60代以降のキャリアを充実したものにするためには、会社依存から脱却し、価値観や信条、理念や哲学など自分の内的要素と、今まで築き上げたキャリアを鑑みて、人生100年時代に向けた働き方を目指すことが重要です。
そのために、特に不安が大きい40〜50代のビジネスパーソンはどんなことを考え、行動すべきなのかを前川孝雄氏の著書『人を活かす経営の新常識』から考えてみましょう。
イギリスの経営学者であるL・グラットン氏らが2016年に『ライフシフト〜100年時代の人生戦略』で発表した日本の平均寿命の延びは著しく、2007年生まれの子どもの2人に1人は107歳まで生きるとしています。
超高齢社会は今よりもさらに進み、後期高齢者が前期高齢者を上回る重老齢社会に突入するのもそう遠い先の話ではありません。
日本政府は、労働力人口の減少と社会保障財源不足を補うために公的年金制度を見直し、受給開始年齢を70歳以降へ引き上げることや、働き続けると年金が減る在職老齢年金制度の適用範囲の縮小などを検討しています。
併せて企業には定年延長や再雇用などを求め、希望者は70歳まで働き続けることができる環境整備に動き始めています。
昭和では55歳での定年が一般的でしたが、令和以降は「70歳定年時代」の幕開けだと言っても過言ではないでしょう。
さらに日本政府がシニア社員の他企業への再就職や独立支援までも企業に努力義務化したことも注目すべき点です。
時代は、定年=リタイアではなく、定年退職後も働く社会に変わり始めています。
これは、ひとつの会社で勤め上げる終身雇用を受け入れてきた人にとっては、天地がひっくり返るような変化だと言えるでしょう。
この世代層の多くは、終身雇用と年功序列の会社に「就職」ではなく「就社」の意識で働き始め、会社の命じるままに過酷な残業や異動や転勤も嫌がることなく、滅私奉公で一心に働いてきました。
そうすることで順調に給料や職位も上がり、定年まで安定して働けると考えてきたからです。
しかし、平成に入り不況が長引くなか、限られた管理職ポストに就くことは難しく、折よく管理職になったとしても役職定年や定年後再雇用の時期を迎えれば一社員の立場に戻され、かつての後輩や部下の上司のもとで働く状況になります。
給与も減額され、モチベーションは下がるばかり。
それでも、定年まで我慢すれば悠々自適なセカンドライフが待つと期待していました。
ところが突如「人生100年時代」といわれだし、定年を迎えた後の10年前後の余生を年金生活で自由に暮らす人生モデルは、もはや過去のもの。
就業人生が最終コーナーに入り、もうすぐゴールテープを切るラストスパートだと思いきや、そこからのキャリアや働き方を改めて考え直す必要が出てきたということです。
これはまさに、会社一筋でキャリアを築いてきた方々にとっては天地を揺るがすような契機です。
ただでさえ、心理学者のユングが提唱した心理的な危機「ミッドライフクライシス」の起きやすい時期でもあり、人生における最大級の難関に直面しているといえます。
ミドル社員はこの難題にどう取り組むべきなのか。
まず大切なことは、会社依存から脱却し、自分の就業人生を自分でコントロールする覚悟を決め、キャリア自律をすることです。
自律とは文字通り自らを律して自己決定するキャリアづくりであり、「定年=リタイア」ではない時代に生きる土台になります。
これは決して早期退職や安易な転職を勧めているのではなく、自分が将来にわたり本当にやりたいことは何か、この先の人生をかけて取り組みたいことは何かを見定め、自分のキャリアの軸を定めるものです。
そして、その実現のために今の仕事で磨けるものや他の方法で身につけるものを明確にして、実行プランを立てていくのです。
その際に最重要なことは、キャリアの軸を定める基準を「給与・役職」など仕事に付随するものではなく、仕事そのものの「働きがい」を考えて意味づけることです。
地位や収入ではなく、自分のモチベーションを第一に考え、自分の強みや持ち味は何かを再確認するのです。
社会人として長らく働いてきたなかで、得たことや築いてきたことは数多く存在するでしょう。
それを棚卸しして整理したうえで、自分の強みを活かせる場と方法を設計していきます。
そこで、本当にやりたいことが見えてきたら、今の職場や会社を離れても自分は通用するのかどうか、テストマーケティングされることをお勧めします。
具体的には、他部署の同僚に頼み、個人的に知識や技術を習ったり、友人や知人ルートをたどって、社外で手伝える仕事や学習機会がないか模索してみましょう。
社内の兼務制度(他部署支援)や提案制度、出向制度などの機会があれば積極的に手を挙げること。
副業が解禁されているならば実際にダブルワークしてみるのもよいでしょう。
それが難しいのであれば、地域コミュニティや子どものPTAでの活動、ボランティア・NPOなどの社会貢献活動へ参加するのもよいアイデアです。
一歩踏み出してみると、いかに自分が知らない世界があるかを痛感しショックを受けるかもしれませんが、自分の可能性も広がるはずです。
そして、ぜひ働き方マインドのリセットを行ってください。
自分を会社に雇われているという立場から、会社や上司を顧客としてみる立場にスイッチを切り替えるのです。
自分は独立してこの会社に常駐することになった経営者だと考えてみれば、上司はお客様です。
お客様のニーズを酌み、いかに期待を超えて満足してもらうかが仕事なので、注意や叱責もサービス向上の参考になるクレームとして受け止められますし、改善に努めることができます。
この積み重ねで、給料は貰うものではなく、自ら稼ぐものという意識に変わっていきます。
これこそがキャリア自律したプロフェッショナルへの道のりなのです。
まとめ
終身雇用が当たり前だった時代は、私の親世代ですでに終焉となりました。
人生100年時代を生き抜くためには、私も含め現在のミドル年代が抱える不安と課題に真正面からぶつかっていかなければなりません。
意味のある人生をどう生きるのか、築いてきたキャリアをどう活かすのかを、一人ひとりが真剣に考えることで、世の中がちょっとだけ良い方向に向かうのではないでしょうか。
人を活かす経営の新常識