当たり障りのない雑談を弾ませるにはどうすればいいのでしょうか。
「相手との共通点を無理に探さなくてもいい。ひと言つけ加えるだけで、雑談も弾むようになる」と話し方トレーナーの桐生稔氏は言います。
このテクニックを持っているのかいないのかで、相手の印象も変わり、その後の商談の成否にすらかかわってくるかもしれません。
今回は桐生稔氏著作『雑談の一流、二流、三流』より仕事の上の付き合いにおいて、雑談も弾ませるテクニックについて深掘りしたいと思います。
自分「今日は暑いですね」
相手「そうですね。暑いですね……」(沈黙)
自分「今日は暑いですね。30℃を超えるそうですよ」
相手「30℃ですか。どうりで暑いと思った」
自分「ですよね……」(沈黙)
話しはじめてすぐに沈黙が生まれる会話と、自然に続く会話。
一流の人の会話は、もちろん後者の会話ですが、いったい何を意識して会話をはじめているのでしょうか?
自然に続く会話には、実は明確なポイントがあります。
それは人間誰しもが一番興味があるものです。
誰もが一番興味があり、気になっているものは、何だと思いますか?
一番意識しているのは「自分」ではないでしょうか。
例えば、修学旅行の記念集合写真をパッと見て、自分の顔と気になる異性、どっちの顔を探すのが速いですか?
まずはきっと自分の顔を発見するほうが速いと思います。
では、自己紹介と他己紹介ではどちらがうまくできるでしょうか?
やはり自己紹介だと思います。
なぜなら自分のことが一番よくわかっているからです。
人間は自分のことを一番意識しているし、自分のことが一番話しやすいということを一流の人は明確に理解しています。
そう、一流の人の会話は、話題の矢印が必ず相手に向いているのです。
こういう人の会話をひも解くと、必ず会話の主題が相手にあることに気がつきます。
例えば
「今日は暑いですね。今日は30℃を超えるそうですよ。夏バテとか平気ですか?」
「今日は本当に暑いですね。ちょっとクーラー効きすぎですかね? 大丈夫ですか?」
「今日は暑さがすごいですね。しかし○○さんって夏男って感じですよね。夏はお好きですか?」
このように天気の話題から始めても、必ず会話の矢印を相手に向けて、相手が答えやすいいテーマを後ろに組み入れています。
あなたの周りに、「あの人と話していると、気づいたら会話が続いてる」と思う人がいませんか?
思い当たる人がいれば、ぜひその人との会話に注目してみてください。
必ずテーマがあなたに向いているはずです。
三流の人は「今日は暑いですね」と話し始めても、その事実だけを伝えておしまいなので会話が続かないのです。
刑事ドラマを観ていると、捜査官が犯人を取り調べるシーンがよく出てきます。
このとき、刑事は「質問」を使って会話を進めていきます。
質問することで、回答を引き出し、徐々に犯人を追いつめていくのです。
普通のドラマでも、よく脇役が主人公に向かって、「最近どうよ?」と質問を投げかけるシーンがあります。
主人公が質問に答えることで、主人公にスポットライトが当たっていきます。
人間は質問されると答えてしまいます。
例えば、「今日のランチは何食べたの?」と聞かれれば、瞬間的に今日のランチのシーンを思い出しますし、学校の授業で、先生に「2+2は何ですか?」と質問されたら、それに答えてしまいます。
我々人間は、質問されるとそれに答える習慣の中で生きています。
一流はこの習慣を明確に理解しているので、上手に質問を使って相手から会話を引き出しながら会話をリードしています。
相手に焦点を当てる会話をしているので、実は会話の主導権を握っているのは、話している側ではなく、質問をしている側なのです。
シリコンバレーの偉大なコーチ、ビル・キャンベルをご存知でしょうか?
