しかし、何がストレスの原因になっているのかを確定できずに、漠然とした不安を感じたり、やる気が起きない場合、どうすればいいのでしょうか?
今回は、1年間に約3000人を診察している精神科医の尾林誉史氏著書『元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術』(あさ出版)から、見方を変えればすんなり解決できたり、心が軽くなる6つの悩みと対処法を紹介します。
腹の立つ対象そのものにイライラするのではなく、イライラする状況に追い込まれた自分の精神状態にイラついている場合があります。
普段は穏やかでおおらかな人が、心に余裕がなくなったときに脈絡なくイライラする理由としてこの可能性が高く、こういったイライラは、自分から自分へ「危険サイン」を発しているともいえます。
そんな時は、
・自分がどんな場面でイライラするのか
・その傾向に気づいたのはいつ頃からか
・身の回りに変化はないか
という3点を整理すると、イライラに隠れた原因を見つけやすいと思います。
2.他人の人生がうらやましい
SNSなどで知人の楽しそうな様子を見たり、成功している人の話を聞くたびにうらやましく思い、「なぜ自分はこんな人生なのか」と落ち込んでしまう…ということはありませんか。
確かにSNSには楽しそう、幸せそう、といった投稿が溢れていますが、それは他人の人生のほんの一部分が集まっているだけです。
SNSで垣間見えるハッピーエピソードは、いいところだけを切り取ったものにすぎません。
他人の特別な日と自分の日常を比べるなんてナンセンスなのです。
たとえば子どもがいる生活を見てうらやましいと感じたら、見方を変えて「私は教育費の心配をしないでいいし、お金と時間を自分のために使える」と、自分の幸せな面を考えてみるといいでしょう。
3.頑張れない自分に罪悪感がある
仕事や家事などを中途半端にやり残すことに罪悪を感じる場合は、すでに頑張りすぎていて、オーバーフローしていることがあります。
こんな場合は、もっと頑張らなくては、ではなく、いままでの頑張りを振り返って自分をねぎらい、いったん気持ちをリセットしましょう。
その後、自分にできる範囲を見直し、ゴールのハードルを下げれば、罪悪感を持たなくなります。
また周囲に圧倒されたり、萎縮して力を発揮できていないと感じる場合は、「ちゃんと結果を出さなければ」という強迫観念が強すぎる可能性があります。
前に進むには、結果よりも頑張ること自体に価値があると考え方を変えるようにしましょう。
4.うまく休めない
ワーカホリックな人に多い症状として、休み方がわからない、うまく休むことができていないことがあります。
睡眠はとるものの、やることが残っていると気になって起きてしまう、座ってくつろいでいても落ち着かず、動いている方が安心する、というような場合です。
仕事に苦痛を感じないのは結構なことですが、心の底には休みたいという気持ちがあるので、無理やり休もうとするのです。
休みをのんびりと満喫するのはなかなか難しいでしょうが、普段よりも若干ゆっくり、ちょっとのんびりと仕事や家事を行ってみてください。
せかせかと追われるように行うのではなく、いつもと違うアプローチをしてみると行動にメリハリがつき、「自分の休み方」がわかってくるようになります。
5.趣味がなくて毎日ヒマ
休日は疲れてずっと1日寝てしまっていることを、悪いことのように考える人がいますが、アクティブで華やかな趣味があれば人生は充実するとは限りません。
特に趣味といえるものもなく、自分はこのままで大丈夫かと不安になるという人もいますが、インドアでまったり過ごすのが快適だと感じるなら、それでいいのです。
人生の充実度は趣味の有無では決められないし、趣味がない=つまらない人間と思う必要はないのです。
自分のための時間をうまく使えないのであれば、孫の子守をする、ボランティアで公園清掃をする、子どもたちに図書館で絵本を読み聞かせる、など、誰かのために時間を使うのはどうでしょうか。
6.世間話のつもりが悪口と言われる
何気ない世間話が、人の悪口になってしまっていることは意外と多いものです。
主語を自分ではなく他人にして、「誰々が~した」という話ばかりをしていると、言葉の裏に『けれど、私は違う』という、他人に対してマウントをとりたい無意識の自分の欲求を、相手に感じさせてしまう可能性があるのです。
