老人ホームの種類やかかる費用などを細かくチェックして、納得できる施設に出会えればよいのですが、入居を決めるまでの時間がなくパッと見や謳い文句に乗せられていざ入居したあとで、実は「ブラック介護施設」だった…という目には誰も遭いたくはありません。
今回は、間違って「ブラック介護施設」に当たってしまわないように、前もって確認すべきチェックポイントを挙げていきます。
当時、介護業界に激震が走ったのは、この事件が介護業界3位「メッセージ」の子会社が運営する施設で起こったからです。
さらに他のメッセージグループの施設でも職員による虐待や事故が次々と表面化し、慢性的な人材難に悩む介護業界の闇を浮き彫りにしました。
現場となったSアミーユ川崎幸町は、いかにも管理体制や施設設備が乏しい格安老人ホームではなく、外観はきれいで清潔でありメッセージという大企業が経営母体として運営しているため、一見、優良とみられていた施設だったがゆえに事件のショックは大きかったのです。
この事件以降も介護施設では人手不足を背景とする職場環境の悪化で虐待や事故、トラブルが相次ぎ、身売りや経営難につながるケースが多発しています。
昔は、問題が起こる施設といえば、ヤマっ気のある介護に関係のない異業種出身者が経営する施設が多かったのですが、メッセージはバリバリの介護系で、創業者の経営トップは医師でもあったので、当然、従業員教育はしっかりされていると思われていました。
現在においても、行政に報告されている虐待や事故は、「氷山の一角」にすぎないのかもしれません。
ではなぜこのような虐待や事故がおこってしまうのでしょうか。
厚生労働省が平成30年度の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づいて調査した結果、高齢者虐待と認められた件数は、介護老人福祉施設など養介護施設又は居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者によって行われたのが621 件であり、前年度より 111 件(21.8%)増加しています。
虐待の発生要因は、「教育・知識・介護技術等に関する問題」が 358 件(58.0%)で最も多く、次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」152 件(24.6%)、「倫理観や理念の欠如」「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」がそれぞれ 66 件(10.7%)でした。(複数回答)
この結果からもストレスにさらされる過酷な介護現場で、知識や介護技術に乏しい介護職員に頼り切って運営している介護業界の実態が透けて見えます。
虐待は簡単にはなくならず、繰り返されている深刻な問題であることが想像に難くないのです。
入居を考えるのであれば、元気なうちに入るのか、それとも要介護状態になってから入るのかを考える必要があります。
老夫婦2人だけで暮らしていて、気がついたときには1人が倒れ、もう1人が栄養不良でうずくまっていた、というようなケースは後を絶ちませんし、ずっと家庭で介護、というのは現実問題として非常に難しいところです。
まずは、入居を希望する側が自らの死生観を明らかにして、どの段階でホームへの入居をするのかを決めなければなりません。
施設への入居を決めたのであれば、どのような施設に入るのかを探し、自分の希望に沿いそうな施設への見学が必要になってきます。
良いホームか悪いホームかは経営者によって大きな違いが出ますが、大手では面会が難しい場合もあります。
しかし、自分が入居して過ごすことになる施設ですから、基本的には経営者に会うことをおすすめします。
面会がかなった場合は、介護ビジネスへの情熱や展望はもちろんですが、老人ホーム運営に欠かせない死生観や使命感、加齢への理解と共感、そして宗教観や倫理観、さらには哲学や思想などを評価の対象にして、じっくり話を聞きましょう。
そして、ホームの施設長の能力や現場職員の評価、そして施設のハード面の確認も行います。
経営者の評価が高いところは、現場施設の評価もだいたいにおいて高いものです。
逆に、経営者評価が低いのに、現場施設の点数が高い場合は、もしかすると偶然、今の施設長の能力だけが高い場合があるので、施設長が移動すれば現在の高レベルが永続しない可能性があります。
経営者が高い理念と能力を持って運営することではじめて、職員にきちんと給料を払い、教育研修を充実させ、さらには公正な人事評価や、やりがいのあるキャリアパス作りが可能になります。
介護職は過酷な現場だという一般認識が広がっていますが、優れた経営者は、介護職員が生涯働ける環境をきちんと整えているものなのです。
しかしそのようなホームは決して多くありません。
経営者評価の低い会社のホームにすでに入居されている方が、経営者評価の高いホームを訪問すると、ご家族よりもまず、ご本人の顔がパッと輝き「私、ここならいいわ」とおっしゃる場合が多いようです。
辛いホームで我慢してこられた方ほど、良いホームは直感で分かるようなのです。
見た目は良くて、入居してみて初めて酷いと分かるホームは、1回の見学や面会では判断が難しいでしょうが、優良施設の意外なヒントとなるのが、「90歳以上の入居者が3割を超えている」ということです。
