しかし最近は、「ストーリー」よりも「ナラティブ」に注目が集まっています。
ナラティブもストーリーと同じく、物語という意味ですが、ナラティブは、ストーリーよりももっと強力にお客さんの心を動かすことができるからです。
人の心をより動かせるナラティブをビジネスに活用することを、ナラティブマーケティングといいます。
情報発信の場が増えた現代だからこそ、ナラティブのビジネスへの活かし方を知っておいて損はありません。
今回は「ナラティブマーケティング」の意味やメリットについてお話したいと思います。
単純に言えば、ストーリーテリングの「ストーリー」と同じです。
しかし、ナラティブとストーリーテリングには明確な違いがあり、それは物語の主人公に誰がなるかという点です。
ストーリーは、架空の主人公が用意されている物語のことを意味します。
すでにエンディングまで書き終わっている小説のようなイメージですが、もちろんこれでも十分に人々の共感や感情移入を誘うことはできます。
それに対しナラティブとは、現在まさに進行しつつある物語であり、主人公は「あなた本人」です。
あなたが自由度の高いRPGゲームを主人公として操作しているうなイメージでしょうか。
あなたの選択によって物語が変わっていき、あなたオリジナルのエンディングを迎える物語がナラティブです、と聞くと、ワクワクしませんか。
ナラティブは、ストーリーよりも、より深い没入感や感動を与えることができます。
ナラティブマーケティングとは、お客さんに対してナラティブに語りかけていくことを意味します。
ただ、その原点にはもちろんストーリーがあります。
あくまでもストーリーの伝え方や表現方法を、あなたを主人公に変えたものがナラティブだからです。
ナラティブを上手く活用しようと思えば、必然的にストーリーテリングの知識も必要となってきます。
実際に顧客の望み通りに物語を変えることは難易度が高いのですが、そう感じてもらうような仕組みを作ることはできます。
たとえばペットショップで子犬を飼おうとしているお客さんがいた場合、「あなたと子犬の物語」といった打ち出し方で、子犬を飼うことができることや起こるであろうことを伝えていくと、よりお客さんの想像力を動かすことができます。
メリット1.「お客さんから好感を得られる」
ナラティブを上手く使えば、お客さんに好感を抱かせることができます。
人間はもともと物語性のある話に惹き込まれる性質を持っているため、普通のストーリーテリングでもお客さんに好感を与えることはできました。
しかしナラティブの場合、あなたやお客さんがその物語の主人公になるわけですから、お客さんはさらに感情移入してしまいやすくなるのです。
お客さんからの好感を得ることができれば、商品が売れます。
さらに、その商品やあなたのファンになってくれれば、リピートしたり友人や知人に勧めてくれることにも繋がるのです。
商品の良さだけを話すのではなく、あなたと商品の物語を話すことで、当たり前ですが、「お客さん」は「あなた」に引き付けられます。
商品のターゲット層から好かれるために、今、ナラティブマーケティングが注目されているわけです。
メリット2.「商品の本質を伝えられる」
ナラティブは商品が持つ価値の本質を伝えることができます。
商品を実際にどう使うのか、使うことでどのようなことが起こるのか、といったことを自分のことととして想像してもらえるのです。
たとえば、あなたがカバンを商品として説明すると想像してみてください。
「どんな皮を誰がどう加工したから丈夫で何十年でも使える」という制作過程にまつわる物語を説明するのがストーリーテリングです。
一方ナラティブでは、「これから何十年もあなたの相棒になるカバンは、年月と共に皮があなたの色に染まっていく」というように、お客さん自身とカバンにまつわる物語を表現していきます。
カバンのクオリティはあくまでもメリットであり、お客さんにとってベネフィットとなるのは、カバンを購入してからどのように使っていけるのか、というところです。
つまり、ナラティブの方がよりお客さんにとっての本質的な効果や価値を説明できるわけです。
また、商品価格はお客さんが感じた価値によって決められるので、ナラティブマーケティングを上手く行えば、商品の価格を上げることも可能になります。
たとえどれだけ高級な本革素材を使い、どれだけすごい職人の技術でカバンが作られていたとしても、お客さんがそこに価値を感じなければ意味がありません。
逆に、どれだけ簡素な作りでも、合成皮革でも、お客さんがそこに価値を感じさえすれば商品は売れるのです。
これはお客さんに商品の優良を誤認させろというのではなく、商品やサービスが持つ価値をしっかりと伝えることが重要だということです。
スバルのショートフィルムCMは、まさにナラティブマーケティングを実践しています。
キャッチコピーの「あなたとクルマの物語」もとても分かりやすく「あなたとクルマ、どんな物語がありますか?」というナレーションからCMは始まります。
このナレーションが「クルマはただの便利な移動手段の一つ」というだけでなく、ユーザーを物語に惹き込んで、自分が今乗っている愛車と一緒に過ごした思い出や愛情などを、ユーザー自身と結びつけ想像させるのです。
実際、このCMは非常に多くの人の共感を得ました。
ストーリーが共感できるすばらしいものであったのももちろんですが、ナラティブでユーザーを惹き込んだことが、成功の大きな要因だと言えるでしょう。
また、ビジネスマーケティングの分野ではありませんが、ナラティブは看護やカウンセリングなどの医療業界でも活用されています。
それが「ナラティブ・アプローチ」という手法です。
ナラティブ・アプローチでは、患者やクライエントの支援をするときに相手の物語に注目して解決方法を見出していきます。
理屈や技術ではなく、患者やクライエントが語る解釈をしっかりと読み取り、重要視するわけです。
もちろん患者やクライエントの声というのは、主観に基づいた脚色もあり得るということを理解して聞かなければなりません。
しかしその主観をあえて聞くことで、今まで気づくことができなかった患者やクライエントの問題点に気づくことができるのです。
まとめ
商品の価格は、どれだけ原価は安くても、顧客が価値を感じれば高額で買ってくれることも十分にあるのです。
つまり商品価格は原価ではなく、顧客が感じる価値に合わせて付けることができるといえます。
先のスバルのCMの例のように「あなたとクルマ、どんな物語がありますか?」というコピーを掲げて共感できる物語を展開し、まるで自分の物語のようにスバルのクルマに対して強い感情を抱いてもらうことができるのです。
表現の場がますます増えている現代においては、物語が持つ力でより本質的な価値を感じてもらえるナラティブマーケティングが多くの企業から注目されています。
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