営業コンサルタントの大塚寿氏によると、出世競争から早い時期に降りた人は定年後の生活が充実していることが多いのに比べ、出世レースに最後まで残っていた人は、会社員時代の意識が定年後も捨て切れず、人間関係でつまづきやすいのだそう。
今回は、大塚寿氏著書 『50歳からは、「これ」しかやらない 1万人に聞いてわかった「会社人生」の上手な終わらせ方』より より、人生は勝ち負けの二元論でははかれない事例をご紹介します。
会社における出世レースは、おおむねすでに40代で決着がついてしまっているものです。
もし、自分が出世コースに乗れていない場合、ただ中の40代では悩みごとになるかもしれませんが、50代になったら、むしろ乗れていないことが幸いだと思うべきです。
というのも、50代あるいはそれ以前の早い段階で出世レースから降りた人のほうが、最後まで出世レースに参加していた人よりも明らかに楽しい定年後を送る可能性が高いからです。
仕事人間として常に勝ち負けにこだわり、ライバルと競いあい、数字に一喜一憂する生活は、おそらく身体にさまざまなストレスを与えるとことでしょう。
それが突発性難聴、パニック障害といった病気として、原因不明の体調不良として現れてくるのです。
身体や心が病む前に、自分自身がそうした生活の問題に気づくことができるのはむしろまれかもしれません。
やはり病気によって身体が悲鳴を上げてしまった後で、はっと気づくケースが圧倒的に多いのです。
会社人間から抜け出して自分の人生を取り戻すためには、「自分は一体何に不安を感じてここまで必死に出世しようと頑張るのか」を知ることがとても大切です。
その結果、「別に出世なんかしなくてもなんとかなる」「奥さんも働いていれば仮に自分が一時期働けなくなっても収入はある」「必要以上に不安がることはない」と開き直ることができれば、不要なストレスからは解放されるはずです。
ただ、ここで邪魔になるのが「勝ったか、負けたか」という二元論的思考法です。
出世レースに残ったほうが勝ち組で、そうでない人は負け組という思想に縛られているうちは、いつまでたってもストレスから解放されません。
しかし、そんな勝負は会社員生活の間だけ、定年退職するまでの話です。
物は考えようで、退職後の30年に関してはむしろ、「負けるが勝ち」だとすら言えます。
というのも、出世レースに最後まで残った人は、どうしても会社員時代の勝ち意識が捨て切れず、定年後の人間関係作りがうまくいかないケースが多く、一方、出世レースから脱落して「失敗した人」や「病気をした人」は、比較的すんなりとコミュニティに入っていけるようなのです。
その理由として考えられるのは、人間関係を縮める鉄板の話題は「失敗話」と「病気話」だからです。
「あのとき大失敗して役職外されちゃってさぁ」
「ある日突然、天井がぐるぐる回って倒れちゃって……」
などという失敗談を面白おかしく語れる人は、すぐに周りと打ち解け共感しあえることができるでしょう。
人生は、勝ち組、負け組の二元論では到底、理解できるものではないのです。
そうは言っても、人生の長い時間を仕事に費やしてきたことは間違いないはずです。
「やり切った」という思いを持って会社人生を終えられるかどうかは、その後の人生に大きな違いをもたらします。
いわば集大成としてどうするか、ということです。
役職定年や出向になったあとモチベーションが落ちてしまい、どうしても仕事をする気力が起きずにそのままダラダラと定年までの時間を過ごしてしまった、という後悔の声は、本当にいろいろなところから聞こえてきます。
やはり人は何かをやり切った充実感があればこそ、次に進めるのかもしれません。
では、何を集大成とするのか、これはもちろん人それぞれ違います。
会社から何かそういうテーマを与えられているならよいですが、多くの場合は自分自身で考え出す必要があるでしょう。
代表的なものとしては、マニュアルが存在しない、作成できないような分野での「現場の知恵の継承」です。
ここに大きなニーズがあります。
もうひとつは、第一線ではないからこそ成し遂げられる仕事で、足跡を残すということです。
具体的な例として、自動車部品会社に勤めるWさんの話をご紹介したいと思います。
Wさんの会社は長年自動車部品を作ってきたのですが、売上的にはじり貧で伸び悩む一方で、当時は電気自動車が始まろうとしていた時期で、これから市場が拡大することが予想されていました。
しかし、ガソリン自動車とEV車では、販路がまったく違います。
現役世代は現在の顧客の維持することに精いっぱいの状況だったため、Wさんは、自分がこのEV関連の取引先を開拓することを「ビジネス人生の総仕上げ」とすることに決めたのです。
そして実際に、その道筋をつけたうえで、Wさんは定年退職され、現在ではこの会社のEV事業は会社の大きな柱に育っているそうです。
このように第一線ではないからこそ、成し遂げられる仕事もあるのです。
地方市役所の住民課にて、課長として50代を迎えたKさんが注力したのは「民間への窓口業務委託」でした。
自治体が民間へ窓口業務を委託するのは、その必要性が叫ばれているとはいえ、法律で制限がされていることに加え、個人情報の取り扱いなども絡んで、実際にはそう簡単に進む話ではないというのが現実です。
だからこそ、Kさんはこれを公務員としての集大成と位置づけて尽力し、見事に成し遂げました。
Kさんは定年後、大学での就職担当者として新たなキャリアをスタートさせましたが、この時の経験を学生に話すことで学生を勇気づけているそうです。
50代の集大成がその後の人生にも役立つことがわかる好例だと思います。
会社に貢献し、かつ、自分の人生にも大いに意味を持つ「集大成」はどんなことなのかをぜひ考えてみてください。
まとめ
会社員時代には出世コースとみられる第一線から外れて見えた人が、定年後にいきいきと活躍されていることもあれば、バリバリと仕事を切り回し出世街道のトップを走っていた人が、定年後は誰からも声をかけられない寂しい老人になることもあります。
挫折や失敗をしても、出世コースから脱落しても、そこで一生負け組になるわけではないのです。
人間は、様々な困難を乗り越えた先で、自分なりの仕事の集大成を確立し、定年後はそれを糧にして人生の最後まで生き抜いていく力に変えることができるのだと思います。
『50歳からは、「これ」しかやらない 1万人に聞いてわかった「会社人生」の上手な終わらせ方』