人生の終点「死」が近づくにつれて「生」のあり方をより深く考えるようになります。
今回は、人生100年時代を生き抜くスベを、 『60歳からの教科書――お金・家族・死のルール』(朝日新書) で書かれた藤原和博さんの著書を参考に、無能にならずに人生をまっとうするには何をすべきかをご紹介したいと思います。
「死ぬ」という意味には、「生物学的に機能を停止する」ことの他にもう一つ、「社会的に活動を終える」という意味があります。
「死」を考える上で、組織で長年働いてきた皆さんが想像しやすいのは、定年退職による後者の「死」だと思います。
そんな組織に関する法則のひとつ「ピーターの法則」と呼ばれる法則をご存じですか。
「ピーターの法則」をひとことで言うと、「あらゆる組織は無能化する」というものです。
その理由は、組織階層社会のすべてのポストは、時が経つにつれて、その責任をまっとうすることができない従業員によって占められるようになる傾向にあるからです。
どういうことかというと、ほとんどの会社組織は「階層」の構造になっています。
その構造は「はしご」に似ているので、「組織のはしご(ラダー=Ladder)」とも呼ばれています。
ほとんどの人のキャリアスタートがそうであるように、まずは固定の部署で数年間仕事を続けます。
そのあとで、他の部署への異動などを命じられて経験したのち、ある程度会社全体の仕事を覚えて実績が認められると、主任に昇進します。
主任になってからも部署の異動はありますが、さらに出世して係長になったり、転勤を経験する人もいるでしょう。
課長になって、そこで昇進が止まる人もいれば、課長から次長、次長から部長、局長となってどんどん昇格していく人もいます。
しかし、会社組織の階級は無限ではありません。
必ずどこかの時点で昇進は止まってしまうのです。
「ピーターの法則」では、このキャリア上昇が止まる点を、「その人が昇進した階層において『無能』と見なされた時点」と指摘します。
たとえば優秀な営業マンが主任に、あるいは優秀な主任が課長に昇進したとして、その中になぜか管理職として昇進した途端に、ダメになってしまう人たちがいるのです。
それまで「人柄」を武器に得意先に商品を売っていた人や、販売の第一線である「現場」にいたからこそ力を発揮できた人が、昇進を機会に仕事の環境が変わり、成果が出せなくなってしまうのです。
また管理職に求められる「マネジメント」や「リーダーシップ」などの能力が備わっていないため、昇進が仇となって、その人の「無能」をさらけ出してしまうのです。
主任や課長レベルの昇進を生き残った人々ですら、同じ運命をたどります。
なぜなら、統括課長、次長、部長、局長、平取、常務、専務、副社長と、昇進すればするほど要求される能力は高くなっていくからです。
そして、いずれは求められる能力に追いつかなくなってしまう地点がくるのです。
従ってほとんどの階層が「無能レベル」に達した管理職に埋め尽くされてしまっており、「各層のポストは、自分の限界に達してしまった人たちだらけ」という結果が生じるわけです。
これが、「組織は無能化する」という「ピーターの法則」です。
階層組織が昇進を原動力にして、従業員のやる気を引き出そうとする限り、会社や官僚組織のすべてに「ピーターの法則」は当てはまることになります。
そして本来個人が持つ能力や才能が十分に発揮されずに埋没し、組織は停滞していくのです。
社会の組織に属するサラリーマンたちも、緩やかに「社会的な死」の方向へ進んでいると言えるのではないでしょうか。
それでは、この「死」を防ぐ方法はあるのでしょうか?
実は、「ピーターの法則」を提唱した南カリフォルニア大学の教育学者、ローレンス・J・ピーター博士は、その対処法も書き遺しています。
『ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』 という本の中で、組織の中で「無能レベル」に陥らないためには、「創造的無能を演出すること」が有効であるとアドバイスしているのです。
具体的に言えば、「適度な自分についての『疑惑』を組織の中で醸成し、自分が無能レベルに達する前に昇進を避け、昇進を断って、自分を有能レベルに留める」という方法です。
自分にとって十分に力を発揮できるポジションを維持し、それ以上昇進しないよう、組織の中で定位置に留まることを勧めるわけです。
ピーター博士が示す具体策としては、「職場で共同の結婚祝いを出すのを断る」「職場公認のコーヒータイムにコーヒーを飲まない」「同僚が外食するときに自分だけは弁当を食べる」などがあります。
博士が言うには、「非社交的な奇行を組み合わせて用いることは、昇進の芽を未然に摘み取るのに、ちょうど適量の疑惑と不信を醸成するのに効果がある」のだそう。
要するに、「変わり者になれ」ということ。
サラリーマンにとって昇進は何よりの信頼とご褒美であり、それを自ら断るなんてとんでもない、と考える人もきっとおられるでしょう。
しかし、それぞれ才能や能力が違うように、その組織のどこで最大限に自分を発揮できるのかは一人ひとり違います。
昇進は確かにご褒美ですが、、それによって自分が会社にとって無能者となり停止してしまうことのほうが深刻な問題のです。
自分の組織における「死に方」を決めるということは、「組織と個人の新しい関係」を創ることでもあります。
どう死ぬか、とは、実は、どう生きるかに他ならないのです。
まとめ
組織内で必死に頑張り昇進を重ねても、そこが能力を発揮できる場でなかったら、会社にとってあなたは無能者となってしまいます。
自分の「社会的な死」を前にして、自分の意思によって、自ら「死に方」を決めるという態度は、言い換えれば組織のどこで生きるていくのかを決める大切なことなのです。
『60歳からの教科書――お金・家族・死のルール』(朝日新書)