これまで4回にわたって、フランス生まれの認知症介護の技術「ユマニチュード」についてお伝えしてきました。
最後になる今回は、「ユマニチュード」が介護の渦中にいる人だけでなく、すべての人間関係に活用できる技術と言うことを踏まえて、まだ介護の世界とは縁のない方にも、ぜひ参考になるお話で締めくくろうと思います。




思い出ボックス作成のおすすめ


認知症の方を在宅介護されている方のお困ごとのひとつに、同じことを何度も繰り返して話す、とか、同じ質問を数分おきにされる、というのがあります。

認知症は、まず短期記憶の障害から出はじめることが多いのですが、これはごく最近の出来事についての記憶を保てなくなっている状態です。
そのために何度も同じことを口にしてしまうのですが、ご本人にとっては、いつも初めて話していることだということを理解してください。

介護にあたる側が「何度も言ってるでしょ!」と叱責してしまうと、認知症のご本人は、怒鳴られたことを理不尽に感じてしまい、嫌な気持ちだけが記憶に残ってしまいます。

だからといってご家族が何度も繰り返す会話のすべてに付き合っていては、心身ともにストレスになってしまうことでしょう。

そこでおすすめしたいのが、例えば、

・楽しかった旅行の写真やしおり、入場券
・大切な人からの贈り物
・友人から届いた手紙
・楽しいイベントの写真
・賞状や感謝状
・自慢の品


などをひとつの箱に集めて、思い出ボックスをつくることです。

小さなアルバムに選び抜いた写真を収めておくだけでも構いません。
部屋の片付けをしていて、こうした懐かしい品物を発見したときには、健康な若い方でも、懐かしい思い出に浸ってしまうものですよね。
高齢になればなおさら、長く生きてきた分、良い思い出はたくさんあると思いますので、いつでも取り出して話ができるように思い出ボックスを準備してみましょう。





不安な現状から抜けだすために

認知症になっても、感情に基づいた記憶や、幼い頃の記憶がすぐになくなってしまうことはありません。

ずっと昔に退職しているのに「仕事に行かなきゃ」と混乱しているような時に、思い出ボックスから取り出したものを見せて「この写真、北海道に行ったときにお父さんと一緒に撮りましたよね」と話しかけて、興味の対象を今起きていることから別のものにずらし、そのときの出来事を楽しく語ることで、現在の不安な状況から抜け出すことができます。

思い出ボックスはご自身が介護を必要とする立場になる前であっても作っておくこともできます。
すでに認知症のご家族がいらっしゃるのなら、家族みんなで思い出の品を集めたボックスを作っても良いと思います。

実際に思い出ボックスやアルバムを活用して、数分おきに時間を聞いてくる方や、介護をする人に暴力的な行動をとりがちの方の気持ちを上手に受け止めながら対応している実例は数多くあります。

最近は、断捨離を機会に昔の写真などを捨ててしまう高齢者も多いと聞きますが、大切な思い出の品だけは数点手元に残しておくようにしましょう。






ユマニチュードは全ての人間関係に活用できる技術

「ユマニチュード」の技術を本質から学んで正しく実践するためには、正規のトレーニングを受けた指導者から学ぶ必要があります。
ケアを学ぶ時には、自分がやっているケアの内容を指導者に評価してもらうことが上達の近道なのですが、実際に指導者がいる研修に参加することが難しい方々もいらっしゃいます。
この問題を解決するために、遠隔地から情報技術を使った指導を行なうシステムもあり、ケアの様子をビデオで撮影、録画し、インターネットを通じて遠くにいる指導者が細やかな技術指導を受けることができます。

タブレット上で映像を再生しながら、同時に指導内容を記録していきます。
また、指導者の技術指導データを蓄積させることで、AIを用いた指導の自動化の試みも始まっています。
技術指導を自動化することによって、より多くの方にご自分のケアについて評価を受けていただくことが可能になると思われます。

