カッとなった感情に任せて怒鳴ってしまったあとで、自己嫌悪に陥いり嫌な気持ちになることも多いでしょう。
このカッとなるのは、実は親の「心の枠」に原因があるようです。
自己嫌悪に陥る前に上手に体質改善をはかって、怒らないスキルを身につけましょう。
たとえばせわしなく慌ただしい朝に、家事をすませて子どもを学校へ送り出し、仕事に行かなければならないのに、子どもが我関せずとのんびり朝ご飯を食べていたり、「早くしなさい」と何度催促しても、学校の準備をぐずぐずしているときなどは、イライラが募り「どうして怒らせるようなことばかりするの!」と怒鳴りたくもなるものです。
しかし、この怒りの感情は、実は親自身が選んでいるものなのです。
もしもこれが子どもの学校も自分の仕事もない休日で、何時までに家を出なければならないという時間的制約がなかったとしたらどうでしょうか。
子どもがのんびり食事をしていても、それほどイライラすることはないと思いますし、気持ちにゆとりがあるので、イライラすることもなく冷静でいられるはずです。
このように、子どもが同じことをしていても、その態度に対してどのように反応するかを選んでいるのは親自身なのです。
そして、さまざまな反応の中から怒ることを選んでしまうのは、実は、親の「心の枠」に原因があります。
「心の枠」とは、誰もが持っている自分なりのルールや価値観、思い込み、期待、思惑などを指します。
この枠の中でおこっている事態であれば冷静に対応できるけれども、枠から外れた事態に出くわすと、イライラしたり、カッとなったりしてしまうのです。
例えば、親は経験から何時に家を出るためには、何時に後片付けを終えて、外出する準備にとりかからなければならないかが逆算でわかっています。
これが、「自分なりのルール」です。
毎朝のことなのだから子どもも理解しているはずという親の思い込みが裏切られ、思ったとおりに子どもが動いてくれないと、その結果、イライラして、怒りがこみ上げてくることになります。
「心の枠」の大きさは、気分によっても左右されます。
悪いときは枠が小さくなり、普段なら笑ってやり過ごせることでも、腹立たしくなったり、逆に、気分が良いときは心の枠も大きくなるので、細かいことに目くじらを立てることもなくなるのです。
このような怒りのメカニズムを理解して、イライラや怒りを上手にコントロールする方法があるのでご紹介していきましょう。
脳の機能には「思考系」と「感情系」の2通りあり、「思考系」とは、断片的な情報をつなぎ合わせて結び付け、合理的な判断をしようとする機能で、「感情系」とは、食欲や睡眠欲などの生理的な欲求全般に関する機能です。
イライラや怒りは、感情系が優位になっているときに生まれやすいので、イライラや怒りの兆しを感じたときには、すぐに何らかの方法によって思考系が優位になるように替えてやるのが効果的です。
一旦怒りだしてしまうとますますエスカレートして、思考系を優位にもっていくことが難しくなってしまうのです。
この「思考系を優位にする」技術が、怒らないスキルだと言えます。
怒らないコツ「スキル10」のうち、イライラや怒りを感じたとき、とっさに実行することで思考系を優位にかえる方法を5つご紹介します。
1.ストップシンキング
怒りに反射しないためには、一度気持ちを落ち着かせるために「間」をとって、思考系を働かせるチャンスをつくります。
イライラを感じたときに頭の中で「1、2、3」とゆっくり3つ数える「ストップシンキング(思考停止)」が最も簡単な方法です。
2.タイムアウト
カッとなって、脳の感情系が暴走しそうになったときは、その場から離れることで、強制的に空間の「間」をつくるのが、タイムアウトです。
子どもに対して怒鳴りそうになったら、「ちょっとトイレ」「のどが渇いた」と断って、速やかにその場を離れます。
怒りの対象が目の前にない場所に行き、冷静さを取り戻すまでの間にどのように話すか、子どもが悪いことをしたと理解してもらえるかを考えるのです。
3.コーピングマントラ
コーピングマントラとは、イライラしたときに魔法の呪文を唱えるというスキルです。
おすすめは、「何か理由があるはず」です。
例えば、子どもがなかなかお風呂に入らないときに「さっさと入りなさい」と怒鳴らずに「何か理由があるはず」と口にします。
子どもに直接「何か理由があるの?」と聞いてもいいでしょう。 子どもからは論理的な答えは返ってこないかもしれませんが、自分がそう問いかけたことで、脳は子どもがすぐにお風呂に入らない理由をいろいろと考えはじめるので、自然と思考系が優位になっていきます。
4.ポジティブフォーカス
イライラの原因から目をそらして、子どもの良いところに目を向けるのが、ポジティブフォーカスです。
日ごろから子どもの良い部分をたくさん書き出しておいて、怒りそうになったらそれを見返したり、誕生日に子どもが手紙をくれたとか、子どもをいとおしいと感じたエピソードを思い出すのもよいでしょう。
5.クロスポジション
感情にまかせて怒りそうになったら、怒りの対象である子どもの立場になって「自分が言われたらどう感じるのか」を考えます。
例えば、学校から帰ってきても、なかなか宿題をしない子どもに、「早く宿題をしてしまいなさい。ちゃんと宿題をしないからテストの成績も悪いのよ!」などと言って叱っていませんか。
もしあなたが、子どもから毎日「もっとおいしいご飯をつくってよ!」と言われたり、「○○ちゃんのママは英会話教室の先生をしているんだよ。ママも早く仕事探しなよ」などと比較されたら、素直に「よし、頑張るぞ!」と思えますか?