なので、世間話をしているつもりが「それって悪口。何が言いたいの?」と言われてしまい、落ち込んでしまうことになるのです。
そんな時は、自分を主語にして話を進めるようにして「私が~した、それで~と思った」と、気持ちよく会話できるよう心がけましょう。
「心の水位」が下がっている状況で、メンタルに不調を感じたときに、ご紹介した方法で気持ちが上がるのなら問題はありませんが、自分ひとりではどうすることもできず、症状が長引いたり、重くなってきたと感じたら、迷わず病院の専門医を受診しましょう。
とはいえ、実際に病院に行くのはハードルが高いという方もいるでしょう。
精神科医のような専門医でなくても、普段からお世話になっているかかりつけ医がいるなら、悩みを具体的に相談するとやりやすいのではないでしょうか。
かかりつけ医の先生が話をきいて、専門的な診断が必要なのかどうかを判断したうえで、専門医を紹介してくれたり、薬を処方してくれるなど、適切な対応をしてもらえると思います。
手遅れになる前にぜひ相談するようにしてください。
心が弱ったときに受診するところとして、「心療内科」「精神科」「メンタルクリニック」など、さまざまな病院が存在しますが、まず、どこに行けばいいのでしょうか。
心療内科は、体の不調を中心に観察しながら心の病気にたどり着くイメージです。
精神科は、心の病気を中心に診ながら、同時に体の不調にも対応しています。
メンタルクリニックは患者が訪れやすいように看板を掲げているものです。
いずれも精神科の医者が診察するので、特にこの先生に診てもらいたいというのでなければ、まずはネットや口コミでよい先生の情報を集めて、気軽に訪れる感じでいいと思います。
心の問題には、自分のいまのつらさをすべて預けられ、しっかりと寄り添ってくれる医者を見つけることが大切です。
評判が良いから自分に合うとは限りません。
ぴったりの洋服を探すために何回も試着するように、自分に合う医者が見つかるまでこだわっていいのです。
自分と相性がいい医者は、次の3つのポイントで判断できます。
1.素直に心の内を話したくなる雰囲気がある。
2.自分のことを知ろうとしてくれる。
3.相づちばかりでなく、医療者として頼れそう。
症状だけでなく、家族関係を含めて、いまどういう環境で、どういう状態にあるのかなどの質問がされます。
あなたは個人情報のすべてをさらけ出すのですから、医者が症状に関連するエピソードだけで診察することはありえません。
信頼がおけずに、隠し事をしないといけないような関係では、正しい診断はされませんし、適切な治療も受けられないのです。
診療に時間を取らず、初診で15分程度だったり、再診時も数分で、会話の内容は「調子はどうですか?」「変わらないですか、じゃあ同じお薬を出しますね」というような診療では治療効果が上がるはずがありません。
相性の良し悪しだけでなく、自覚や責任感の有無も医者として信頼に値するかの大きな要因になります。
自分に合う医者が見つかれば、あとは安心してよいでしょう。
薬や治療法について詳しく質問したら医者に嫌がられるのではないかなどとは考えずに、気づいたことや疑問があればどんどん聞きましょう。
また、自分の症状については伝え漏れがないように、事前にメモを取っておくとよいでしょう。
どれくらいで回復できるのかを知りたい方が多いと思いますが、いつ治るのかという質問にはなかなか答えにくいものです。
なので、「この薬はどのくらいまでのむのですか?」という聞き方をすれば、医者も答えやすいと思います。
まとめ
病気を見つけるための健康診断や定期検診があるように、心の状態をみるメンタル検診があってもいいはずです。
本当につらくなってから、自分に合う医者を探すのは難しいので、なんとなく調子が悪いな、という程度のときに、気軽に相談できる自分に合った医者を見つけておくことが大切です。
年に1~2回、定期的に心の状態をみてもらうのもよいと思います。
5人中1人くらいは、薬も何も必要ないただの考えすぎと診断されるそうです。
それでもちょっと調子が悪い状態で受診できる環境があれば、重症化も防げると思います。
専門家から「問題なし」のお墨付きをもらうために受診することも、心の水位を保ち、楽しく生きていくためには大切なのではないでしょうか。
『元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術』(あさ出版)