自分自身の感情や行動をコントロールするためには、客観的に自己を見つめなおし管理能力を向上させる努力が必要だといえるでしょう。
そのために役立つのが「メタ認知」の能力です。
メタ認知とは、「自分が認知している物事を、もう一人の自分が客観的に認知し、制御している状態」のことをいいます。
今回は、メタ認知の詳しい解説とともに具体的にメタ認知の能力を高めるトレーニング方法についてご紹介したいと思います。
したがって、「メタ認知」とは「高次の視点から認知する」ということになります。
つまり、「自分が認知している物事を、もう一人の自分が客観的に認知して制御する状態」のことです。
メタ認知の起源は、古代ギリシャの哲学者であるソクラテスまでさかのぼり、彼の名言である「無知の知」、つまり「自分が知らないことを認知している」に由来します。
1976年にジョン・H・フラベルというアメリカの心理学者によってメタ認知の基本となる「メタ記憶」が提唱されましたが、これは心理学の世界でのみ知られていたことで、メタ認知が一般的に認知され始めたのはここ数年のことです。
メタ認知は大きく「メタ認知的知識」と「メタ認知的技能」の2つの種類に分けられます。
「メタ認知的知識」は、自分の長所や短所など「自分自身の特性について客観的に認知している知識」のことです。
メタ認知的知識は、さらに3つの知識に分けることができます。
1.自己に関する知識
自分の得意なこと・苦手なこと・強み・弱点などを客観的に評価して認知する知識です。
例えば、「話すのは苦手だが、人の話を聞くのが得意」「失敗するとすぐにマイナス思考になってしまう」など、自分自身の特性を認知します。
2.課題に関する知識
自分が過去の経験から得られた課題を客観的に評価して認知する知識です。
例えば、「単純作業を長時間するとミスが出やすい」「大人数のミーティングでは発言できない傾向がある」など、経験から得た問題を認知します。
3.方略に関する知識
課題解決にあたっての具体的な知識のことで、自分の能力や性格はどうなのかといった自分に関する知識と経験から得られる要素を認知します。
例えば、「時間を区切って作業すると効率が上がる」「作業順序を前もって組み立てておくとミスしない」など、課題を解決するための具体策を認知します。
メタ認知的技能は、メタ認知知識を把握した上で、客観的に現在の自分自身の状況を確認したり、問題を解決したり、対策を講じたりする能力のことです。
メタ認知的技能は、さらに「モニタリング」と「コントロール」の2つに分けられます。
1.モニタリング
モニタリングは、自分自身の認知は正しく働いているか、適切な行動がとれているかといった情報を監視することです。
2.コントロール
コントロールは、モニタリングで得た情報とメタ認知的知識から、自分の行動や対策といった認知活動を制御することを指します。
■ 感情のコントロールが可能で、常に冷静な対応ができる
■ 仕事への意欲が高く、何事にも積極的に行動できる
■ 柔軟性があり、周囲への配慮や気配りができる
■ 主観と客観の使い分けができ、相手の意図に合わせた言動や自分の行動の意図を説明できる
■ 自分の長所と短所が分かり、自分に足りない能力が見極められる
メタ認知能力が高い人は、自分自身を客観視できるため、曖昧な基準ではなく、明確な目標に向けて行動することができます。
また、主観と客観を使い分けられるので、仕事上での円滑な人間関係を築くことが可能です。
反対にメタ認知能力が低い人は、「客観的に自分を見ることができない、自分のレベルやスキルが把握できないため結果を出せない」人のことを指し、以下の特徴を持っています。
■ マイナス思考になりがちで自分を客観的に判断できず、自分を改めようとしない
■ 自分のレベルや他人のスキルを正しく評価できない
■ 自分を過大評価する傾向がある
■ 同じミスを繰り返す
■ 周囲から「空気が読めない人」「協調性がない人」と判断される
メタ認知能力が低い人は、感情に任せた行動をとってしまう傾向があります。
自分自身を客観視できないため、相手のことを無視して自分の感情に任せた勝手な行動をとってしまう傾向があります。
メタ認知能力の高い人は、自分の知識や考え方が間違っていないかどうか、客観的に認識することができ、世の中の変化に合わせて自分自身をアップデートしていく長意欲があります。
メタ認知能力を向上させると、次のようなメリットがあります。
1.課題解決力の向上
メタ認知能力が向上すると、自分自身をモニタリングできるようになり、適切な自己分析が行えます。
すると、自分自身の課題が把握でき、課題解決のために努力することが可能になります。
自分自身の課題だけでなく、他者やグループに対しても俯瞰して課題を抽出し、解決することができます。
2.コミュニケーション能力の向上
メタ認知能力が向上すると、主観と客観の使い分けができ、相手の意図に合わせた言動や自分の行動の意図を説明することができます。
