「コミュニケーション上手」と聞くと、面白い話ができたり、話すネタが豊富な人、といったイメージを浮かべる方が多いと思いますが、こういった人たちは、話し方だけが上手なのではなく、実は聴き方もうまいのです。
では、どうしたら相手に好感や安心感といった状態を感じてもらい、信頼関係を築く聴き方ができるのでしょうか。
その方法のひとつとして、プロが活用するバックトラッキングと呼ばれるNLP(神経言語プログラミング)のひとつである実践的なコミュニケーションスキルがあります。
今回はあなたの聴き方スキルを高め、周囲からの信頼や好感度を一気に高上げる、このバックトラッキングについて2回にわたってご紹介していきたいと思います。
コミュニケーション能力にたけて人に影響を与え、変化をつくる天才と呼ばれたカウンセラーやセラピストたちのコミュニケーションパターンを、誰でも活用できるようにしたNLPの技法一つがバックトラッキングです。
バックトラッキングは、簡潔に言うと相手が発した言葉を繰り返して、会話をすすめていく聴き方の技法です。
日本のカウンセリングの世界では「オウム返し」と言われ、具体的な例を挙げると次のようになります。
相手 :「この前ね、久しぶりに映画館で映画を観たの」
あなた:「へえ、映画館で、映画を観たのね」
と、相手が言った言葉を引き取り、同じ言葉を返してコミュニケーションを進めます。
大切なポイントとしては、相手が使った言葉をそのまま使うようにすることです。
バックトラッキングの目的は、相手の話をちゃんと聞いていることを示すと同時に、相手が発した言葉を相手に再認識してもらうことにあります。
そのため、できるだけ相手の使った表現をそのまま返す必要がありますが、一語一句同じでなくてはならないというわけではありません。
バックトラッキングは、心理学の用語で「ラポール」と呼ばれる相手との信頼関係を築くために有効な話の聴き方としても挙げられています。
バックトラッキングを行うと、相手は自分の話がよく理解され、受け入れられているという感覚を持ちます。
人の話を聞くことが仕事である方をはじめ、他者とのコミュニケーションを円滑にするためのよい聞き手となるスキルとしてもぜひ身につけたいものです。
バックトラッキングの効果として、主に次の3つが挙げられます。
1.否定や拒否といった違和感や抵抗感を打ち消す
相手に対して違和感や抵抗感があると、なかなか自分の本音は話したくないものです。 あなたへの否定的な感情を打ち消して、ギクシャクした状況を引き起こさないだけでも相手とのコミュニケーションはスムーズに進み、あなたの印象は変わります。
例えば、次の3つの会話から違和感や抵抗感が生まれる例をご紹介します。
相手 :「仕事では挑戦することを大事にしたいな」
あなた:「仕事でチャレンジすることは大事だよね」
相手 :「仕事と人生には、向上心が大事だよね」
あなた:「成長する気持ち、大事だね」
相手 :「人生で大切なものは、やっぱり健康だね」
あなた:「そうだよね、やっぱり体調は大切だね」
言っている意味は同じでも、使っている言葉が違うのがわかりますね。
あなたが話し上手だとしても、相手の言葉を使わずに会話を進めていると、「自分の言いたいこととちょっと違うな」「この人私の話をちゃんと聴いてくれてるのかな」「なんか微妙にこの人と合わないかも」といった気分や気持ちを相手が抱きかねません。
話し上手なのに売れない営業マンというのは、相手の言葉を無視して、自分の言葉を優先して話をすすめます。
そうすると先ほどご紹介した例のように「挑戦」を「チャレンジ」と言い換えたり、「健康」を「体調」と言い換えたりして、「なんだかこの人とは合わない」という否定や拒否といった違和感や抵抗感を生み出してしまうのです。
つまり、信用や信頼に欠けることになり、いくらあなたの提案が良くても、相手は今一歩採用に踏みきれなくなってしまいます。
