お日様が高い日中でも眠気がひかないあなたは、もしかすると寝不足なのかもしれません。
1日が24時間なのは、すべての人間に平等に与えられたものですが、その24時間の中で何の時間が犠牲にされがちかと言えば、筆頭に来るのはやはり睡眠時間なのではないでしょうか。
やりたいことがたくさんあるから少しくらい削っても…と考えたくなりますが、実は人間の生命にとって睡眠は非常に重要なものらしいのです。
今回は、睡眠の大切さについて掘り下げていきたいと思います。
睡眠は我慢すれば削れるものですが、生命活動において睡眠が不要なら、進化の過程でなくなるか、もっと短くなったはずです。
そう、人間には、寝なければいけない理由があるのです。
では、どうして睡眠はどうして必要なのかというと、人間は眠ることによって記憶の整理のほか、脳や体の疲れをとったり、体の成長を促したち、傷ついた細胞を修復するという大切な役割があるからです。
睡眠にはサイクルがあり、大脳を休める「ノンレム睡眠」と夢を見る浅い睡眠の「レム睡眠」とが約90分周期で繰り返されます。
ノンレム睡眠の中にも非常に深い眠りと比較的浅い眠りがあり、特に、深いノンレム睡眠時に、脳の疲労が回復され、筋肉や骨を発達させたり傷の修復を促したりする成長ホルモンがさかんに分泌されています。
睡眠は、私たちの心身の健康を支える大切な仕組みとなっているのです。
生きるために欠かせない睡眠ですが、では、「良い睡眠」とはどのようなものをいうのでしょう。
睡眠時間が短くても、睡眠の質を上げればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、医学的、生物学的に見ると、睡眠には3つの条件がそろうことが必要だと言われています。
その条件とは、「量」(十分な睡眠時間)、「質」(安定した眠り)、「リズム」(規則正しい睡眠)です。
いずれか一つでも欠ければ睡眠は乱れ、健康に悪影響が出てきます。
条件1.「量」
十分な睡眠時間がとれているかどうかという睡眠の「量」は、最も大切な条件です。
全米睡眠財団において推奨する睡眠時間は、年齢ごとに異なりますが、就学・労働世代の15~65歳では8時間前後の睡眠時間が理想的とされています。
ところが、日本の30~50代男性、40~50代女性では睡眠時間が6時間未満の人が5割前後と、睡眠不足の人がとても多いのが現実です。
条件2.「質」
良い睡眠のためには、睡眠の「質」も重要です。
寝付きが悪い、夜中にたびたび目が覚める、などといった「不眠」や、寝ている間に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」、寝ているときに脚に不快感が生じる「むずむず脚症候群」などの病気が潜んでいると、十分な時間床についていても睡眠の質は低下します。
条件3.「リズム」
人間の体には、体温やホルモンの分泌、自律神経の働きを変動させて休息モードと活動モードを切り替え、体のリズムを作りあげる体内時計というシステムが備わっています。
ところがこの体内時計は放っておくと約24時間より少しだけ長いサイクルを刻むため、1日のサイクルとのずれが生じていきます。
このずれをリセットするのが、朝日です。
しかし、夜更かしをして起床時間が遅くなりリセットのタイミングがずれると、睡眠と覚醒のリズムが乱れる「概日リズム睡眠障害」を起こします。
また、最近注目を集めているのが『ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)』です。
ソーシャル・ジェットラグとは、休日の週末に平日より長く寝てしまうことで睡眠のリズムが後ろにずれ、あたかも海外旅行のときの時差ぼけのような状態になることをいいます。
就寝時間と起床時間の真ん中の時刻が平日と休日で2時間以上の差があるとソーシャル・ジェットラグを起こしやすくなります。
ソーシャル・ジェットラグによって体内時計がずれるので、週明け前半に眠気や疲労感が強くなってしまいます。
平日、休日にかかわらず、就寝時間と起床時間はできるだけリズムを乱さないような生活を心がけたいものです。
寝不足になると頭がぼーっとする、と感じたことのある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
これが慢性的になると、脳が十分にはたらくことができず、精神機能の低下を引き起こします。
集中力や判断力、記憶力の低下につながってしまうのです。
それが原因となり思わぬミスや事故を招いてしまう可能性もあります。
十分なパフォーマンスを発揮するには、しっかり眠っておくことが不可欠なのです。
悪影響2.ストレスの増大
睡眠不足はストレスを増大させる可能性もあります。
ストレスをためると心にも体にも大きな負担になってしまうため、十分な睡眠をとり、ストレスを増大させないことが大切です。