というのも、数百万円、数千万円の入居一時金を取るホームでは、一時金を償却し切った頃に「もう85歳にもなられて、病気も増えてきましたし、24時間看護師が常駐していないウチよりも、もっと良い施設を探した方が安心ですよ」といった具合に、相手の不安感をあおりながら親切を装って、退居・転居を勧めるホームが結構あるからです。
年を取れば、当然病気を幾つも抱えるようになってきます。
「終身ケア」を謳っているホームのはずなのに、このようなやり方はおかしいのですが、ここで納得してしまう入居者は意外に多いのです。
もちろん、退去してもらって新しい入居者を募集した方が、ホームは儲かるでしょうが、良いホームは、こんなやり方はしません。
良いホームは口コミだけで常に満室ですから、そんなことをせずとも経営が十分に成り立つのです。
また、「なるべく事故のないホーム」を望むのは当然なのですが、残念ながらいくら経営者評価が高くても、高齢者が入居する施設では「つまづいて転んだ」「職員が目を離した隙に、認知症の入居者が抜け出してしまった」というような事故は、ゼロにはなりません。
良いホームと悪いホームの特徴的な違いは、その後始末です。
きちんと病院で検査・手当てをし、家族にも報告・謝罪することはもちろん、家族側も、「あのホームはいつも、とても良くしてくれている」と分かっていますから、ちょっとやそっとでは訴訟は起きません。
良いホームは事故やトラブルを隠さずにきちんと記録も取っています。
入居前に数回訪問して顔なじみになれば、こちらが求めれば記録も提示してくれるので、ぜひトラブル対応についてもヒアリングしてみてください。
そして最終的な確認として、「死ぬまでいられるのか」「どんな認知症の状態でも受け入れてもらえるのか」をすべきです。
たとえば、認知症対応型共同生活介護、いわゆるグループホームはたいてい、認知症で徘徊する人は受け入れませんし看取りもしていません。
入居前に施設を見学にいく際に、具体的にチェックすべきポイントについてご紹介します。
施設に着いたらまず、施設の入り口や壁をチェックしてください。
何もなかったら良心的な施設とはいえないかもしれません。
良い施設では苦情ボックスや御意見箱のようなものが置いてあり、利用者や家族の声をくみ取りながら、施設側がそれにどう対処したかを、来訪した家族が見やすい場所に掲示してあります。
施設によっては定期的に利用者家族の懇談会が開かれているところもあります。
それも開かれた施設かどうかの目安になりますし、情報公開が何もない閉じられた施設は危険です。
ロビーや廊下に施設で行なわれた行事やイベントの楽しそうな写真が飾ってあれば、普段の雰囲気を知るうえでの参考になります。
施設案内が始まったら、まず廊下を歩く際に、天井を注意して見ていきましょう。
施設の事故防止のために必要な監視カメラは設置されてしかるべきですが、先述のSアミーユ川崎幸町では「入居者の自由」を理由にまったく設置されておらず、それが結果的に転落事故の真相究明を妨げる原因になってしまいました。
自由というのは、まず安全が確保されてこそなのです。
さらに入居者がいるフロアに足を踏み入れたら、視覚だけでなく、嗅覚にも敏感になってください。
玄関口では気づきませんが、フロアや入居者の居室からアンモニア臭などが漂っていれば、排泄物の処理などが適正に行なわれていない可能性や入居者の入浴がおろそかにされているために、寝具や本人から体臭が漂っていることも考えられます。
共用スペースが臭うということは、衛生管理や消臭がきちんとできていないか、または、居室を開け放して排泄介助をしているなど、入居者のプライバシーが守られていない可能性もあります。
入居者自身の臭いとして重要なのは体臭だけでなく、口臭も重要なポイントになります。
ぜひ実際に入居者している人と話す機会を作ってください。
入居者の口臭がきつければ、口腔ケアがされていないのかもしれません。
口腔ケアは今、高齢者の健康問題のカギとして注目されており、食後にしっかりとケアしないと食べ物の残滓が誤って肺に入って肺炎を起こし、高齢者にとっては命取りになる事例になるからです。
認知症予防のためにも口腔ケアは効果的だといわれています。
居室で入居者と話す機会がある場合には、室内の様子も確認するポイントです。
「何もなくてキレイ」な居室は怪しいからです。
例えば、転倒の危険があったり、徘徊してしまうような入居者の部屋の床には、『離床センサー』といって、ベッドの下にワイヤレスのマットを置き、それを踏むとナースコールなどで知らせる対策装置を使用しているところがあります。
また、室内の壁飾りや置いてある物などに、その人らしいインテリアを見ることができれば、個性や生き方が尊重されていることの判断材料になります。
逆にベッドと食事台など最低限のものが置かれているだけの殺風景な居室だったら、入居者ひとりひとりが大切にされていないとも考えられます。
いくら施設の建物がきれいでも、そこで行なわれている介護の質が悪ければ意味がありません。
実際に入居者に介護を施すのは施設の建物ではなく介護職員ですから、職員が働く環境がどうなっているのか、介護現場の雰囲気をしっかり見ておく必要があります。