ぜひ、余計な言葉であなたの評価を下げないでください。
バックトラッキングは、相手が言った言葉をそのまま返すので、相手は否定のしようがありません。
次の例をみてください。
相手 :「この前ね、久しぶりに映画館で映画を観たの」
あなた:「へえ、映画館で、映画を観たのね」
相手 :「いや、観てないよ」
という会話にはなりませんよね。
これは極端な会話の例に感じるかもしれませんが、相手の使った言葉をそのまま使うバックトラッキングは、会話中の相手のなかで、拒否や否定できる状態をなくします。
つまり、「ノー」といったネガティブな状態を打ち消す効果があります。
2.相手に「大切にされている」といった肯定的な感覚を与える
バックトラッキングを意識して相手との会話を進めていくと、自分のことを聴いてもらっている、受け入れてもらっているという安心感や信頼感を相手に与えることができます。
相手が使った言葉を活用すると、相手も無意識に「そうそう」「そうなんです」「そのとおりです」というように、「イエス」の意味を含む肯定的な感情が繰り返されます。
少し話がそれますが、「イエスセット」と呼ばれる説得の法則があるのをご存じでしょうか。
これはセールスや催眠的アプローチで活用されており、先にお伝えしたように「イエス」と答えられる質問を繰り返していくことで、「ノー」ができない状態に追い込んで、否定できなくなることを言います。
逆に答えが「イエス」となる会話を続けていると、相手がオープンになり、心を開いてくるのです。
ここで、バックトラッキングを使わずに会話をすすめる場合と、バックトラッキングを活用して会話をすすめる場合を比較してみましょう。
ちょっとした違いですが、活用された時の相手の気持ちや感覚を想像していただくと、その違いに気づけるのではないでしょうか。
<通常の会話の場合>
相手 :「上司のことでちょっと悩みがあって・・・、ちょっと相談いいかな?」
あなた:「なに? どうしたの?」
<バックトラッキングした場合>
※( )内は、相手が無意識につぶやく心の声
相手 :「上司のことでちょっと悩みがあって・・・、ちょっと相談いいかな?」
あなた:「上司のことで悩みがあるんだね(そう)。相談(そうそう)、いいよ。何、どうしたの?」
となります。
このバックトラッキングは、相手の「そう」「そうそう」といった無意識の声で「イエス」をたくさん生み出す効果があります。
相手が何かを話すたびにこちらが相手の言葉を繰り返すので、抵抗感や違和感を生み出すことなく、「話をしっかりと聴いてもらっている」という安心感や「自分を受け入れてくれている」という肯定感、そして「大切にされている」といった重要感といったものを相手の無意識の感情の中に蓄積していくことができるのです。
相手 :「週末に彼女と初めてデートしたんだよ、楽しかったなぁ」
あなた:「良かったな!」
ではなく、
相手 :「週末に彼女と初めてデートしたんだよ、楽しかったなぁ」
あなた:「週末に(そうそう)、初めてのデートか(そうそう)、それはさぞかし楽しかったろうな(そうなんだよ)。良かったな!(うんうん)」
というふうに相手の無意識は反応しています。
バックトラッキングは、「理解してくれている」「わかってくれている」「大切にされている」ということを自然に感じてもらう技法であり、逆にお伝えすると、聴くことを通して、
「あなたのことを知ろうとしています」
「あなたのことを理解しようとしています」
「あなたのことを知りたいと私は思っています」
といったメッセージを相手の無意識に伝えるコミュニケーションなのです。
3.相手の悩み事や問題の整理を促し、あなたを貴重な存在に感じてくれる
誰もがうなずけることとして、自分一人では解決できない悩みや問題も人に話を聴いてもらっているだけで、頭の中で問題が整理され、解決できたということがありませんか?
