しかしそれが頻繁に続くと、「もしかして認知症かも?」と不安になってくるものです。
同じ物忘れでも、加齢によるものと、認知症などの病気が原因のものとの違いを理解し、気をつけたい症状や病院を受診する目安を知ることで、正しく備えておきたいですね。
今回は「物忘れ」の違いについてお話します。
人の名前が思い出せない、どこに置いたか忘れて探し物をする、同じことを何度も聞いてしまう、といった物忘れは、65歳以上の約8%が自覚しているといいます。
これが年齢相応で、自然に起きている記憶障害であれば「良性健忘」といわれるものです。
一方、原因に病気がある場合の代表例が認知症です。
加齢による物忘れと同様、認知症は年齢が上がると患者が増えていき、85歳以上では3人に1人、90歳以上では2人に1人がなると言われています。
一方で、厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81・64歳、女性87・74歳と過去最高を更新中で、人生100年時代に、いかに「健康寿命」を延ばすかが課題になっています。
認知症に対する関心は非常に高く、物忘れに敏感になっている人も少なくはないと思われます。
しかし、物忘れに敏感な人は少し自覚症状が出れば自ら物忘れ外来などを受診するように行動しますが、家族が心配するほど、本人はあまり気にしていない方も多くいて、自覚がない患者さんのほうが、病気が進んでいることがあります。
老化による物忘れと初期の認知症を明確に区別することは難しいですが、病気を疑う特徴的な症状もあります。
例えば「何を食べたか」「誰に会ったか」ではなく「食べたこと」「出かけたこと」自体を忘れるなど、行動や経験の全体を忘れる場合です。
日常生活の行動も記憶に支えられているので、電子レンジの使い方や料理の手順がわからなくなるなど、以前はできていたことができなくなる場合も認知症の可能性があります。
また、認知症が疑われる症状は物忘れだけではありません。
個人差はありますが、予定どおりに行動できない、順序だてて説明できない、よく知っているはずの場所で迷う、言葉がうまく出なくなる、誰もいないのに誰かがいると言う、怒りっぽくなるなどの症状がみられたりすることもあります。
人それぞれ症状はさまざまで、認知症の種類によっても異なりますが、行動や感情・情動の変化があり、対人関係の悪化などがみられる場合は、早めに物忘れ外来に受診するのがよいでしょう。
ここで認知症の基本的な情報を確認しておきましょう。
認知症は「脳の障害や病気」によって認知機能が低下し、「日常生活にさまざまな影響が出ている状態」です。
代表的なものに「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」があります。
認知症検査では、医師との面談、血液検査などの一般的な検査、認知機能の状態を客観的に評価するテスト「MMSE(ミニメンタルステート検査)」、「脳画像検査(CT、MRIなど)」がおこなわれます。
物忘れがあっても検査結果が正常な状態と認知症の中間で、記憶力や注意力などの認知機能に低下がみられるものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態「軽度認知障害(MCI)」の可能性があります。
さらに、本人や家族は物忘れを訴えているのに検査では記憶障害自体を確認できない「主観的記憶障害・SMI(主観的認知障害・SCI)」もあります。
なかには心配が強すぎるあまり、実際は物忘れをしていないのに、していると思い込んでしまう『健忘恐怖症』も含まれます。
SMIやSCIの人たちは、昔は『考えすぎ』と言われていましたが、近年、将来認知症になるリスクが高いことがわかっています。
そのため、検査で異常がなくても患者さんが物忘れを心配しているのなら、うつ病や不安症などの精神的な病気の可能性やその方の性格なども考慮しつつ、十分な診察をおこなうことが大切です。
認知症への関心の高まりなどから、近年は物忘れを訴えて早めに受診する人が多いそうです。
一方で、精神科への受診や認知症の検査に抵抗感を持つ人も少なくありません。
患者自身に自覚がない場合はとくにその傾向が強いようです。
家族が受診をすすめる際には、本人の自尊心を傷つけないよう工夫が必要になります。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病がある場合は、そちらが主な受診目的のようにして「一度詳しい先生に相談してみたら」などと促すのもいいでしょう。
かかりつけ医など、患者が信頼を寄せている「第三者」からすすめてもらうのも一案です。
どうしても本人が嫌がる場合は、かかりつけ医などに相談して、先に家族だけで病院に出向き、どうやって本人に受診してもらうか一緒に考えることもできます。
自治体によっては、高齢者健診に認知機能検診を組み込んだり、物忘れ検診を実施したりするところも増えつつあります。
一般的に、虫歯や歯周病の予防のために歯科に定期検診に行くように、いずれはからだのチェックアップの一環として脳の検査に行くことが、広がっていくのではないでしょうか。
検査の結果、認知症に似た別の病気が見つかる可能性もあります。
また、認知症の前段階やごく早期から生活療法に取り組むと、症状が軽くなったり、認知症状態を脱したりすることもあるそうです。
これから先はさらなる早期発見が重要になっていくことでしょう。
まとめ
あまり敏感になりすぎるのも考え物ですが、加齢とともに忘れっぽくなるのは自明の理です。
その物忘れがどういった「物忘れ」なのかは、素人が考えても何も解決するものではありません。
不安を感じたら、躊躇することなくまずは検査を受けることが大切です。