介護職員の対応が悪ければ、最悪、入居者への虐待にもつながりかねません。
介護現場の実態を確認することは難しいですが、見学の際には、職員にこと細かに質問をぶつけてみましょう。
質問の内容よりも、細かい質問に職員がひとつひとつ丁寧に対応してくれるかどうかがポイントです。
面倒臭がらずに答えてくれるかどうかは、入居者に対するひとつひとつのケアが丁寧なのかどうかの判断材料になるからです。
疑い出すとキリがありませんが、見学者への丁寧な対応や言葉づかいも、その場だけの可能性があるので、職員同士の会話もチェックしておきたいところです。
見学者に対してはよそ行きの顔をしていても、見学とは関係のないところにいる職員同士の会話には“素”が出やすいからです。
職員同士が横柄な口のきき方をしているようなら、入居者に対しても横柄な態度を取る可能性がありますし、職員が楽しそうに働いているか、疲れてしんどそうにしているかにも目を光らせてください。
精神的にいっぱいいっぱいの様子で顔色が悪いようなら、ストレス過多で、働く環境が相当悪いかもしれません。
老人ホームは慢性的に人手不足に陥っているところが多いので、見学の際に「夜間は何人勤務体制か」を聞くことと、できれば事務室の出勤札やシフト札をさり気なく確認してみてください。
目安は、入居者15人に対して2人の夜間体制がとれているかどうか。
とれていれば、ある程度しっかりした対応をしてもらえるはずです。
それ以下のところは労働環境としてあまり良いとは言えません。
事件のあったSアミーユ川崎幸町は、最大80人の入居者を日勤で8〜10人、夜勤では時間帯によってはわずか3人で担当していたといいます。
これでは行き届いた介護など期待するほうが無理なのです。
職員の対応をチェックする上で有効なのが、見学時間を「午前11時半」からに設定することです。
なぜなら昼食の風景を見られるからです。
自分で食事のできない入居者の場合、職員が横について、きちんと口元まで持っていく食事介助が基本です。
しかし、施設のなかにはテーブルの片側に数人を座らせ、向かい側から機械的に一口ずつ順番にエサを与えるように、喉に食べ物をつまらせてしまうことが危惧される方法で食べさせているところや、赤ちゃんがするようなエプロンを平気でつけさせている施設もあります。
入居者を大切に考えているなら、タオルかナプキンをかけるなどの対応をしているはずですが、そうした施設では、効率優先で入居者の人間としての尊厳は二の次という感覚が当たり前になっているかもしれません。
食事中に、入居者同士や入居者と職員が親しく話しているかも重要なポイントです。
明るい雰囲気の施設なら問題はありませんが、雰囲気が暗く、入居者が無表情で黙々と食べているようなら注意が必要です。
細かいことかもしれませんが、その際には、車いすで食事している人の、車いすの汚れに注目してください。
車いすのすき間に食べかすがこぼれたままになっていないか、埃がたまっていないか、きちんとタイヤの圧がはいっているかも重要です。
タイヤの空気が抜けた状態のままになっていれば、ケアが行き届いていない証拠です。
良い施設というのは向こうのペースではなく、こちらのペースに合わせて見学させてくれます。
運営方針や施設の現状などを熱心に語りながら見学していると、1時間以上、大型施設では3時間ほどもかかることもあり、短い時間では絶対に終わりません。
また、玄関に活け花が活けてあったり、壁に絵画が飾られ、食堂のテーブルに一輪挿しが置かれていたりする植物を枯らさない施設や、ワンちゃんを『うちのスタッフの一員です』と紹介して一緒にお出迎えしてくれるような動物を大切に飼っている施設は、人間も大事にしている良い施設だと判断する一要因になります。
まとめ
介護職員の労働環境の良し悪しは、その老人ホームを経営している運営会社の経営方針によるところが大きいものです。
それゆえに運営会社を見極めることが何よりも大切になってきます。
ホームページやパンフレットなどに、『入居者の天使のような微笑みが我々の喜びです』とか『我々は100%の献身に何よりも喜びを見出します』とかいうポエムみたいな経営理念を大げさに打ち出している施設は気をつけたほうがいいかもしれません。
施設見学の際に、施設の近くのお店や、タクシーの運転手さんなどにヒヤリングしてみましょう。
もし地元のタクシー運転手が施設の場所を知らないようなら、その施設には家族や地域住民によるボランティアなどの来訪者が少なく閉鎖的な施設だと考えられます。
怪しい老人ホームチェックリスト10
1.45分以上の見学をさせてくれない
2.入り口に苦情ボックスがない
3.地元のタクシー運転手が場所を知らない
4.フロアに尿臭が漂っている
5.車いすのタイヤの空気が抜けている
6.居室が「何もなくてきれい」
7.入居者には丁寧だが、職員同士は横柄
8.食事のときに職員の付き添いがない
9.夜間のシフトが入居者15人以上に職員1人
10.HPに大げさな謳い文句が載っている
いずれにしても、本人に合った良い施設かどうか、じっくり見極めて入居を決めたいものです。
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