立場を逆転して考えることで、どう話せば、きちんと子どもに伝わる話し方になるのかを工夫できるはずです。
怒りが込み上げてきたときにとっさにできる方法を5つご紹介しましたが、普段から怒らない体質にしていくためにはトレーニングが必要です。
ここからは、普段から準備できる5つの怒り回避法のトレーニングについて解説したいと思います。
6.キープメンター
子育ての先輩やママ友など、悩みを言いあえる相手をつくり、不満をアウトプットすることで、イライラが募るのを防ぎます。
子育ての悩みを理解してくれる良き相談相手=メンターがいるだけで、イライラはかなり軽減できるのです。
身近でメンターが見つからない場合は、子育て支援センターやインターネット上の子育て支援サークルなどを活用する方法もよいでしょう。
日記やブログに怒りを書き出すだけでも効果があります。
7.リロケーションアイ
リロケーションアイとは、イライラがおさまらないときに思い切って気分を変える方法です。
まったくやったことがない新しい習い事に挑戦するとか、普段と違う道を通るなど、日常体験していない、少しストレスがかかるくらいの気分転換方法にチャレンジをするのがポイントです。
あるお母さんは、皆が寝静まったのを見計らい、夜中に1人で好きな音楽をかけながら車を走らせ、大声で不満を叫ぶのだそう。
時間にすれば20分ほどですが、たまっていた不満が消えてスカッとするとのことです。
8.アクトカーム
「今日は絶対に声を荒らげない」などと決めごとをするスキルをアクトカームといいます。
例えば「『早くしなさい』と言わない」など、イライラしたときについ口にしてしまうセリフを禁止するのです。
急には難しいので、「今日の午前中だけ」とか「1日だけ」など、目標を決めて徐々に延ばしていくとカッとしたときに怒りの暴走を抑える力になります。
9.リフレーム
イライラや怒りを感じる原因となっている心の枠を変えてしまうスキルが、リフレーム(考え直し)です。
5歳の兄は朝からご飯をたくさん食べるのに、4歳の弟は小食で食べるのが遅いのがイライラの原因だったとした場合、「上の子が食べるのだから、下の子も食べるはずだ」という心の枠があるのかもしれません。
そこで、「兄弟でも、食べる量やスピードが違うのは当たり前」だとリフレームするのです。
10.ファーストファクター
イライラや怒りには、そのもととなる第一の感情があります。
たとえば、連絡もないまま娘の帰りが遅いとき、父親はイライラして、「帰ったら叱りつけてやろう」と考えるかもしれません。
このときの第一の感情は“心配”です。
イライラや怒りの元の感情がわかれば、娘を怒鳴るのではなく、心配していることを伝えて、遅くなるときには連絡するように諭せばいいのだと気づくはずです。
不安や悲しみ、ストレスなど、怒りのもととなる第一感情がわかれば、怒鳴ることなく、親の気持ちを伝える方法を見つけることができます。
しかし、怒らないスキルは、シチュエーションに応じて使い分けるものではなく、1つのスキルを使い続けるだけで効果があります。
1つを使いこなせるようになったら、必要に応じてスキルの数を増やしていけばいいのです。
大切なのは、使い続けることです。
繰り返し使うことで、脳の機能が感情系に流されにくくなり、思考系を活性化する力を伸ばすことができるからです。
『子どもは親の言うことを聞くもの』という心の枠をなくし、子どもにはほとんど自分の言っていることが伝わっていないのだと理解しましょう。
それだけで、イライラの大半は抑えることができ、粘り強く何度も話す必要があると考えることができるのです。
まとめ
イライラや怒りを感じる頻度は、生活の中での接触回数の多さに比例します。
怒りは上から下に流れるため、母親にとってはいつも身近にいる子どもは、イライラや怒りを特に感じやすい対象になりやすいのです。
しかし、怒りにまかせて怒鳴り散らしても、子どもにはまったく良いことはありません。
親が子どものために叱らなければならない場面は確実に存在し、怒ることをすべて否定はしませんが、怒りの多くは相手のことを思ってのことではなく、怒りを相手にぶつけてスッキリしたいなどといった自己満足のためです。
怒りを上手にコントロールして反射感情で怒らないスキルを身につけ、怒らねばならない場面では、その怒りを上手に表現することが大切なのです。
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