これにより、協調性を高めることができるようになり、チームリーダーとして活躍したり、相手の反応や対応を踏まえたコミュニケーションが取れるようになったりすることで、お客様から信頼を得やすくなります。
3.感情をコントロールできる
メタ認知能力が高い人は、感情のコントロールが可能で、常に冷静な対応ができます。
ストレスが溜まっていても、自分を俯瞰し、「このストレスは、昨日夜遅くまで残業したせいだ。自分はストレスが溜まっているときは、大きなミスをしてしまう傾向があるので、今日は残業を避けて早く帰ろう」といったように、自分自身の行動をコントロールすることが可能です。
では、メタ認知能力を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
いくつかトレーニング方法をご紹介します。
【 瞑想 】
日々のストレスを自分でコントロールし、心のバランスを整えて集中力を高めるために、瞑想は効果的です。
Googleやヤフーなどの有名企業のように瞑想を研修プログラムとして導入している企業もあります。
瞑想の基礎トレーニング
1.<調身>リラックスして姿勢を正す
まずは体の感覚に注意を向け、リラックスして姿勢を正します。
簡単にリラックスした状態をつくるには、逆の緊張状態をわざと自分からつくります。
2.<調息>呼吸を整える
次に呼吸を調えます。瞑想では、鼻呼吸に意識を集中させます。
まずは、深い呼吸を数回おこない、その後は呼吸を無理にコントロールしようとはせず、自然な呼吸をおこないます。
3.<調心>こころを整える
自分の呼吸に意識を向け、まずは鼻腔に空気が出たり入ったりする感覚に意識を集中させましょう。
このように、「鼻呼吸に意識を集める→雑念に気づく→意識を鼻呼吸に戻す」とサイクルを回していくこと、これが瞑想の基本サイクルです。
【 セルフモニタリング 】
セルフモニタリングでは、日常でおこった問題やトラブルなどから自分の課題や欠点を抽出します。
例えば、生活しているなかで起こった問題やトラブルなどを思い出して「どんな状況だったか、そこからどんな思考をして行動したか、どうすべきだったか」を日記やメモに残しておくことで、起こったトラブルを客観視することができます。
さらに、相手から見てどうだったか、第三者から見てどうだったかも考察することで、より客観的な視点が養え、メタ認知能力が向上します。
具体的な記入方法は下記をご参照ください。
起こった問題・トラブルの振り返り方
1.起こった問題・トラブル
先方と打ち合わせの予定があったのに、先方が来ていない。上司に打ち合わせができなかったと報告したら、スケジュール管理ができていないと叱られた。
2.自分の思考
1ヶ月前に取ったアポイントだったが、覚えていない先方のスケジュール管理の方が悪い。
3.どうすべきだったか
先方は繁忙期で忙しかったので、打ち合わせを忘れていたのかもしれない。3日前にリマインドし、先方の状況を確認するべきだった。
このような、起きた問題・トラブルの振り返りを自分目線だけで完結するのではなく、上司と相談し、フィードバックを受けることで第三者の意見を取り入れることができます
自分以外の他者の意見を取り入れることで、よりメタ認知能力が向上します。
【 コーチング 】
第三者からコーチング受けることで、自分の思考の偏りに気づくきっかけをもらうことができます。
自分の思考の癖や習慣は、自分自身ではなかなか気づけないので、第三者に見てもらうことで、気づくきっかけになりますし、自分自身を見つめ直す機会を作ることができます。
まずは、上司や人事担当者などが1on1で、現状の課題を把握するためにメタ認知能力を高めたい社員にヒアリングを行います。
次に、社員の理想の状態の基準を明確にし、現状と理想のギャップの要因を上司と一緒に探ります。
そこから、具体的にどう行動するかのプランを決めて、フォローを繰り返しおこないます。
この一連の流れは、メタ認知能力が高い人が普段から実践している思考パターンです。
メタ認知能力が高くない人に対しては、上司や人事担当者などと一緒に自分自身客観的に観察する練習をすることで、メタ認知能力が向上します。
コーチングのフロー
1. 現状把握とヒアリング
2. 理想の状況を明確に
3. 現状と理想のギャップを把握し、その要因を見出す
4. アクションプランを決める
5. フォローを繰り返しおこなう
まとめ
メタ認知能力についてとそれを向上させるメリットやトレーニング方法についてご紹介しました。
メタ認知の能力を鍛えることは、社会の変化に柔軟に対応できる人間形成へとつながります。
しかし反面、メタ認知能力が高すぎる人については注意が必要です。
メタ認知の能力が高すぎると人の目が異常に気になってしまい、精神状態が不安定となりミスを犯すことがあるからです。
メタ認知能力が高い人でも、他者からフィードバックや効果的なコーチングをおこなってもらうことで、良い環境をつくっていくことが必要な場合があります。
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