食事の改善が求められるものの、体内で燃焼させるには糖質が必要なはずで、それでも糖尿病患者はできる限り糖質を制限したカロリーを押さえた食事が指導されます。
自ずと野菜や豆類、海草などが主品目になってきますが、どうも野菜たっぷりであればそれでよいわけではなさそうです。
今回は水野雅登氏の著書 『糖尿病の真実』(光文社新書) から糖尿病患者の食事の真実を探っていきたいと思います。
色々ある栄養のうち、最も大切なものをあえて挙げるとすればタンパク質です。
糖尿病などの慢性疾患を抱える方は、ほぼ確実にタンパク質が不足しているようなのです。
それはやはり、糖質や脂質に重きを置いた食事であり、健康のためには野菜は欠かさずに食べるべき、という考えはあるものの、ごはんやパンをしっかり食べないと力が出ないという考えが蔓延しているからではないでしょうか。
タンパク質を十分にとっているという自覚もなく、なんとなく「ちゃんととっているだろう」と言う意識だけがあって、実際はタンパク質不足に陥っている方がとても多くいるのです。
それは、もとをただせば国が定めた食事摂取基準にのっとった食事指導内容が「炭水化物6割、タンパク質2割、脂質2割の食事」という低タンパクで高糖質なものだからです。
日本人のほとんどが、積極的に肉や卵や魚を摂ろうとする意識はさほど強くなく、無自覚なタンパク質不足になっています。
実際に身体を構成している成分は、重さでいえば、7割程度が水で、2割程度がタンパク質です。
つまり、水を除くと、最も多いのがタンパク質なので、一番補給すべき栄養素だと考えなければいけないのです。
身体に摂取すべき栄養素には、優先順位があります。
それをわかりやすく図にしたのが、下図の「栄養ピラミッド」です。
このピラミッドの土台はタンパク質と脂質です。
これらが十分に足りている状態で、はじめて上に位置する鉄、さらに上部のビタミンやミネラルがしっかり吸収できるようになります。
胃も胃壁も胃の中で働く消化酵素も、すべてタンパク質を材料としているため、たとえば、極端なタンパク質不足に陥った場合は、ビタミンやミネラルを胃が受けつけることができなくなり、かえって食欲不振になったりします。
タンパク質が不足していると、胃の機能が十分に果たせなくなってしまうのです。
だから、この優先順位が大切になってくるのです。
タンパク質よりも脂質を優先する食事方法もありますが、糖尿病の場合にはほぼ間違いなくタンパク質不足です。
脂質優先の食事は、タンパク質不足が解消してから考えてもよいのです。
また、鉄はミネラルの一種なので、本来はこのピラミッドの一番上に含まれることになりますが、わざわざ別にしているのは、他のミネラルよりも優先順位が高いからなのです。
なぜ優先順位を高くしないといけないかと言えば、欧米などの諸外国では、小麦粉などへの鉄の添加が法律で義務づけられており、他にも、ベトナムでは調味料のナンプラーに、モロッコでは塩に、中国では醤油に鉄添加が行われています。
世界各国で、貧血の予防のために国策として鉄添加を行っているのです。
しかし、日本では、こうした国をあげて食品に鉄を添加する、ということは行われていません。
その結果、日本国民の多くが鉄不足に悩まされています。
しかも、それが貧血と認識されていないことが多々あります。
貧血の症状と言えば、立ち眩みや青白い顔色などを思い浮かべますが、それだけではなく、疲労感が取れない、眠れない、血圧や体温が低い、原因不明の頭痛、甘味依存、糖尿病、肥満、マタニティーブルー、発達障害、うつ・パニック、がんなど、さまざまな心身への悪影響を鉄不足がもたらします。
身体に鉄を補充しない限り、鉄不足は永遠に治りません。
多くの日本人が、自身の鉄不足に気がついていないのです。
鉄はミネラルの一種ですが、その重要度を強調するために、他のミネラルから独立させて、栄養ピラミッドではタンパク質・脂質の上位に位置づけられています。
しかし糖尿病患者のタンパク質不足を補う段階では、「ホエイプロテイン」が非常に良いようです。
プロテインと聞くと、マッチョなアスリートが摂取しているイメージが強いと思いますが、「ホエイプロテイン」は、ヨーグルトの上によく溜まっている、透明な液体「ホエイ」を粉末に加工したものです。
