健康にいいと信じていた食べ方が、実は体に負担をかけていたり、効率よく栄養を摂取できていなかったりすることもあるのです。
そこで、まずはクエッションから。
以下の設問に○か×で回答をお願いします。
Q1 食事は「野菜→おかず→ごはん」の順に摂るといい
Q2 強い体をつくるには夕食でたんぱく質をしっかり摂ると効果的
Q3 歳を重ねたら粗食&小食が健康の秘訣
Q4 空腹時間が長いほうが、健康寿命が延びる
Q5 寝る前に小腹が空いたらヨーグルトを食べよう
Q6 骨を若く保つには、刺身より焼き魚がおすすめ
Q7 水分補給は水より緑茶を積極的に
60代にはいると、身体にさまざまな変化が現れます。
変化に合わせて食事の摂り方も工夫することが必要です。
今回はクエッションの答え合わせとともに、還暦以降の「食べ方の新常識」をご紹介します。
A1 ×
食事の際、まず食物繊維が多い野菜から食べ始めて、次におかず→ごはんの順に食べる食事法を「ベジファースト」と呼びます。
野菜を先に食べることでカロリーや糖質の過剰摂取を防ぎ、生活習慣病を予防する効果があるとされ、年齢問わず実践する人が増えています。
しかし60代にはいると次第に食が細くなり、野菜を食べただけで満足して食事を終えてしまうという人が少なくありません。
これでは、体づくりに必要なたんぱく質を摂取することができなくなります。
たんぱく質は、筋肉や内臓など人体のあらゆる組織をつくり、活動エネルギーの源になるものです。
筋肉量は20歳前後でピークを迎え、その後は1年に1%ずつ減少するといわれており、60代以降は、肉や魚、卵に含まれるたんぱく質をしっかり摂らないと、体重や筋力が低下して健康寿命が損なわれやすい状態であるフレイルのリスクが高まります。
18歳以上の女性の場合、1日に推奨されるたんぱく質の摂取量は50gですが、理想は毎食ごとに少なくとも20g摂ることです。
約20gのたんぱく質を摂取する例としては、鶏もも肉80gとプロセスチーズ1個(20g)で補給できます。
60代以降は「肉魚ファースト」を心掛けて、食事は、肉や魚、卵から食べ始め、次に野菜、最後にごはんという順番で栄養バランスを整えましょう。
Q2 強い体をつくるには夕食でたんぱく質をしっかり摂ると効果的
A2 ×
朝食、昼食、夕食のなかで、たんぱく質はいつ摂るのがよいのでしょうか?
基本的には3食ともにしっかり摂ることが大切なのですが、朝ごはんで食べるたんぱく質がもっとも重要なのです。
筋肉は睡眠中でも例外なく、常に合成と分解を繰り返しています。
食事を摂らない時間が長い睡眠中はたんぱく質が補給されず、筋肉の材料となるアミノ酸が不足した状態になります。
起きた後に、アミノ酸が足りない状態のまま活動すると、筋肉から分解され筋肉量が減ってしまう可能性があります。
そのため、朝食でたんぱく質をしっかり摂る必要があるのです。
忙しくてコーヒーだけで朝食を済ませている方は、ぜひたんぱく質が豊富な食事に切り替えてください。
たとえば、トースト、ハムエッグ(ハム2枚卵1個)、牛乳1杯(210mL)、ヨーグルト100gに変えると、
卵1個で6.1g、ハム2枚で7.4g、牛乳1杯(210mL)で6.9g、ヨーグルト100gで3.6gのたんぱく質摂取が可能です。
また、意外に高たんぱく質なのがピーナツバター。
小さじ1杯で1.1gのたんぱく質を補給できます。
トーストに塗るのはバターやジャムではなく、ピーナツバターにしてみましょう。
合言葉は、朝ごはんにこそ「たんぱく質」ですよ!
