介護の時間をとられるだけではなく、子どもだからと介護費用まで負担することになるのはやりきれないですよね。
親の介護は、基本的には親のお金で行うようにしなければなりません。
しかし、親にどれぐらいの貯金や資産があるのかを把握できている子どもはあまり多くないのではないでしょうか。
今回は、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子著書『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)から、親の介護費用は親のお金でやりくりするためのヒントをご紹介します。
人生は100年時代といわれはじめています。
親の介護期間が長くなれば、そのぶん介護費用の負担も増加するのは当然のこと。
子どもが親の介護で金銭的に苦しまないためにも、原則として“親の介護は親のお金を使う”と決めておかなければなりません。
親の介護費用を子どもが被るようなことになれば、介護破綻につながりかねないのです。
それを防ぐためにも早めに準備することが大切になってきます。
2021年度の生命保険に関する全国実態調査(生命保険文化センター)によると、在宅介護にかかる自己負担額は、月平均で48,000円です。
これが施設介護になると、月平均122,000円に跳ね上がります。
また、この調査から算出された介護期間の平均は5年1カ月です。
さらに、全体の17.6%の人が「10年以上」介護をしているという結果がでていることから、介護期間の長期化のリスクにも備えておかなければならないのです。
親の介護費用を過度に負担したことで、子どもの教育費などに影響を及ぼし、夫婦関係がギクシャクしてしまうケースも少なくないとのこと。
そのようなことがないように、子どもが親のお金で介護費を確保するための5つのステップをご紹介します。
親の介護のための費用は、「いくらかかるか」ではなく、「いくらかけることができるか」が大切です。
そのためには、親の経済状態を事前に知っておくことがとても重要となってきます。
しかし、親がどれだけお金を持っているかを、そもそもほとんどの子どもは知らないのだそう。
親と別居している子どもの場合は、親が住民税課税世帯か非課税世帯なのかさえ、把握していないケースが多いのだとか。
親の年金額、預貯金、株、不動産、どのような保険に加入しているか、さらに借金の有無などを知っておくことで、どのような介護ができるかが見えてきます。
仮に非課税世帯であれば、医療費や介護費などの負担が考慮され軽減されるので、親が元気なうちに財産の状況を確認しておきたいところです。
ただ、普段からコミュニケーションが取れている親子なら聞きやすいが、そうでない親子関係の場合、突然子どもにお金のことを聞かれたら、怒りだしたり、戸惑ったりする親もいるはずです。
そんな場合は、「私、〇〇という保険に入ったんだけど、お父さん(お母さん)はどんな保険に入っているの?」と、保険の話をきっかけにするのが有効です。
自分の情報を開示しながら話のきっかけとすることで、会話がスムーズになります。
話の延長で、徐々に年金や預貯金の話に広げていくことが大切です。
また、親の確定申告を子どもが代わってやることで、通帳や保険内容などをチェックすることもできます。
もちろん、親に将来の介護のことが心配だからと伝えて、ダイレクトに聞いてみるのもひとつの方法です。
月々の年金額も含めた親の経済状態が把握できたら、月にどれだけ介護に対してお金を使えるかも自然と見えてきます。
2.代理人カードを作る
要介護状態になれば、親はみずから気軽に銀行には行けなくなるでしょう。
買い物や公共料金の支払いなど、日々の細かい支払いを子どもが肩代わりしているうちに、大きな負担になってしまうこともあります。
そういったことを防ぐために、年金が振り込まれる親の口座のキャッシュカードをもう1枚作っておくと便利です。
これは本人以外の親族でもお金を引き出せる『代理人カード』と呼ばれるもので、多くの金融機関が対応しています。
ただし、このカードは口座名義人本人が申請して作ることができるものなので、親と相談したうえで、元気なうちに金融機関に同行して作っておくとよいでしょう。
親のために使うお金は、親の口座から引き出したもので払うと決めておきましょう。
3.「預かり金」の活用を検討する
代理人カード作成のほかに、親からまとまったお金を預けてもらう方法もあります。
たとえば、親の定期預金500万円を解約して、将来介護費用として使用するための“預かり金”として、新たに子ども名義の口座を作ります。
その際、親子の間で“覚書”を交わします。
預かり金であれば、贈与税はかからないので、介護が始まった時点で、その口座から費用を出金するようにします。
もしも親が亡くなった時点で残金があれば、そのお金は相続財産となります。
相続や税金のトラブルを防ぐためにも、介護にかかった費用の明細と領収書は必ず残すようにしましょう。
4.任意後見人契約を検討する
本人に代わって財産管理や介護契約などを行うことができる「成年後見制度」というものがあります。
この制度は、裁判所が後見人を選任する『法定後見』と、本人(親)が成年後見人を指名して契約する『任意後見』に分類されます。
後者の『任意後見』は本人の意思によって決めることができるので、親が子どもを後見人として指名することができます。
親が元気なうちに、任意後見契約を結んでおけば、将来的に認知症になってからの財産管理や契約などをスムーズに行うことができます。
一方、「法定後見」の場合は、親の判断能力が低下したときに、成年後見人が必要と感じた親族らが申し立てを行って、裁判所が後見人を選任します。
必ずしも配偶者や子どもが後見人になれるわけではなく、面識のない弁護士や司法書士といった第三者が親の財産管理を行うことになるので、親の口座から介護費用を引き出したい場合でも、第三者の後見人に都度都度お願いして判断を仰がないといけなくなり段取りの悪さが生じます。
5.地域包括支援センターに事前に話を聞く
はじめての介護となると、不安や疑問ばかりでどうしてよいか、何から手を付けたらよいのかわからないことだらけです。
そんな時に強い味方となってくれるのが、各自治体には高齢者とその家族が気軽に無料で相談できる『地域包括支援センター』です。
事前に親の住む地域にあるセンターに連絡して、親が要介護になったら“どんな介護サービスを利用できるか”“費用の軽減制度は?”など、介護に関するさまざまな情報をリサーチしておくことができます。
いざ介護となった時にも慌てずに準備することができますよ。
まとめ
死ぬまで介護なしで健康に生き抜く方もおられれば、十数年以上の長期にわたって介護される方もいます。
日本人の平均寿命は、厚生労働省の令和元年の概況では、男性81.41歳、女性87.45歳でまだだのび続けています。
しかし介護など他人に頼らずに自立して健康に生活できる健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳となり、この2つを比較してみると、男性は9.27年、女性は12.66年も差があることになります。
「平均寿命」-「健康寿命」を延命期間と呼び、日常生活に制限のある生活が想定される期間になります。
男性は約9年、女性は約12年、健康な時に必要な金額よりも医療費や介護費用が上乗せされ、何らかの介護サービスを受けなければならなくなるのです。
このように長期化する介護期間を乗り切るためにも、親の介護は親のお金で賄うことができるように、元気なうちからプランを練っておく必要があるのだと思います。
『親の介護で自滅しない選択』 (日経ビジネス人文庫)