糖尿病で明らかにタンパク質不足な人は、食事療法の一環として考えてみてもよいのではないでしょうか。
タンパク質摂取のための肉は、牛肉、豚肉、鶏肉、どれでも好きなものを選んでください。
調理方法も、糖質やトランス脂肪酸を添加しない方法であれば、好みでかまいません。
糖質とトランス脂肪酸を添加する調理法というのは、たとえば、パン粉をたっぷりつけて、サラダ油で揚げるなどといったものです。
トランス脂肪酸は「食べるプラスチック」といわれるほど健康被害リスクが高いと言われているので、できる限り避けることをおすすめします。
肉ばかり食べていては栄養が偏るのでは、と思われる方も多く、肉は太る、肉は身体に悪い、肉ばかり食べているとがんになる、というイメージも根強くあります。
健康志向の高い人ほど、わざわざ肉を控える傾向が強くあります。
本来の「バランスのよい食事」とは、私たちの身体が求める栄養素に対しての「バランス」をとった食事であるべきです。
先にも述べた通り、身体を構成する要素の多くをタンパク質が占めているにもかかわらず、一般に広まっている「バランスのよい食事」は、私たちの身体の求める栄養を無視しています。
炭水化物を6割とりなさい、というのは、明らかにバランスを欠いています。
大切なのは、「私たちの身体の求める栄養をとる」ことなのです。
そういった意味では、卵こそは「バランスのよい」食品といえるでしょう。
実際、「完全栄養食」といわれるほど、栄養が充実していますが、この卵も「1日に何個まで」といった間違ったイメージを今も持っている方が少なくありません。
これは、卵に豊富に含まれるコレステロールは血管に悪いという間違った情報が広まっていたからです。
しかし、コレステロール摂取の上限値を算定するのに、十分な科学的根拠が得られなかったため、2013年に米国心臓病学会が「コレステロールの摂取制限を設けない」としましたし、2015年には、米農務省と保健福祉省も、コレステロールの摂取制限がガイドラインから削除されました。
日本でも厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」から、コレステロールの摂取基準が撤廃されています。
卵は、毎日、2個でも、3個でも、10個でも好きなだけ食べて大丈夫、ということです。
まずは、一番の目的である「糖尿病の予防と改善」のために、「脂質」を考えることは置いておいて「お腹が空かない程度の脂質をとる」くらいのイメージを持っていれば十分です。
カロリー指導を受けた人は「カロリーの高い脂質の摂取は避けるべき」と思い込む方が多いと思いますが、脂質のみの摂取で血糖値は上がらないので、脂質の摂取をわざわざ避ける必要もありません。
血糖値を直接的に上げるのは糖質だけですから。
ただし、糖質と脂質を合わせてとると、糖質の影響で血糖値が上がり、インスリンが分泌されて、糖質と一緒に脂質も脂肪細胞に取り込まれることになり、太りやすくなります。
脂質だけならこのスイッチは入らないし、タンパク質と合わせて摂取しても、少量のインスリンしか分泌されないため、過剰に肥満になる心配はありません。
糖質オフをしながら脂質まで制限すると、エネルギー不足に陥る心配があるので注意が必要です。
まとめ
ダイエットと同じで「糖質をやめなければいけない」という「我慢」と「義務感」が反動を生んでしまうからです。
これを避けるために、まずは「タンパク質をたくさん食べる」意識を先に持っていくと良いようです。
具体的にいうと、肉や卵、魚でお腹をいっぱいにする、ということです。
筆者の家族は、前菜にタンパク質(夏は冷やっこ、冬は湯豆腐)を必ず出し、主食もタンパク質をメインにしました。
ごはんは白米ではなく、コンニャク米と一緒に炊くスタイルで糖質をとる量を減らしました。
また、鉄はエネルギー生産をサポートする重要な栄養素なので、鉄の摂取も同時に進める必要があります。
鉄が不足すると身体がエネルギー不足に陥り、手っ取り早くエネルギーになる糖質を強烈に欲してしまうからです。
鉄の必要量は食事で満たすことはほぼ不可能だと言われているので、サプリメントを利用するのも一考です。
糖質依存から離脱するためには、まずは、タンパク質と鉄の不足を迅速に改善することから始まると考えて、マイペースで実行していきましょう。
『糖尿病の真実』(光文社新書)