Q3 年を重ねたら粗食&小食が健康の秘訣
A3 ×
粗食のほうが長生きできるし、年齢とともに基礎代謝は下がってくるので食べる量を減らすべきといった、粗食や小食をすすめる方もおられます。
確かに過度の太りすぎは健康を損なう要因になりますが、一方で粗食が長生きの秘訣とはいえないことが、近年の研究でわかってきました。
世代別に1日に摂るべき栄養素の量を比べてみると、実は20代と60代でも数字はほとんど変わりません。
むしろ、加齢とともに食物を消化吸収する機能が低下する60代以上にこそ、健康と若さのためにしっかり食べて栄養を補給することが必要なのです。
また、粗食と同様に注意したいのが、脂質の摂取です。
年齢を重ねると、健康のためには脂っこいものを控えたほうがよいといわれる方もおられますが、実はそうとは言い切れないのです。
脂質には脳の神経の働きや、健康的に肌や髪の艶を維持したり、脂溶性ビタミンの吸収を促す作用があり、脂質によって皮膚や粘膜、歯の健康が保たれている一面があるからです。
あっさりした食事ばかりに偏るのではなく、ときには脂が乗った肉や魚を食べて適度に脂質を補給しましょう。
Q4 空腹時間が長いほうが、健康寿命が延びる
A4 ×
最近、食事と食事の間をあけて長い空腹時間をつくることで体重が減って病気の予防にもなる、と話題を集めているのがプチ断食ダイエットです。
中には、16時間何も食べずに飢餓状態をつくるダイエット法もありますが、決しておすすめできません。
飢餓状態の体に突然食べ物が入ってくると急激に血糖値が上がり、次にそれを下げようとして大量のインスリンが分泌されます。
こうして血糖値が乱高下することは、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を招く要因になる最大の原因になるのです。
また、認知症の発症に関わるとされているたんぱく質のアミロイドβは、インスリン分解酵素によって分解され脳内から排出されます。
ところが、血糖値が急上昇するとインスリンの分解で手いっぱいになり、アミロイドβの分解まで手が回らず、結果的に認知症発症のリスクが高まります。
食事は1日3食規則正しく摂ることが基本です。
Q5 寝る前に小腹が空いたらヨーグルトを食べよう
A5 ×
睡眠は日中の活動で疲れた脳と体を休め、紫外線やストレスなどによる活性酸素で傷ついた細胞を修復するなど、疲労回復や健康維持のために大事な役割を果たします。
睡眠の質が悪かったり、睡眠時間を十分取れなかったりすると、疲れやすくなり、倦怠感が取れないなど、さまざまな体調不良が起きるのです。
質の良い睡眠は大変重要なのですが、加齢とともに多くの人が「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」など、「睡眠障害」の症状に悩まされるようになります。
眠れない時に、ホットミルクを飲んだり、小腹が空いてヨーグルトを食たり、という方がおられるようですが、これはおすすめできません。
牛乳もヨーグルトもそれぞれに免疫力アップ、腸内環境を整えるという働きがあり、健康効果が高い食品です。
しかし牛乳やヨーグルトに多く含まれる脂肪分は、消化に時間がかかり、ベッドに入ってからも内臓の消化活動が続くため、睡眠が妨げられてしまいます。
したがって就寝前に乳製品を食べるのは避けた方が賢明です。
さらにいうと寝る前の3時間は飲食を控え、胃が落ち着いてから休むことをおすすめします。
Q6 骨を若く保つには、刺身より焼き魚がおすすめ
A6 ○
たんぱく質をしっかり補給して筋肉維持を心がけても、骨が弱くなっていると自分の足で元気に歩き続けることができません。
骨粗しょう症予防のためにはカルシウム補給が必須ですが、それには魚料理がおすすめです。
魚料理でもっとも効率よく栄養を摂れるのは、生で食べる刺身だといわれています。
煮たり焼いたりすると、水溶性のビタミンやEPA、DHAなど貴重な栄養素が熱によって壊れてしまうからです。
一方、骨粗しょう症予防の観点から見ると、刺身より骨付きで調理する煮魚か、焼き魚のほうが、骨から溶け出したカルシウムが身の部分に含まれるので、カルシウムの摂取量が増えます。
