「老化の原因はさまざまですが、実はリンの摂りすぎも無視できません。
特にスーパーやコンビニで売られている加工食品に大量に含まれている無機リンに注目したい」と自治医科大学分子病態治療研究センターの黒尾誠教授は言います。
今回は、黒尾誠教授著書『腎臓が寿命を決める 老化加速物質リンを最速で排出する』(幻冬舎新書)からカップ麺や加工肉に潜む「老化加速物質」についてご紹介します。
高校や大学の同窓会に出席すると、ものすごく久しぶりに級友と顔を合わせることになります。
懐かしい面々と挨拶を交わす中で感じるのは、同級生にもかかわらず、とても老けてしまった人と学生時代そのままに若々しい人がわかりやすく分かれてしまうことです。
なかには髪が薄くなり、白髪やシワが増え、いったい誰だったかも思い出せないくらいに老け込んでしまった人もいたりします。
一方で、髪や肌にもまだまだつやがあり、学生時代の頃とたいして変わらないような若々しさをキープしている人もいます。
いったい、こういった差はどこからくるのでしょう。
もちろん、さまざまな要因があると考えられます。
食事、運動、睡眠、仕事や生活の苦労、ストレスなどなど、多くの要因が複合的にからみ合って、その人の老けやすさや若々しさに影響をもたらしているのでしょうが、こういった要因なかの重要なひとつとして、リンの摂りすぎが与える影響も無視できないようなのです。
まだしっかりとしたエヴィデンスが取れている話ではないのですが、日常的にリンをどれくらい摂っているかによって、その人の見た目の若さに影響を与えているのかもしれないのです。
リンは老化加速物質だそうです。
普段からリンを必要以上にたくさん摂っていると、リンを排泄する腎臓に負担がかかり、腎機能がより早く衰えるようになってしまいます。
そして、腎機能が落ちて血液中にリンがたまるようになってくると、細胞毒のCPPが増えて、血管や細胞に障害をもたらし、老化を勢いづけるようになっていくと考えられるのです。
老化や病気といった悪い流れを招くそもそもの始まりは「リンの摂りすぎ」にあります。
なので、「日常的にリンをたくさん摂っている人」と「少しのリンしか摂っていない人」とでは、人生での老化進行スピードに差がついてきたとしてもおかしくはありません。
現代の食生活では、明らかにリンを摂りすぎているようです。
日本に暮らして普通の食生活を送っている人なら、誰もが必要量をはるかにオーバーしており、不足している人はひとりもいないと言っても過言ではありません。
リンはいろいろな食品に入っているのにもかかわらず、「味がない」「においもない」「見えない」という“ないないづくし”なのです。
このため、ほとんどの人が日々知らず知らずに口にして、大量のリンを摂ってしまうというわけです。
糖分や塩分を制限する場合とは勝手が違い、食事制限のうえで、リンをターゲットにする場合は、味もにおいもしないし、姿すらろくに見えない「透明な相手」を敵に回して戦っていかなくてはならないことを理解しないといけません。
では、この「見えない敵」とどう戦っていけばいいのでしょうか。
それには、リンというターゲットがどんな特徴を持った物質で、どういった食品に多く含まれているのかを知っておく必要があります。
リンには「有機リン」と「無機リン」の2種類があります。
有機リンというのは、肉類、魚介類、卵、乳製品、野菜、穀物などに広く含まれているリンです。
食品中の有機リン含有量はたんぱく質含有量に比例することが多く、このため、肉、魚、牛乳やチーズなどのたんぱく質食品に多い傾向があります。
ただし、体内への吸収率は20%~60%と食品によってかなり違いがあります。
無機リンというのは、食品添加物として使用されているリンです。
ソーセージやハム、ベーコンなどの加工肉、干物や練り物、スナック菓子、インスタント麺、ファストフードなど、ほとんどの加工食品に含まれています。
体内への吸収率は90%以上で、口から入った添加物の無機リンはほぼすべて吸収されてしまうと思っておきましょう。
