慶弔儀式の中でも、言葉に気を遣うのが「葬」です。
マナー講師の諏内えみさんによると「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避け、『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる、とのこと。
今回は、諏内えみ氏著書『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」』から、お通夜やお葬式で上手に思いを伝えるヒントをご紹介します。
冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式ではないでしょうか。
悲しみに満ちた場では、ちょっとした失言が人を深く傷つけることになります。
「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。
お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところです。
だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。
深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切になります。
これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」と声をかけることは禁句です。
「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。
寄り添う気持ちに欠ける印象です。
まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。
その思いは、きっと届くはずです。
お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。
この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。
「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。
同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。
「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。
定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。
正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。
お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。
時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。
身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。
「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。
一般的には「恐れ入ります。生前は大変お世話になりました」です。
「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。
「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。
「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。
あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。
ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いることのできる表現です。
お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。
気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。
「すみません」も同様で、つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。
死についての表現には、いくつかあります。
身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。
「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。
ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。
死の尊敬語は「逝去」です。
弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。
「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。
時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。
これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。
深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。