一生懸命介護をしているのに、どうして上手くいかないのだろう、と感じるのであれば、それは相手への思いや優しさが足りないのではなく、適切な技術が適切な手順で行なわれていないことが原因であること知っていただくことで、その介護に存在する問題点の解決につながり、穏やかな介護が実現できるようになります。

「ユマニチュード」は主に認知症ケアとして紹介されていますが、この技術はすべての人間関係において活用することができます。
たとえば、子どもとどこかへお出かけするときに、ギュッと手首をつかむことはないでしょうか。
これは、親はそう思っていなくても「あなたに対して強制的なことをしている」「わたしに服従しなさい」という非言語的メッセージを、子どもに伝えることとなってしまいます。
  同じように、夫婦、上司と部下、友人同士など、あらゆる人間関係で良好な関係を相手と結びたいと思う状況において「ユマニチュード」の「見る」「話す」「触れる」の技術を使うことができるのです。






まとめ

今回の記事はお役に立ちましたでしょうか。

「ユマニチュード」を考案したイヴ・ジネストとロゼット・マスコッティは、もともと体育の教師でしたが、医療施設で働くスタッフの腰痛予防対策の教育と、患者のケア支援を依頼されたことがきっかけで、介護の世界に携わるようになりました。
体育学という学問のベースがある彼らは「人間は死ぬまで立って生きることができる」ことを提唱し活動を担ってきたのです。
彼等が現場の数多くの経験を通じて構築した「ユマニチュード」の技法は、ヨーロッパを中心に、さまざまな国で介護や看護の世界に採用され、認知機能の低下した人であっても、最期の日まで尊厳を持って生きるために活かされています。
現在、介護に関わっている方も、将来介護に関わることになりそうな方も「ユマニチュード」の技術を通して大きな変革をもたらすことができるのではないかと思います。
ぜひ楽しい介護に向けて、できるだけ多くの方に「ユマニチュード」を知っていただき理解してもらえればと思います。

ユマニチュード入門

筆者プロフィール

こらっと

大阪生まれ。団体職員兼ライターです。
平日は年季の入った社会人としてまじめに勤務してます。
早いもので人生を四季に例えたら秋にかかる頃になり、経験値は高めと自負しています。
このブログがいきいき生きる処方へのきっかけになれば幸いです。

お問合せはこちらで受け付けています。
info.koratwish@gmail.com


海外からの人材受け入れ団体職員として働いてます。
遡ると学生時代のアルバイトでアパレルショップの売り子から始まり、社会人となってから広告プロダクションでコピーライターとして働きました。
結婚・出産を経て、印刷会社のグラフィック作業員として入社。
社内異動により⇒画像・写真加工部⇒営業部(営業事務)⇒社内システム管理者と、いろんな部署を渡り歩きましたが、実母の介護のためフルタイムでは身動きが取れなくなり、パート雇用として人材受け入れ団体に時短勤務転職しました。

2019年実母が亡くなり、パートを続ける理由がなくなったため物足りなさを感じる毎日でしたが、年齢の壁など一顧だにせず(笑)再びフルタイムで働きたい!と就活し続けた結果、別の人材受け入れ団体に転職しました。
責任も増えましたが、やりがいも増えました。

デスクワーク経験が長く、Office関係の小ワザや裏ワザ、社会人としての経験を共有できれば幸いです。

家族構成は夫がひとり、子どもがひとり
キジ猫のオス、サバ猫のメスの5人家族です。

趣味は、読書、語学学習、ホームページ制作などなど
好奇心が芽生えたら、とにかく行動、なんでもやってみます。

猫のフォルムがとにかく大好きで、
神が創造した生物の中で一番の傑作だと思ってます。
ちなみに「こらっと(korat)」は
タイ王国のコラット地方を起源とする
幸福と繁栄をもたらす猫の総称です。




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似顔絵は、「似顔絵メーカー」で作成しました。