じつは、有機リンのなかには「吸収されやすいタイプのリン」と「吸収されないタイプのリン」とがあります。
一般に、肉や乳製品などの動物由来の有機リンは吸収されやすく、野菜などに含まれる植物由来の有機リンは吸収されにくい傾向にあります。
なかでも、リンが多いとされている食べ物であっても、人の体にはまったく吸収されないタイプの食品があり、その「吸収されないリン食品」というのが「大豆」です。
大豆の有機リンは人間の腸からは吸収されません。
たくさん摂ったとしても、吸収されないまま便と一緒に排泄されていくことになり、吸収されないタイプのリンです。
大豆は「リンが多い食べ物」とされていますが、これは「食べてもいいリン」なのです。
しかし、無機リンのほうは違います。
食品添加物に入っている無機リンは、日々意識して減らせるかどうかで摂取量にかなり大きな差がついてしまいます。
むしろ、リン制限を成功させられるかどうかは、この食品添加物中のリンをどれだけ減らせるかにかかっていると言ったほうがいいでしょう。
食品添加物中のリンが体内に入ってきたときの吸収率は90%以上。
わたしたちは毎日さまざまな食べ物から食品添加物を摂り、途方もない量のリンを口にしてしまっているので、こうした大量のリンがどれだけわたしたちの腎臓に負担をかけ、老化を加速させることにつながっているのかが、これからしっかりと研究すべき課題なのです。
ターゲットにすべきは有機リンよりも無機リン。
食品添加物中のリンをいかに減らすことに力を注ぐかが、リン制限をうまくやっていく方法だと考えられるのです。
たとえば、「せめてジャンクフードを買うのはやめよう」とか「ファストフード店で食べる回数を減らそう」とか「加工肉を買うのは週1回にしよう」とか「スーパーのお惣菜はなるべく買わないようにしよう」とか、そういうカットの仕方でもリンの摂取量はかなり減らすことができます。
自分が食べたいものを我慢するのではなく、自分にもできそうという簡単な部分からカットしていくのがリン制限を長く続けるコツです。
ぜひ、自分なりの基準を決めて、食品添加物カットによるリン制限を無理のないところからスタートしてみましょう。
参考までに12条のリン制限具体例を示しておくことにしましょう。
1.ハム、ソーセージ、ベーコンなどを減らす
加工肉は調理も簡単でついつい便利に使ってしまいがちですが、リン添加物が使われているケースが少なくありません。
ソーセージなどはメーカーによってもリン使用量の差が大きく違うので一律にNGとも言えないのですが、普段から「加工肉はリンが多め」という意識を持っているだけでもかなり摂取量が違ってくるはずです。
2.魚肉ソーセージ、かまぼこ、練り物などを減らす
加工肉と同様に、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品にも添加物が多めに含まれています。
それに、はんぺんやつみれ、さつま揚げなど、これからの季節に美味しいおでんの具としての食品にも気をつけるべきでしょう。
たまに食べる程度なら問題ありませんが、やはり「水産加工食品は添加物多め」ということを頭の隅に置いておくようにしてください。
3.なるべく「元の素材が分かる食品」を買う
加工食品には、いったんすり潰してから別のかたちに整えるなど、元の素材が原形をとどめていないことが多いものです。
こうした「元の素材やかたち」が分からないものには添加物が含まれているケースが多いので、食品を買い求める際のひとつの目安にしておくといいでしょう。
4.カップラーメンを減らす
お湯を注ぎさえすれば食べられるカップ麺はたいへん便利ですが、添加物も多く使用されています。
しょっちゅう食べている人は、その「しょっちゅう」を「たまに」に変えるだけでも摂取量が減ってくるはずです。
5.「とんでもなく日持ちがするもの」は買わない
スーパーやコンビニで売られている加工食品には、たまに消費期限がびっくりするくらい長いものがあります。
何か月も何年も日持ちがするということは、それだけ保存料や防腐剤など多くの添加物が使われている可能性があります。食品は時間が経てば腐っていくのが普通です。
