前の15分、お風呂の時間、習い事の送迎時間などを利用して、その間は全力で、興味を持ってお子さんに向き合うことを習慣化してみましょう。
心を通わせ合い、つながる時間は、お子さんを知る貴重な機会になります。
実際、時間の多さよりも、子どもとつながる時間を過ごすことが子どもの発達には大切であるという研究があります。
例えば、6歳以下の子どもの場合、長い時間をともに過ごしていたとしても、ただテレビを見て過ごすなど、言葉を交わさない時間を多く過ごした場合、子どもの学力、問題解決力、行動に悪影響があったことがわかっています。
つまり、過ごす時間の長さではなく、「話す」「子どもの好きな遊びをする」「一緒になにかを読む」など、いかに心を通わせ合う時間を過ごすかが大切なのです。
そして、その工夫をして頑張っている自分自身を親御さんが認めてあげることが、子どもだけなく親御さんの心の安定にもつながります。
子どもと過ごす時間は大切ですが、仕事のシフト時間が夜であったり、残業で遅くなったりして、顔を向き合わせることができない場合もあるでしょう。
そんな時は、例えば、お弁当袋にメモを入れる、洗面所の鏡にメッセージを貼る、家の中の家族用のボードなどに応援の言葉を書くなど、ほかの方法で言葉を交わす習慣をつくるのがおすすめです。
「子どもの心に想いを馳せる瞬間」が、少しでも増えていくとよいですね。
自分に気持ちを向けてくれているという経験の積み重ねで、子どもから話してくれるようになるかもしれません。
「べつに……」「なにもない」と素っ気ない返事をされると心配になってしまいますよね。
お子さんが10歳くらいになると思春期に入りはじめるため、体も心も急速に成長します。
このため、急に話さなくなってしまうことは成長過程としてあり得ます。
この年齢の子どもたちは否定や非難にも敏感なため、話を聴く時に、コミュニケーションのバリケードに特に気をつけたいものです。
知らず知らずのうちに否定や説教をしていないか、正論を押しつけていないかを振り返り、まずはアクティブリスニングの基本を心がけましょう。
「学校どうだった?」「今日、なにしたの?」といった直接的な質問は、思春期の子どもには「面倒」あるいは「プライバシーの侵害」と受け取られる可能性があります。
対話のポイントは、子どもが興味を持っていることに興味を持つことです。
例えば、選択理論心理学では、「上質世界(quality world)」という考え方があります。
上質世界は、価値観、家族や友人、場所、趣味、モノなど、自分の心理的欲求(例・人とのつながり、自律性、自己効力感、楽しさ)を満たしてくれる、いわゆる個人の大切なものが詰まった写真アルバムのようなものです。
子どもの興味も、この上質世界に含まれます。
今、子どもが楽しいとハマっているものはあるか? 一緒にいるとつながりが感じられるような大事な友人となにをしたら楽しいのか? 「自分でできた!」と達成感(自己効力感)を覚えるような出来事はあったか?
学校や塾に関する直接的な質問をするよりも、本人の上質世界にあることを予想して質問してみてください。
今までの「我が子」と違う一面を見せるようになり、驚くこともあるでしょう。
ただし、見た目や態度が大人っぽくなっても、子どもたちは親のサポートやつながりを求めています。
また、大人が聞きたいと思っていることと、子どもが話したいと思っていることが一致するとは限りません。
子どもが話そうとしてくれることは、本人が今いる世界への招待状を送ってくれたということです。
「あれもこれも知りたい」という大人のニーズをいったん横に置いて、子どもがシェアしてくれる世界をありのままに楽しみ、心のつながりを深めていきたいものです。
子どもが求めていないのに勝手にアドバイスをすることは敬遠されがちです。
一方で、子どもが意見を求めている時にアドバイスすると、感謝されることはもちろんあります。
話し手が考えてもいなかった可能性を示唆したり、聴き手の経験からアドバイスをしたり、新しい風を吹かせるために役に立つこともあるでしょう。
3000人以上を対象にした調査によると、良いリスナーになる条件のひとつとして、適度なアドバイスをすることが挙げられています。
ただし、相手の話を受容し、理解しようとする姿勢をまったく見せずに、いきなりアドバイスをしたり、解決策を提案したりすることは、アクティブリスニングに必要な3つの基本姿勢を無視することになるので、控えましょう。
1.自己一致
自己一致とは、話の聞き手が自分自身に正直であり、「感覚・考え・価値観・体験」などにもとづき、ありのままの人間であること。
聞き手が裏と表の二面性を持っていた場合、話し手との信頼関係が構築できないため、アクティブリスニングは成り立ちません。
2.無条件の肯定的配慮
無条件の肯定的配慮とは、話し手の「年齢・性別・話の内容・思考・感情」などに条件をつけず肯定的に捉えること。
話し手を否定すれば、話し手から心を開いてもらえません。話し手の否定・評価は厳禁です。
3.共感の姿勢
共感の姿勢とは、話をする側の立場にたって、話し手の「見た・聞いた・感じた」内容を、話し手の立場で見たり聞いたり心で感じたりすること。
話し手をまるごと理解するには、話し手の立場に立って物事を捉える共感の姿勢が不可欠です。
アクティブリスニングをせずに心理的安全な環境がない状態だと、「そうする代わりに、〇〇した方がいいんじゃない?」「自分の時は、〇〇したらうまくいった」など、別の方法を単に提案していたとしても、話し手にとっては批判や否定と受け取られる可能性もあります。
話を心から聴いてくれていない人のアドバイスは、なかなか受け入れられないものです。
最初からアドバイスをすることはせずに、まずは子どもの話に耳を傾けてみましょう。
聴き手の「コントロールしたい(こうしてほしい)」あるいは「助けてあげたい(こうした方がよい)」というニーズを横に置くことで、本人に考える余白を与えることは大切なことです。
話を聴いた上で、「提案があるのだけど、シェアしてもいいかな?」「同じような経験をしたことがあるんだけど、私がその時にどうしたか話してもいいかな?」「アドバイスがほしい? それともただ聴いてほしい?」など、アドバイスをする前に子どもに許可を得るのがおすすめです。
まとめ
物理的に子どものそばにいたとしても、本当に心がその場にあって、子どもに注意を払い、子どもとの対話を心から楽しめていないと中身のない ものになってしまいます。
子どもの発達を考える時、大人は子どものゲームや携帯電話の使用時間を気にするよりも先に、自分自身がいかに電子機器を使用しているか、対話を優先できているのかを見直す必要があるのではないでしょうか。
『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て』