相談事などの会話では、具体的な解決策を生み出す前に、まず現状の把握が必要といわれています。
そんな時にこのバックトラッキングは有効で、相手が自分の考えや思い込み、また絡みあった状況を整理することが可能になります。
バックトラッキングを活用すると、先にお伝えした否定や拒否といった違和感をなくし、安心や肯定感を感じながら、問題を整理していくことができます。
その結果、あなたに聴いてもらえばこんがらがった心や頭の中を整理できるし、自分の話を正確に聴いてくれる人だということで、あなたの評価を勝手に上げてくれます。
評価の高いカウンセラーやコーチ、またコンサルタントをはじめとする一流の人たちは、以上のような効果がわかたうえで、このバックトラッキングを活用しています。
バックトラッキングの種類には、
1.事実をバックトラッキングする
2.気持ちや感情を繰り返す
3.要約する
の3つがあります。
1.事実をバックトラッキングする
事実というのは、
相手 :「この前ね、久しぶりに映画館で映画を観たの」
あなた:「へえ、映画館で、映画を観たのね」
がその例で、相手の言葉を用いて「映画館で映画を観た」という事実をバックトラッキングしていきます。
相手 :「この前、高校の同窓会に行ってきたんだよ」
あなた:「高校の同窓会に行ったんだ」
相手 :「週末に子どもと釣りにいったんですよ」
あなた:「週末にお子さんと釣りに行ったんですね」
といった形で活用します。
※相手が「子ども」と言っているのに「お子さん」と言うのは違うのではないか、と思われたかもしれませんが、相手のすべての言葉をそのまま繰り返せばいいというものではありません。
例えば相手が上司で、子どもが男の子であるなら、「息子さんと」「ご子息と」「ぼっちゃんと」、といろんな言い回しがあります。
会話している相手との関係性で、その場面にふさわしい適切な言葉を使うようにしましょう。
2.気持ちや感情を繰り返す
相手があなたに対して、「この人はわかってくれている」「自分のことを理解してくれている」という相手の無意識に肯定的な評価を与えるキーワードが「感情」です。
その評価により、しみじみとしたあなたへの信頼感を生み出すことができます。
相手の「うれしい」「たのしい」「かなしい」「つらい」といった感情をバックトラッキングします。
事例としては、
子ども:「ママ!学校でうれしいことがあったの。テストで100点とった!」
母 :「それはうれしかったね、ママもうれしいよ!」
子ども:「ママ、テストで20点だった、もうイヤ」
母 :「それはイヤだったね」
といった使い方です。
言った言葉はもちろんですが、相手が言えていない、表現できていない感情を汲みとって伝えることもできます。
先にお伝えしたようにトラックとは情報の塊ですから、言語で表現できていない感情や気持ちといった情報も、トラックとして繰り返すことができます。
例えば、
子ども:「ママ、テストで20点だった、もうイヤ」
母 :「それはイヤだったね。悔しかったね」
などがそうです。
相手が言えていない感情を扱うときに注意したいのが、相手が感じている感情とあなたのの言葉がズレていると、相手が違和感や抵抗感を持ち始めることです。
カウンセリングなどの傾聴トレーニングを積んでいくと、的確に相手の気持ちや感情を汲みとることができますが、初めのうちは相手が言った感情の言葉を活用することにとどめるのが賢明でしょう。
ここで、感情や気持ちを表現できるように、感情のリストを挙げておくので、リストの言葉を参考にしながら、相手とのラポール形成に役立ててください。
【ポジティブな感情や気分を表す言葉の例】
嬉しかったね。楽しかったね。悦ばしいね。幸せだね。快適だね。可笑しいね。楽しい、愉しいね。痛快だね。気持ちいいね。爽快だね。軽やかだね。明るいね。など
※「スゴイね」「さすがだね」「偉い!」といった言葉は、相手の気分や気持ちというよりも、あなたが相手を判断している「褒め言葉」になります。
会話の中で使ってはいけない言葉ではありませんが、バックトラッキングという観点では、これらの言葉は使いません。
【ネガティブな感情や気分を表す言葉の例】
辛かったね。悲しかったね。寂しかったね。切なかったね。苦しかったね。怖かったね。頭にくるね。腹が立つね。許せないね。迷っちゃうね。不安だね。心配だね。など
※ネガティブな感情や気持ちの言葉をバックトラッキングすると、相手がより辛くなったり、悲しくなったりするのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、「共感する」という観点から活用すれば心配はいりません。
その人に寄り添うことが目的ですから、相手の状態を尊重しながら活用してください。
3.要約する
要約とは、相手の話が長い場合、相手のキーワードとなる単語を用いながらまとめることです。
例えば、
相手 :「あの人が◯◯してくれなくて、ひどい目にあったんです。それだけじゃないんです。他にもいろいろとあって(話は続く)…もう限界で、あの人と一緒にいたくないんです」
あなた:「その人はいろいろなことで、あなたにイヤな思いをさせたんですね(そうそう)」
といった具合です。
3つのバックトラッキング「事実」「感情、気持ち」「要約」のどれが一番大切かは、会話の場面によって異なりますが、どの種類でも外せないのが、相手の使った言葉であり単語です。
繰り返しになりますが、相手の言葉や単語をしっかり聴き取るようにしてください。
実際に活用していると、相手のセリフや自分のセリフが少し長く感じる方もいます。
そういった場合は、相手をよく観察しながらセリフの最後の言葉をバックトラッキングすれば大丈夫ですよ。
まとめ
相手の悩み事や抱えている問題を聴いて、バックトラッキングで会話することで、モヤモヤした頭の中の整理を促すことができます。
そんなあなたは、きっと相手にとって貴重な存在になっていくことでしょう。
次回は、バックトラッキングの活用場面などについてご紹介していきます。
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