とんでもなく日持ちするものやいつまで経っても腐らないものは、なるべく買わないようにしょう。
ただし、缶詰に関しては空気に触れないように中身を密封して詰めてから高温高圧の蒸気で完全滅菌しているので、長期間保存をしても腐らないので、賞味期限が長いからといって添加物の心配はしなくても大丈夫です。
6.「いかにも着色料を使っていそうな食品」は買わない
不自然なくらい鮮やかな色をしていたり、およそ食べ物と思えないようなどぎつい色をしていたりする食品は発色剤や着色料などの添加物を使用している可能性大です。
そういった「いかにも」という食品はなるべく買わないようにしましょう。
7.スナック菓子はなるべく個別包装してあるものを
スナック菓子は全般的に添加物が多いです。
ついついつまんで、いつの間にかひと袋空けちゃった、といった行為にならないように、少量タイプのスナック菓子や個別包装してあるチョコやおせんべいを買うようにしておけば食べすぎを防ぐことにもつながります。
お菓子類が好きな方は「少量タイプを買って、ちょっとだけ食べる」を習慣づけていくといいのではないでしょうか。
8.なるべく手作りのものを食べる
スーパーやコンビニのお惣菜やお弁当にも添加物が使われているので、普段から「なるべく家でつくって食べるように心がけているだけでも添加物摂取量を減らすことにつながります。
9.ファストフードを減らす
ずいぶん前から「ファストフード店で提供している食品には添加物が多く含まれている」ということが指摘されています。
もちろん、以前に比べればかなり改善もされてきているようですし、すべてのファストフードがNGというわけではないですが、やはりあまり頻繁利用するのは考えものです。
10.「下ゆで」「ゆでこぼし」で工夫を
ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉は、炒めたり焼いたりする前に熱湯に10秒ほどくぐらせるとだいぶ添加物を落とせるようです。
また、インスタントラーメンは、麺をゆでたお湯にスープを加えるのではなく、麺とスープを別々の鍋でつくってスープの鍋に麺を移すようにすると、麺をゆでた鍋で添加物を落とせるのでおすすめです。、
カップラーメンの場合は、かやくと麺が別々のタイプを選び、麺にお湯を注いだらそのお湯をいったん捨てて、改めてお湯を入れ直すといいそうです。
調理の際、こうしたひと手間を加えるよう習慣づければ、それだけでもけっこうな削減につながるはずです。
11.値段が安すぎるものには注意
同じ種類の食品でも、値段が安いものは、コストを安く仕上げようとしている分、安易に添加物に頼ってしまっている傾向があるようです。
一方、値段が高いものは、なるべく添加物に頼らずに「自然のまま」「素材のまま」に近いかたちで食卓に届けようという努力をしているケースが多くみられます。
このあたりは、値段に正直に反映されていることが多いので、あまりに安すぎるものには注意したほうがいいかもしれません。
12.食品表示ラベルをよく見る
先ほど述べたように、「○○料」「○○剤」と一括名表示されている成分には、何種類もの添加物が含まれていることが多いです。
それらのどこにリン添加物が混じっているか分からないので、ラベルを見て、「○○料」「○○剤」という記載の多い食品はなるべく買わないようにするというのもひとつの手ではないでしょうか。
まとめ
食品にリンが入っているかどうかは、細かく見てもなかなか分かりません。
なので、ざっくりと食品添加物が多そうな食品は、どれにもリンが入っているかもしれないと思って、できるだけ避けるというわけです。
なにしろ相手は「見えない敵」ですから、おおざっぱでも広めに網を張っておいて、危なそうだな、と思ったものはできるだけ控えるようにして、見えない相手を網にかけることで、その分のリンを口に入れずに済ませるようにしましょう。
意識的に食卓から食品添加物を遠ざけていくのが、もっとも効率的で合理的なのです。
『腎臓が寿命を決める 老化加速物質リンを最速で排出する』