アップルの元CEOスティーブ・ジョブスやグーグルの元CEOエリック・シュミットの師と言われる方で、『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』という本が大変有名になりました。
ビル・キャンベルは、コーチングをするときに必ず、「How are you? What are you working?(調子はどう? 今何に取り組んでいるんだい?)」という質問から入るそうです。
質問をして先手を取る。
質問された人は必ず答える。
このシンプルな法則を一流は徹底しているのです。
三流は話しかけられるのを待ち、二流は先に話しはじめ、一流は「質問」を使って会話を引き出す。
例えば、出社した直後、上司に朝の挨拶をするとき、会社に向かう電車の中でばったり同僚に会って挨拶をするとき、はじめましてのお客様に挨拶するとき、などなど。
このときに、「おはようございます」だけで終わってしまうと、会話が続いていきません。
そこで、「挨拶のあとにひと言つけ加える」という方法が、いろんな本やセミナーで奨励されています。
例えば、以下のように、挨拶にワンフレーズをプラスします。
・上司との挨拶「おはようございます。昨日は遅くまでありがとうございました」
・同僚との挨拶「おはよう! 昨日の飲み会楽しかったね」
・お客様との挨拶「はじめまして。お会いできて光栄です」
確かにこれも悪くはないでしょう。
しかし、「おはようございます。昨日は遅くまでありがとうございました」
→「ありがとね」沈黙……。
「おはよう! 昨日の飲み会楽しかったね」
→「楽しかったね……」(沈黙)
「はじめまして、お会いできて光栄です」
→「こちらこそ……」(沈黙)
と、ワンプラスのフレーズでは、そのあとが続かないケースがよくあります。
こういう時に一流の人は、先手を取って話しやすい「ふた言」を加えるのです。
自然に会話をスタートするには、挨拶にも仕掛けが必要なのです。 その仕掛けとは、挨拶にフレーズを「ツープラス」するのです。
例えば、先ほどの例をとってみると
「おはようございます。(挨拶)昨日は遅くまでありがとうございました。(ひと言)しかし部長、本当にタフですね。(ふた言)」
「おはよう!(挨拶)昨日の飲み会楽しかったね。(ひと言)アレははしゃぎすぎでしょ。(ふた言)」
「はじめまして。(挨拶)お会いできて光栄です。(ひと言)噂はかねがねお聞きしております(ふた言)」
挨拶にワンフレーズをプラスするだけではなく、ツーフレーズをプラスしていきます。
挨拶の次に空白のボックスが二つあり、必ず二つ埋めないといけないというように考えるのです。
挨拶+①フレーズ+②フレーズ
「久しぶり! ①元気だった? ②何年ぶり?」
「こんにちは。①いつも元気ですね。②私も見習わなきゃ」
「よ! ①元気? ②最近、忙しい?」
みたいに、話のネタを入れます。
ボックスに何を入れるかは自由ですが、入れた内容によって次の話の展開が生まれるのです。
一流は先手を取るのが上手です。
先手とは先に話しやすい空気を作ることです。
雑談の一番はじめに挨拶をして、会話のエンジンをかけるかのように、そのあとにもうふた言追加して会話をスタートさせてみてください。
三流は挨拶だけで終了、二流は挨拶にひと言加える、一流は挨拶にふた言加える。
また、毎日話している上司でも、ばったりエレベーターで会ったら、話すことがないな…と気まずい空気になることもあります。
よく雑談ネタで紹介されるもので、木戸に立てかけし衣食住=きどにたてかけしいしょくじゅうというものがあります。
き=季節、ど=道楽、に=ニュース、た=旅、て=天気、か=家族、け=健康、し=仕事、い=衣料、しょく=食事、じゅう=住居、を話題にすると話が広がるという内容です。
しかし、毎回、今日は季節、今日は道楽、今日はニュース、今日は旅について……なんてネタを探していたら大変ですよね。
しかもネタの種類が多すぎて覚えられません。
一流と言われる人は常に王道です。
王道とは、誰もが絶対に興味があるネタからはじめる、ということです。
ニュースの話を振られても、その話を知らない人もいるでしょう。
旅の話を振っても、「私、あまり旅行とかは行かないんで」という人もいます。
天気の話をしても、毎回天気の話では飽きられます。
では、「誰もが絶対に興味があるネタ」とはなんでしょうか?
それは人間が毎日する5つのことです。
1.食べること
2.動くこと
3.働くこと
4.お金を使うこと
5.寝ること
何か事情があって、まったくしないときもあるかもしれませんが、基本的に上記の1〜5は人間が毎日行う行為です。
毎日やっていることは人間にとって大切なことです。
大切なことは誰でも興味がありますし、興味があることを話題にすれば、どんな人とも話が展開しやすくなります。
会社にいく途中、バッタリ上司に会ったら、1〜5の王道ネタで、各方面に話題を展開してみましょう。
会話のサンプル〜ネタに最適な「人間が毎日する5つのこと」
1.食べること
「最近忙しそうですけど、お昼とか食べている時間あるんですか?」
「最近はどの辺りでお昼を食べているんですか?」
2.動くこと
「最近運動とかされています? 私はまったくしていなくて〜」
「○○さんって毎日何時に起きているんですか?」
3.働くこと
「最近仕事終わるの遅いみたいですね〜」
「今、一番時間を使っている業務って何ですか?」
4.お金を使うこと
「私全然お金が貯まらないんですけど、○○さんは何かされていますか?」
「最近、自己投資とか趣味とかされています?」
5.寝ること
「最近睡眠は取れています?」
「結構寝つきがいいほうですか?」
「お休みの日は、しっかり休息を取れてます?」
話すネタをたくさん用意してマシンガントークのように話す人と、自分に興味があることを話題にしてくれる人では、どちらが話しやすいでしょうか?
雑談の目的は、あくまでも相手との心地よい空間を作ることが目的です。
話す中身よりも、話しているときの「心地よさ」を作り出すのが一流です。
三流はあたふたネタを探し、二流は「木戸に立てかけし衣食住」から探す、一流は「人間が毎日する5つのこと」から展開する。
まとめ
ビジネスでもプライベートでも、初対面の挨拶から会話を発展させるのはなかなか難しいものですが、一流の雑談をする人は、ある程度のテクニックを持って会話をしているようです。
まったく初対面の相手でも、相手が話題の中心になるように「人間が毎日する5つのこと」をテーマに話を振ったり質問をして、心地よく会話が続く空間を作り出していきましょう。
雑談の一流、二流、三流 (アスカビジネス)