煮魚の調理の際に少量のお酢を加えると、骨から溶け出すカルシウムの量が増えるうえに、鉄や亜鉛などミネラル類の吸収率もアップします。
Q7 水分補給は水より緑茶を積極的に
A7 ×
人間の身体を構成する成分の約6割は水分ですが、加齢とともに体内の水分量が減り、高齢者になると5割近くまで減少することが明らかになっています。
私たちの身体は、毎日2リットル以上の水分が失われています。
昨今の暑い季節は、熱中症が起こりやすくなっているので、水分は意識してしっかり補給したいものです。
食事から摂る水分と合わせて、1日1~1.5リットルの水分を摂るようにしましょう。
緑茶に含まれる葉酸はDNA合成の促進や、赤血球生成のサポートなど重要な役割を果たしていますが、体にいいからと1日に何杯も飲んでいると、緑茶に含まれるカフェインの利尿作用で、かえって排出がすすんでしまいます。
緑茶は食後の1杯程度にして、水分補給のメインはミネラルウォーターやカフェインを含まない麦茶やほうじ茶で摂るようにしましょう。
60歳以上の朝食にぴったりの、主食、主菜、副菜を組み合わせて、エネルギーをしっかりつくれる黄金メニューをご紹介します。
●もち麦ごはん
もち麦はミネラル、ビタミン類を多く含み、白米に混ぜて炊くことで手軽に食物繊維を補給できます。
●海苔
おなかに溜まらず、成分の半分近くがたんぱく質、4割近くを食物繊維が占める栄養価の高さが魅力です。他にもビタミンCやβカロテン、鉄分などが含まれています。
●ほうれん草のおひたし
鉄分が多く、その吸収を助けるビタミンCも豊富です。さらにビタミンB群、葉酸、食物繊維を含み、栄養価が高い野菜です。
●ヨーグルト+キウイ
たんぱく質、脂質、カルシウムを豊富に含み、筋肉や骨の強化をサポートします。ビタミンCや食物繊維が豊富なキウイを加えて、腸内環境を整えながら栄養素をプラスしましょう。
●緑茶
カテキン、ビタミンC、葉酸などを豊富に含み、抗酸化作用が期待できます。血圧、血糖値の上昇も抑制してくれます。
●焼き鮭
たんぱく質が多く含まれ、一切れ(80g)で約18gを摂れる黄金食材です。強力な抗酸化作用があり、疲労回復に役立つアスタキサンチン、DHA、EPAなどを含んでいます。
●豆腐とわかめの味噌汁
豆腐は良質のたんぱく質が豊富で、女性ホルモン様の作用を持つイソフラボンも含んでいます。わかめは、マグネシウムやカルシウムなどのミネラル類の摂取を助けてくれます。
人間が毎日いきいきと活動的に暮らすために欠くことができないのが、「エネルギー」です。
そのエネルギーは、筋肉などの人間の体を構成する細胞の組織から生み出され、毎日の食事から作られています。
ですから、年を重ねても毎日いきいきと活動的に暮らすためには、いかにバランスのよい食事を摂るかにかかっているのです。
食生活が偏り、必要な栄養素が不足すると、体の機能が正常に働かず、疲れやすくなったり、眠りが浅く熟睡ができなくなったりと、悪い症状が表に出てくるようになります。
60代を越えても活発に人生を楽しむ方がいる一方で、老けこんで活力を失ってしまうのは、食生活が影響しているといっても過言ではありません。
身体の変化に合わせて、自分の食生活を振り返り、食材の選び方や食べる量、食べ方を工夫することが大切です。
まとめ
正しい知識を身につけて食習慣を少しずつ改善していくことで、疲れにくい元気な身体を手に入れることが可能になってきます。
中高年が積極的に摂りたい食材のキャッチフレーズは「かきくけこ、やまにさち」です。
今までは、和食の基本の合言葉として「ま(豆類)・ご(ごまなどの種実類)・わ(わかめなどの海藻類)・や(野菜類)・さ(魚類)・し(しいたけなどのキノコ類)・い(いも類)」の「まごはやさしい」が推奨されてきましたが、人生100年時代の健康を守るには、これでは栄養バランスが不十分になってきました。
これからはか=海藻類、き=キノコ類、く=果物類、け=鶏卵、こ=穀類・いも類、や=野菜、ま=豆類・種実類、に=肉類、さ=魚類、ち=チーズ(乳製品)の「かきくけこ、やまにさち」と覚えてください。
年だからと諦めることなく、疲れにくくなる食べ方の新常識で、生き生きと活力に満ちた毎日を送りましょう。