ストレスというと精神的なものと考える方が多いのですが、人間がストレスを受けると「コルチゾール」というホルモンが分泌され、免疫系、中枢神経系、代謝系などさまざまな身体の部分に影響を及ぼします。
またコルチゾールは長期にわたって分泌され過ぎると脳の一部を萎縮させることや、うつ病の方はコルチゾールの分泌量が多いことなどが分かっています。
心身のバランスを崩さないようにするためにも、しっかりと睡眠をとり、日中受けたストレスを軽減するように心がけましょう。
悪影響3.免疫力の低下
睡眠不足は免疫力を低下させるともいわれています。
免疫とは身体の外部から菌やウイルスなどの侵入があると、免疫細胞などが「自分ではないもの」と認識して攻撃し、身体を守る作用です。
睡眠中には免疫細胞が活発に活動するほか、傷付いた細胞を修復する成長ホルモンの分泌も行われます。
睡眠不足が続くと免疫細胞の活動が衰える他、自律神経のバランスを乱し、免疫機能を担う白血球のはたらきを低下させる要因にもなってしまいます。
実際、21~55歳の男女153人を対象とした調査で、睡眠時間が7時間未満の方は8時間以上の方に比べ2.94倍風邪をひきやすい傾向にあるという結果が出ています。
十分な睡眠は自分の体を守ることにもつながると考えられるのです。
悪影響4.太りやすくなる
寝不足だと、いつもよりおなかが空くような気がする、と感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、睡眠不足になると、食欲を抑えるホルモン「レプチン」の分泌が減少し、反対に食欲を高めるホルモン「グレリン」の分泌が増えることが報告されています。
たった数日の寝不足で、自分でも気付かないうちに食行動に影響を受けている可能性があるのです。
もしも最近食欲が止まらなくて困っている、という方は、ぐっすり眠ることで悩みから解放されることが期待できるかもしれませんよ。
悪影響5.生活習慣病にかかりやすくなる
慢性的に睡眠不足の状態にある方は、糖尿病や心筋梗塞、狭心症などのさまざまな生活習慣病を発症しやすいといわれています。
十分な睡眠をとれていないと、さまざまなホルモン分泌や神経の機能の調節に支障を来し、血圧や血糖値などに影響を及ぼすと考えられているのです。
◆ 仕事から帰ってから、ソファーで寝てしまう。
◆ 運転しているときに信号待ちにウトウトする。
◆ 仕事中にあくびが多い。
◆ 休日は昼近くまで寝てしまう。
◆ 朝、目覚まし時計がないと起きられない。
◆ やる気、気力が落ちている。
◆ 頭痛、吐き気が続いている。
慢性的に寝不足がある状態について、借金が積み重なっていくという例えから、スタンフォード大学において睡眠医学の研究を行っていたウィリアム・デメント先生によって提唱された「睡眠負債」という概念をご存じですか。
「睡眠負債」は、長い間睡眠不足が続くことで少しずつ借金(負債)のように積み重なってしまい、その負債が蓄積されることで健康状態が悪化する状態のことです。
簡単に言えば、寝不足が続くと、生活の質の低下、身体や心の病気が発症しやすい状況に向かってしまうのです。
負債を返済するためには、たくさんの睡眠が必要となりますが、厚生労働省が令和元年に実施した「国民健康・栄養調査」の結果によると、睡眠時間が6時間未満である日本人の割合は、男性の37.5%、女性の40.6%にみられたのだそうです。
また、「睡眠全体の質に満足できていない」人の割合は男性 21.6%、女性22.0%。
「日中、眠気を感じる」人も男性32.3%、女性36.9%と、睡眠に不満を持つ人が多い現状が明らかになっています。
60歳までの成人について、7時間以上の睡眠時間が推奨されていることを考慮すると、働く世代において、本人が自覚せずに睡眠負債になっている可能性があります。
土日は平日よりも睡眠時間が長いというものの、NHKが実施した2020年の国民生活時間調査では、日本人の平日の睡眠時間は1970年から2010年まで減少一途の傾向であることが報告されています。
まとめ
仕事と家事の両立、子育ての時間、長い通勤時間など、生活する上でやるべきことが多く、十分な時間を眠ることができなくなっているのかもしれませんね。
なかには、自覚のないまま睡眠不足の状態になってしまっている可能性もあります。
しかし、適切な睡眠時間は個人差があり、万人が「〇時間眠れば十分な睡眠をとった」という明確な基準があるわけではありません。
また、睡眠不足の解消のためには十分な睡眠時間を確保することだけでなく、睡眠の質を高めることも必要です。
ぜひ今回のこの記事でご紹介したポイントを参考に、快適な眠りを実現してください。
睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める