感情がそのまま表情や言動に出やすい方は、案外、本人も気がつかないうちに小さなパニックを起こしていることが多いのです。
では、パニックを起こしやすい人は、どういう人なのでしょう。
それは、心配性、緊張しやすい、思いつめやすいなど、一言でいえば、「気持ちに余裕のない人」です。
たとえば頼みごとをして断られただけで、「あなたは、私がどうなってもいいと思っているの!?」とこの世の終わりが来るように相手をなじる人がいます。
誰かひとりに断られても、ほかの人に頼んでみるとか、自分でやるにはどうしたらよいかを考えるとか、最悪できないなら仕方ないと割り切るとか、そういったさまざまな考えがまったく浮かんでこないのです。
思いも寄らぬ事態になると、最悪の結果が起きることしか考えつかずに取り乱してしまうのです。
また感情的になりやすい人は、よくいえば真面目なのですが、悪くいえば「頭が硬い」とか「融通が利かない」とも言えます。
だから相手の言葉や態度に悪意を感じると、それをまともに受け止めてしまい腹を立てます。
あるいは、とても信頼していた人に反論されたり、頼みごとを断られたりすると、どうして断るんだ!と不安になります。
相手のイヤな態度や反論をまともに受け止めてしまうのはなぜかと言うと、こういう人は、「こうなるはず」という思い込みが強すぎるのです。
例えば、「私の考えに賛成してくれるはずだ」「あの人なら言う通りに動いてくれるだろう」といった勝手な思い込みです。
それは、自分が正しいという思い込みでもあります。
しかしビジネスのシーンでは、予想しなかった反論に出くわしたり、考えもしなかった提案が出てきたりすることはいくらでもあります。
自分の味方だと思っていた人から批判されることもあります。
そうなると、思い込みの強い人は批判も異論もすべて、自分への悪意と受け止めてしまい、感情的になってしまうです。
あくまで、自分の意見は1つの見方でしかなく、「私はこうしたほうがいいと思う」というだけのことです。
それに対して別の見方が出されて、「さあ、どうだろうか」と議論がスタートします。
ところが思い込みの強すぎる人は、「自分の意見=結論」と考えてしまいます。
いわば心の狭い状態ですから、相手のちょっとした皮肉や悪意に出合うとたちまち感情的に反応してしまうのです。
感情的になりやすい人は、「またやってしまった」と思うことがしばしばあります。
たとえばA課長と部下のB君は、よくこんなパターンになります。
B君は日頃から、A課長とはどうしても合わない。ふつうに会話していても、かならずカチンとくるような言葉を言われてしまうと考えており、だからB君は、A課長に名前を呼ばれただけで、さっさと話を済ませたいと考えます。
A課長はというと、B君と向き合っていると、だんだんいらだってくる。あのノラリクラリとした言い訳を聞いているうちに腹が立ってくると思っており、きちんと内容を問いただしたい気持ちとは裏腹に、とりあえず事務的に済ませよう、と考えてしまうのです。
両者とも、感情的になることを避けたいと考えているのですが、実際にはなかなかうまくいきません。
感情コントロールのヘタな人は、いつも「悪いのは相手の側」だと考えているからです。
また、面子やプライドも問題をややこしくします。
感情的になる相手に対して、「こいつになにがわかるんだ」といった対抗心のようなものもあるので、たとえ相手が上司だとしても、「現場の厳しさを知っているのは私だ」といった気持ちが拭えないのです。
それは、相手より自分のほうが上なんだという心情の表れです。
いま問題になっていることや議論しているテーマでは「負けるわけにはいかない」と思うのです。
立場もキャリアも自分が上の場合は、相手が少しでもこちらを軽んじるような言い方をすると、あからさまに「なんだ、その態度は!」と怒ってしまうのは、相手を完璧に見下さなければ気が済まないところからきています。
そういう場合の対処方は、「感情を放っておく」ことです。
簡単に言うと、「気にしない」ということです。
感情を表に出すこと自体は悪いことではありません。
とくに喜びや嬉しさの感情を出している人は、周囲の人から好かれます。
問題なのは、感情にまかせて問題行動を取ってしまうことです。
感情をコントロールするとは、感情を持たないようにすることではなくて、感情を持ったときに問題行動を起こさないように自制することです。
小さなスペースを占める怒りや憎しみの感情なんて、喜びの感情が少し生まれるだけでたちまち追い出されます。
怒りや憎しみがわいても、イヤな感情は一旦放っておいて、目の前の作業を片づけていれば、「そろそろランチだね」と声をかけてくれる人が現れ、「うん、行こうか」と返事をしたときにはもう、ムシャクシャした気持ちはなくなっているものです。
精神療法の1つである森田療法には「過去と他人は変えられない」という基本的な考え方があります。
たとえば、子どもがちっとも勉強しないと悩む母親がいたとします。
受験を控えているのに、子どもは遊んでばかりで、見るたびに母親は怒りをぶつけるのですが、子どもの反発を受けるだけで、状況はまるで改善しません。
しかし、冷静に考えてみると、子どもを親の思い通りに変えることなど不可能です。
私が子どもを変えなければならない、と思うから、親は変わらない子どもを見て不機嫌になり続けるのです。
そういう時は、「子どものことはそうそう変えられない」と割り切ってしまうのです。
「いい大学に行ってほしいけど、ダメなら仕方がない。子どもの人生なのだから」と割り切りましょう。
そうすれば気持ちのトゲトゲも軽くなり、イライラも収まります。
そのうえで「子どもは変えられないけれど、自分が変えられることはあるかもしれない」と意識を転換しましょう。
たとえば、子どもに対して、いつもとは違うやわらかい言葉をかけてみてはどうでしょう。
子どもは「いつもとなにか感じが違う」と気づくはずです。
そういった小さな親の変化を見て、やがて行動に変化が生まれるかもしれません。
あるいは、親自身がなにかの勉強を楽しんでいる姿を見せる、というのも1つの手です。
親が何かを楽しんで学んでいる姿を見ることで、子どもも「勉強って楽しいのかもしれない」と感じるかもしれません。
実際、勉強のできる子の親は、親自身が好奇心旺盛で勉強好きというケースが多いのです。
とにかく自分の変えられる範囲で行動を変えてみて、なにがどう変化するのかを試してみるだけでもいいのです。
まとめ
それが、不機嫌にならず、ムダな心配もせず、怒りが湧かないようになるコツです。
仕事をしない同僚、口うるさい上司、勉強しない子ども、無気力な夫などは、自分がいくら悩んだところで、「変えられないこと」なのでどうにもなりません。
いつまでも悩み続け、不機嫌がひどくなるだけです。
そういう感情は放っておき、自分が喜びを感じる行動や思考にとっとと移りましょう。
一方、同僚への仕事の頼み方、上司へのあいさつ、子どもへの声かけの仕方、夫の体調管理など、「変えられること」は、自分の行動や思考次第で不機嫌になる機会をグンと減らすことができますよ。
『感情的にならない心の整理術』