介護の中の排せつケアにおいて、最も多い悩みは、便秘・便失禁なのだそう。
私自身も母の介護時に、排尿・排便のトラブルに何度か見舞われました。
誰にでも相談しやすい内容ではないため、排せつケアに悩まれている介護者の方も多くおられることと思います
今回は、介護の悩みの中でも深刻な「便」に関するトラブルやそのケアについて切り込みます。
本人はもとよりご家族も、排便回数や量が少ないことや不規則な便意、便意をもよおさないことなどで悩んでいる人が多いのではないでしょうか。
この悩みが非常に深刻なのは、便秘に起因する場合、便意をもよおさないまま便失禁してしまうこともあるということです。
便秘は、食生活や生活のリズムが乱れることで、どの年代の人においても起きうることです。
若い人の場合は一過性の症状であることが多く、高齢者の場合も「便秘ぐらいは」と軽く考えている方がほとんどです。
しかしそれは間違いで、高齢者の便秘は原因や症状、健康への影響が大きく違ってきます。
英国のブリストル大学で1997年に開発された世界的な「便」の基準「ブリストルスケール」では、普通便とはどのようなものか、ものさしになる図を見ることができるので、便秘の判断の参考にしてみましょう。
スケールの「4」が普通便で、日によって「3」または「5」であっても心配はありません。
食べ物や水分量、活動の影響と考えられます。
この便形状の世界的な基準になっている「ブリストルスケール」を「便秘」の定義に照らし合わせると、毎日排便がないと「便秘ぎみ」「便秘」と考えがちになりますが、それは便秘ではないのです。
高齢になると食事量や活動量、筋肉量が減ることで、排便の回数・量が減ってきます。
便秘かどうかは排便回数ではなく、出ている便の状態を見て判断するようにしましょう。
毎日出ていても、うさぎの糞のように黒っぽいコロコロ便なら便が腸内にとどまっている時間が非常に長いと考えられるので、便秘です。
毎日ではなく、たとえ週に1回でも、適度に水分を含んだ普通便が定期的に出ていたら便秘ではありません。
高齢者が便秘になるのは、さまざまな原因が考えら1つとは限りません。
便秘はデリケートな問題で、人にも相談しづらいことから、悩みが深く、さらなる活動低下や、気力低下を招くことが多いのです。
便秘が続くことによって二次的な健康被害が起こることもあり、病気や悪影響が出るまでの期間が短くなってしまうこともあります。
① 生活習慣の変化
② 食事の変化
③ 水分不足
④ 腸内環境の悪化
⑤ 食事をとる口の機能の低下(噛めない、義歯が合っていない、歯周病がある)
⑥ 心配事によって起こる不眠やストレス
⑦ 運動不足
⑧ 普段の姿勢(円背などで内臓が本来あるべき位置からずれ、腸がよく動かない)
⑨ 排便姿勢(排便に適した「考える人」の座位がとりにくい、とれない)
⑩ 排便機能の廃用(肛門括約筋や肛門挙筋など排便するときに使う筋肉などが低下している)
⑪ 薬の影響(便秘薬の使いすぎも含む)
⑫ 病気・治療の影響
⑬ 経管栄養の影響
⑭ 手術の影響
原因が①〜⑨の場合は、ご家族も生活を観察するなどで気づくことができるかもしれませんが、⑩〜⑭を判断するのは難しいと思われます。
また、①〜⑨の背景に、⑩〜⑭が隠れていることもあるかもしれません。
生活を観察していて、一過性ではない便秘に悩んでいるとわかった場合や次のような変化が本人に見られる場合は、排便周期を尋ねて、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャーなどに相談して、専門的なケアを受けてください。
健康維持のために、これはとても大切なことです。
・元気がなくなる
・笑顔がなくなる
・外出しない(自室にこもる、何度もトイレに行く、トイレにこもる)
・食欲不振、食事や水分摂取を拒む
・極端に飲食量が減る
・便秘薬を使い続けている
・下痢と便秘を交互に繰り返している
・吐き気を訴える
・お腹が膨らんできた
・腹痛を訴える
・便失禁がある
・リハビリパンツ(紙パンツ)やおむつに絶え間なく下痢が見られる
認知機能の低下などによって訴えられない場合も同様です。
さらに、例外的ではありますが血便が確認されたときは、大腸がんなど重い病気が隠れている可能性もあります。
吐き気を伴う場合も、腸閉塞の前兆のことがあるので直ちに医療機関を受診することをお勧めします。
便秘のときには早くスッキリ出したい思いから便秘薬を使うことが習慣になっている方も少なくありません。
医師の診察を受け、処方された便秘薬を規則正しく服用している場合は問題ありませんが、自己判断で量を増やしたり、市販薬を追加・常用することは腸の機能を弱らせ、一時的に便秘が解消しても下痢になったり、より頑固な便秘を引き起こすなど、状態を悪くする場合もあります。
年齢を重ねることで、高齢者は大腸のはたらきが弱っているため、その上で薬を使いすぎると腸管が炎症を起こし、腸の健康を守る機能や栄養素をとり込む機能が低下します。
腸のはたらきが弱ると、免疫力が低下して、あらゆる病気にかかりやすくなるだけでなく、腸内の炎症は大腸がんのリスクを高めてしまいます。
高齢者の排便コントロールは、なるべくひとりひとり、自然な排便周期を取り戻すことを目標に、下剤など即効的な手段だけに頼りすぎず予防的ケアを暮らしの中で続けることが大切です。
なお、病院や施設によっては、3、4日排便がなければ一律に下剤・摘便・浣腸といった即効的な排便コントロールをするところが多いので、退院や退所後に便秘が起きたら、入院・入所中にどのような下剤を使用して、排便コントロールが行われたかを確かめ、今後の排便コントロールについて在宅医や訪問看護師などに相談するようにしてください。
まとめ
高齢者の便秘は、排便の回数にこだわると見誤ってしまいます。
排便の回数ではなく便の状態で判断をすることが大切です。
便秘の原因は1つではないこともあるので、生活のなかで原因になっている可能性をよく観察して探るようにしましょう。
市販の便秘薬の乱用は、腸を弱らせて頑固な便秘や病気を招くこともあるので避けるのが賢明です。
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