食事のマナーは、本人が気にしていなくても、周囲を不快にさせてしまったり、行儀が悪いと評価が下がったりしてしまうので、できれば子どものうちに最低限のマナーは身につけさせてあげたいですよね。
なかでも、ママやパパから「直したい」という声がよく出るのが「食卓に肘をついて食べる」というもの。
今回は、なぜ肘をついて食べない方がいいのか、子どもが納得する言い聞かせのヒントや意外な理由、すぐできる対策も紹介します。
食事中に肘をついちゃダメ!と注意した子どもから「どうして?」と聞かれたら、「行儀が悪いから」と答えるご両親が多いかと思います。
もちろんそれは正しいのですが、もう少し深掘りして「なぜ肘をつくと行儀が悪いのか」を考えてみると、意外と理由が思いつかない人もいるのではないでしょうか。
マナーや行儀作法は、その国や地域の文化によって大きく異なります。
手で食べる、膝を立てる、テーブルを汚し散らかすなど、日本ではマナーが悪いとされる行動も、国によっては問題なかったり、逆に日本人がソバなどの麺類を音を立ててすする文化は欧米では眉をひそめられたりしますね。
そこで、日本の食卓文化がどのようなものだったのかを少し振り返ってみます。
日本では、江戸時代から1923(大正12)年の関東大震災前までは、脚のついた小さめの「箱膳」などに1人ずつ食事を置いて食べていたため、そもそも肘をつくのは不可能でした。
関東大震災を経て、庶民の日本の食卓の主役はちゃぶ台へと移行します。
背の低いちゃぶ台に大人数の家族で囲むスタイルで食事をとっていたので、肘をつくようなスペースもなかったでしょう。
いっぽう欧米では、中世以降は高さのあるテーブルと椅子で食事をする国が大半でしたが、食器を持ち上げて食べる日本のような習慣はありませんでした。
昭和に入り、戦後の復興期を経て、昭和30年代、日本人の食様式は「ちゃぶ台×和室」から洋風の「ダイニング・キッチン」へと移行します。実は「ダイニング・キッチン」は昭和30年代の公団住宅が世に広めたものなのだとか。
このときに西洋風の「テーブルと椅子」に、日本独自の「食器を持ち上げる習慣」が組み合わさり、肘をつくというしぐさが生まれてしまったと考えられています。
また、ちゃぶ台の場合でも、核家族や独居の人が増えると、1人あたりのスペースを広く使えるため、テレビを見ながら肘をついて食事をすることが可能になったとも言われています。
つまり、「肘をついて食べる」のは、伝統的な文化や歴史によるものというより、近代の生活スタイルの変化につれて増えてきた行為だといえます。
ではなぜ人々はそれを「行儀が悪い」「マナー違反」と感じるのでしょう。
考えられる理由はふたつあります。
ひとつは、肘をついたときの姿勢です。
肩肘をつくと背筋が左右どちらかにゆがみ、また背中が丸まっているために胃が圧迫されて消化を妨げるので、それを戒めるためです。
もうひとつは、私たちが日常生活で肘をつくのは、小難しい授業中や面倒な作業など「退屈」「興味がない」「真剣に取り組む気がしない」という感情の表れだからです。
食事中に肘をついていると、たとえそのつもりがなくても、料理や作ってくれた人、一緒に食卓を囲んでいる相手に対し「感謝がない」「興味がない」というメッセージにとらえられてしまいます。
お子さんに「どうして肘ついちゃダメなの?」と聞かれたら、上記ふたつつの理由を、年齢に合わせて分かりやすく伝えてあげられるとよいですね。
小さい子がテーブルに肘をついているのを見ると、「だらしない」「行儀が悪い」と叱る大人は多いことでしょう。
「子ども時代、肘をついたら叩かれた」「食事を抜かれた」という話も聞くほど、重要な食事のマナーであり、しつけだと考えられてきたことは間違いありません。
わたし自身も、父親に肘を叩かれた思い出があります。
しかし、子どもが肘をついてしまうのは、単にだらけているとか行儀が悪いだけとは限らず、次のような理由があるかもしれません。
1.テーブルやちゃぶ台の面が子どもにとって高すぎる
一般的なダイニングテーブルでは、大人にはちょうどよい高さでも、子どもが椅子に座ると肘がテーブルの面に当たる高さという場合、どうしても肘をつく形になりやすいです。
この場合、高さの調節できる椅子なら少し高くする、そうでなければ補助マットを敷くなどして、肘がテーブルに届かない程度に椅子の座面を上げると改善することがあります。
2.食器やコップが重い
小さい子にとって、ごはんがいっぱい入った陶器の茶碗やスープなどの器をこぼさないようにずっと持っておくのは意外と重い場合もあります。
かといって、置いたままでは食べにくいし、お腹も空いたとなると、肘をついて食べるしかないのかもしれません。
このような時は、しばらくの間、軽いプラスチックや木の食器に変えてみるのも良いでしょう。
子どもはまだ身体の発達の途中なので、体幹が弱く背筋を伸ばして座り続けられなかったり、手先が未発達で食器の扱いに疲れてしまったりすることもあります。
日常生活で、どろんこ遊びや粘土・あやとりなど手指を使う遊びをたくさんしたり、洗濯物たたみのお手伝い、ペットボトルのふたを開けるなど、大人がやった方が早いことでも自分でやるのを見守っているうちに、食卓でも姿勢を保ってじょうずに食べられるようになる子もいるので、徐々にできるようになるまで見守ってあげてください。
まとめ
もちろん、ママやパパが肘をついて食べたり、食事中ずっとスマホをいじったりということがないように、良いお手本となって親子で楽しく食事に向き合いたいですね。