しかし少し前になりますが、猫にかまれたことをSNSにアップした方が、その後急死されたニュースが取り上げられていました。
ご遺族の方は、猫と関係ないと発表されていますが、ペットを飼っている方にはは気になるところです。
実際のところ、猫や犬にかまれたら、命の危険があるのでしょうか。
意図的でなくても、遊んでいるときにうっかりペットに噛まれてしまう場合もありますよね。
そんなときはどうしたらいいのでしょう。
例としてはそれほど多くありませんが、猫にかまれて亡くなった事故は現実に起こっています。
国立感染症研究所の「病原微生物検出情報(IASR)」月報(2019年7月号)では、
『患者は外の猫に餌やりをしていた人でした。いわゆる「餌やりさん」です。生来健康な50歳代の女性でしたが、餌付けしていた猫にかまれた2日後に、発熱、食欲低下、 嘔吐などの症状があり、血液検査で白血球減少と血小板減少が認められ、症状が悪化し死亡しました。』
のような報告がされています。
病理解剖から、 SFTS(重症熱性血小板減少症候群)が疑われ、病理検査の結果でSFTSが原因であったことが明らかになりました。
患者をかんだネコもSFTSウイルス(SFTSV)感染症を疑わせる症状があり、検査結果からも女性は猫からSFTSを感染したと考えられています。
つまり、SFTSVを原因とするマダニに刺された猫や犬にかまれた場合は、人命にかかわるということです。
このようなことから、SFTS感染地域の野良猫は、SFTSウイルスを持っていることがあるので、かまれると命の危険があるといえます。
SFTSによる感染症は、 国内では年間50~100人程度の患者が発生しており、その多くがマダニですが、犬や猫の唾液からも感染するということなので、注意が必要です。
猫ではないのですが、フェレットにかまれて亡くなった警察官の例があり、2019年に労災に当たる公務災害の認定を受けています。
詳しく見ていくと、2002年にフェレットの捕獲作業をしていた警察官が手をかまれ、感染症の治療を続けましたが、細菌に感染して炎症が広がる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と診断され、休職と復職を繰り返し、17年後に亡くなっています。
死因は明らかにされていませんが、フェレットにかまれたことが原因ではないかと推測されています。
猫にかまれると誰もが亡くなるわけではありませんが、蜂窩織炎(ほうかしきえん)になると、死亡する可能性が高くなります。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は聞きなれない言葉ですが、皮膚の層構造の深いところから皮下脂肪にかけて細菌が感染した状態のことを呼びます。
この病気にかかると、患部は皮膚が赤く腫れて熱を帯び、触ると痛みを伴います。
全身症状としては、発熱、寒気、関節痛やだるさなど。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)の診断の難しいところは、特別な検査がなく、医師の病歴聴取と身体診察と検査結果を組み合わせないと、診断に至らないことです。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)になりやすい傾向があるのは、肥満やむくみがある人です。
皮膚がパンパンに張っている状態なので、ちょっとしたことで傷がつきやすく、治りも遅くなります。
具体的な病名をあげると、糖尿病や慢性腎不全、慢性肝疾患、がんなどの疾患を持つ方は、むくみができやすいので蜂窩織炎(ほうかしきえん)のリスクが高いと言われています。
このような基礎疾患を持っている人は、猫などのペットにかまれないように注意しないと、かまれたり、ひっかかれたりしたところから、蜂窩織炎になり命にかかわることがあるのです。
さらに、すぐに命の危険があるわけではありませんが、「動物由来感染症(ズーノーシス)」に感染する場合もあります。
これは、人獣共通感染症と呼ばれることもあり、WHOでは「脊髄動物と人の間を自然な条件下で伝播する微生物による病気または感染症」と定義しています。
簡単にいうと、動物から人に感染するという病気です。
ズーノーシスの原因は、WHOが確認しているだけで、200種類以上あるといわれています。
これには、生物テロで使われる炭疽菌やペスト菌なども含まれています。
ズーノーシスでも、人間・動物双方とも重症になるもの、動物は無症状でも人間は重症化するもの、またその逆もあります。
日本で猫や犬によって「かまれる」「ひっかかれる」ことで動物から人にうつる病気をご紹介します。
1.猫ひっかき病
【 症状 】
猫にかまれたり、ひっかかれたりして発症する病気です。
バルトネラ菌(Bartonella henselae)が原因で、病原体を持っている犬やノミから感染することもあります。
患部が赤く腫れたり、化膿したりします。発熱、痛みがあり、ひどい場合は、腋窩のリンパ節まで腫れます。
まれに脳炎になり意識障害を起こします。
【 感染経路 】
犬、猫、保有菌を持っている猫を血を吸ったノミから感染することもあります。
2.パスツレラ症
【 症状 】
猫のほぼ100%、犬の約75%が口腔内常在菌としてパスツレラ菌を持っています。
具体的には、P.multocida、P.canis、P.dagmatis、P.stomatis の4種類を犬や猫が保菌しています。
主な症状は、皮膚の化膿です。最新の調査では、呼吸器系の疾患、骨髄炎や外耳炎などの局所感染症、敗血症や髄膜炎など全身重症感染症もあり、ひどい場合は、死亡に至った例も確認されています。
【 感染経路 】
犬、猫
3.カプノサイトファーガ感染症
【 症状 】
犬や猫の口腔内に常在している3種の細菌、C. canimorsus、C. canis、C. cynodegmiが原因です。
発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などから始まり、ひどくなると、敗血症を起こし、死に至ることもあります。
日本での報告はあまりありません。
【 感染経路 】
犬、猫
痛いからといってよく洗わなかったり、絆創膏を貼りっぱなしにしておくのは不衛生なのでやめましょう。
患部が「赤く腫れてきた」「熱っぽい」「かたくなっている」などの異変を感じたり、体がだるいなどの不調を感じたら早めに医療機関を受診してください。
かみ傷の場合は外科を受診し、診察時に何の動物にかまれたかを伝えることも重要です。
猫や犬に噛まれたからすぐに命が危険になるということはあまりありませんが、病気になることはありえます。
猫や犬を飼っている人は、できるだけかまれないようにするだけでなく、特に猫の場合は、爪はこまめに切るなどして、トラブルにならないよう事前に予防しましょう。
まとめ
1. 傷口を水道水で流しながら、よく洗います。噛まれたらできるだけ早く洗面所やお風呂場で傷口を洗い流すことです。貯めた水ではなく、流水で丁寧にじっくりと洗浄することが大切です。
2. さっと洗うのではなく、傷口の周りを押し出すように、傷口辺りの病原体を押し出すようなイメージで洗います。
3. 近くに水道水がない場合は、ペットボトルのミネラルウォーターでもいいので、かけながら洗うようにします。
4. もしも傷口から出血が止まらない場合は、洗い流した後に圧迫止血をします。血が止まらないときは、揉んだりせずに、ひたすら押すことが大切です。それでも止まらない場合は救急車を呼ぶことも考えましょう。
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